ホラーおとぎ話映画『N号棟』感想文

《推定睡眠時間:0分》

廃墟と思って幽霊都市伝説のある団地に行ったらそこにはカルトな住民たちがという感じのあらすじの映画だが団地とカルトの組み合わせから俺が連想したのは元オウム信者の高橋英利がオウム回顧録『オウムからの帰還』の冒頭に置いた幼少期の記憶であった。幼い高橋はある日いつも遊んでいる団地から出て三輪車で冒険をするのだがそのうち迷子になってしまった。途方に暮れているとどこをどう通ったのか住んでる団地に辿り着く。しかし自分の家だと思って玄関を叩くと出てきたのは知らない人だった…とおよそこんな風な他愛のないエピソードだが(他の団地か棟を自分の家と勘違いしたんだろう)高橋がオウムに入信したのはその当時学生だった彼が生に意味を見出せず深刻に悩んでいたためだったので、死に憑かれてメンタル半壊状態の学生(萩原みのり)がカルト団地に吸い寄せられるこの映画とはパラレルに繋がってしまうのだ。

もっとも萩原みのりの生もしくは死の悩みは高橋のような抽象的なものではなく具体的なものであり、詳細はいや語れやと思いつつ最後まで語られないのだが彼女は脳死状態の母親の生命維持を続けるか止めるかの決断を医師に迫られていて、それが死の恐怖とその防衛反応としての自暴自棄なセックス等々の身勝手で捨て鉢な言動を引き起こしている。死んだらどうなる。死んだら何もないに決まってる。でも幽霊が存在したら? 生命維持装置を停止して母親を身体的にも死なせてしまったら、その幽霊は自分に対してどんな感情を抱くだろうか? 恨むだろうか? それとも死後の世界は素晴らしいところで喜んでくれるだろうか? 自分は母親に死んでほしいのだろうか、それとも生きていてほしいのだろうか…?

こうした死に対する複雑で混乱した思考と感情が彼女が幽霊団地で経験するかなり不条理な出来事の下地を整える。ごくごく超一部で和製『ミッドサマー』とかいう景品表示法に引っかかるんじゃないかレベルの完全なる過大評価がされているこの映画だが方向性だけで言えばまぁ確かに『ミッドサマー』と通じるところはありっていうか明らかに影響を受けており、ぶっちゃけよくわからないシナリオなのだが『ミッドサマー』同様に一種の寓話として観れば腑に落ちないところは少ないだろう。それこそ幼少期の高橋の不条理な記憶のように受け取ればいいわけだ。何が現実で何が妄想かはわからないが、その物語は主人公の心情を濃厚に反映しているのだ。

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さて『N号棟』がどんなよくわからないお話かというと萩原みのりの元カレ(でもよく会ってセックスしてる)が卒業制作で映画撮るからそのロケハンで幽霊が出ると噂の廃団地に行くっていうんで萩原みのりも元カレの今カノと一緒にロケハンについていったところ敷地内に諏訪太朗が! 諏訪太朗のハゲっぷり、ここ数十年間据え置きで役者の矜持を感じるよね~なんて話はどうでもいいのだが自称・管理人の諏訪太朗だけではなくこの団地にはなんか普通に人が住んでた。えぇ? じゃあ幽霊団地じゃないじゃん…ちょっと意気消沈する三人だったが大丈夫その後ちゃんとわけわからん怪異(?)に襲われるのでした。

いろいろある。言いたいことはいろいろあるのだがやはり最初に言っておきたいのはなんで日本はカルト宗教の乱立するカルト大国なのに邦画ってこんなにカルト宗教を描くのが下手なんすかねということだ。冷めたよ~筒井真理子の台詞とかあれはヒドいよ~なぁにこの四コマ漫画みたいに戯画化・単純化された宗教指導者像! それになんなのあのランチパーティのいかにも胡散臭い感じ! 全然宗教を信じる人たちに血が通ってないじゃないか別の意味で血は通ってましたけどねぷぷぷ! とくに笑うところではない。

序盤の雰囲気はこれぞJホラーって感じで悪くないのだがそういうわけで宗教団体編に突入すると一気にリアリティラインが下がり緊張感もバリバリ削がれる。『ミッドサマー』だけではなく『回路』とか『女優霊』とか『カニバル・カンフー』とか『ザ・ビジター』とか他いろいろ好きなホラー映画のオマージュみたいなの入れたかったんでしょうね(後ろの二つは偶然の類似の可能性高し)という感じの悪夢のように支離滅裂な展開はあえて言うなら香港ホラーとかイタリアン・ホラー的で嫌いではないが、とはいえ香港ホラーやイタリアン・ホラーのように見世物に徹してるわけではないのでゴア描写はないしオバケ描写も肩すかし、宗教描写の薄っぺらさもあり登場人物の比較的多い映画だがまったく交通整理が出来ていないのもあり(棒立ちのキャラクターのなんと多いこと!)単に出来が悪いだけの映画に見えてしまう。見えてしまうっていうか実際にそう。

でも幽霊団地のビジュアルは相当作り込んでてイイんだよな。あのきったねぇトイレとか鳥肌ゾワってなる。それにこれは音響にかなり拘ってて刃物で肉を刺す音、刃物で肉を切る音、スマホをいじる音、隙間風の音、ポルターガイストの音、粘膜と粘膜が触れ合うキスの音…と様々な音が暴力的に迫ってきて、とくにキスの音と刃物で肉を切る音などは素晴らしかったから造語すれば音響ゴア映画とでも呼びたくなる。

まぁだいぶイビツな映画だけど寓話として観れば物語に筋を通すことはできるし、雑なところも目立つが拘ったところも目立つ、ってわけでなんだかんだ面白く観られた『N号棟』なのでした。エンドロールのナンチャッテ映像もまぁまぁたのしい。

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貼りはしたもののなんで『回路』が一部の映画ファンの間でカルト的人気を誇っているのかはいまひとつわかってない。死後の生の氾濫による生の無価値化なんて星新一が『殉教』でもっとずっと洗練された形で書いてるじゃんねぇ。

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