映画『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』感想文

《推定睡眠時間:50分》

ボテロというアーティストは寡聞にしてまったく知らなかったのだが映画を観る限りでは多少の持ち上げもあるとしても現代アート界でかなり知られた人物のようで個展やりますよとか造形作品寄贈しますよとかいって本人がその地に現れるとブワッと報道陣が取り囲むぐらい注目されるっぽいことからそのほどが窺える。なんで日本であんまり一般的じゃないんだろう。わかりやすい作風だからウケそうですけどね(ちなみに現在渋谷のBunkamuraミュージアムでボテロ展をやっているらしい)

映画としては初心者にもやさしいと言えば聞こえはいいが基本的には俺が言うところのナビゲーション映画であり、作品の映像もたくさんでてくるし本人に加えて家族のインタビューも多数なのでボテロの基礎知識を得るにはうってつけだが、それ以上踏み込むことはないのでドキュメンタリー的にはあまり面白いとはいえない。あの作品の裏側にはこんな悲劇が…とか解説が入ったりするのだが歴史的な芸術作品ならほうほうそれはと関心を持てるとしても現代アーティストの作品の裏側解説なんか聞いてもなぁ俺ファンじゃないし、ってなる。

それでも観て損をした気にはならないのはボテロの作品の魅力に依るところが大きい。豊満なと邦題にあるぐらいだしポスターとかには太った人のポップアート的な肖像画が描いてあるので太ったというかどんな人でも太らせて描く人なんだろうなと思って観ているとスイカの絵が出てきてそのスイカも太ってる、それで太りバンドの絵が出てきたらギターも太ってる、街の絵が出てくると家も太ってる、ともうなんでもかんでも太らせる。これは結構強烈である。

ボテロ絵もうひとつの特徴は明るくて調和の取れた色彩だろうか。太った人物は多く戯画化されたご尊顔をしているが(地獄のミサワみたいに顔の中央にパーツが凝縮されてる)そのユーモアフェイスと明るい色の組み合わせがなにやら楽しくて人生を肯定するような印象を与えてくれる。その一方で社会と積極的にコミットするボテロはグアンタナモ収容所のダイレクト風刺画なんかも描いていて、相変わらず太った人物がキャンパスいっぱいに広がるもその背景は単色に近い灰色で、こちらは笑うに笑えない居心地の悪さを醸し出す。

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単純といえば単純だが単純さを恐れない大胆さはボテロの強みなのかもしれず、また人気の秘訣なのかもしれない。ボテロの絵を見て何が描かれているのか理解できないという人はまずいないだろうしどう楽しんだらいいのかわからないという人もほとんどいないだろう。俺は彫刻なんかは絵と比べて良さを見出せないところがあるのだが、ボテロの彫刻は単純にフォルムが面白いのでこれは実際に観てみたいなと思った。

客にそう思わせたらナビゲーション映画としてまぁ大成功なんでしょうね。この映画がというか、この映画に出てくるボテロの作品が面白いっていう映画でした。

追記:
というわけで渋谷Bunkamuraミュージアムでやっていたボテロ展にも行ってきたのでその感想もせっかくだから書いておく。今回の展覧会は場所柄大きなものではなくボテロのキャリアをざっと振り返る入門編的な色彩が強かったので俺が一番見たかった彫刻作品などはなくその点は残念だったのだが、まー終始クスクス笑いの耐えない感じで面白かった。なにせ入り口入ってすぐのところに飾られた1949年とかの肖像画の段階でもう太ってるし顔のパーツが中央に寄っている。のっけからそんなものを見せられたらそれは笑ってしまいます。思ったより太りに歴史があったことがなんだか可笑しくて。

個人的に気に入った作品をいくつか挙げるとまずでけぇ梨の絵。これはキャンバスの縦幅がだいたい3メートルぐらいある静物にしては異例のでかさの絵なんですけどその梨にちょっとだけ囓り痕がついてる。でけぇ絵だからちょっと距離を取って見ると近くで絵を見てる人が梨を囓ったように見えるっていうトリックアート的な仕掛けで(たぶん)、なかなか人を食ったユーモアで面白かった。

宗教系の絵画も面白くて太ったキリストとかも良かったんですがローマ教皇が風呂に入ってる絵っていうのがあって、これがふざけているのはその風呂っていうのが水の出る蛇口とお湯の出る蛇口がバスタブについてるだけの一般家庭の風呂で、明らかにローマ教皇が入る風呂ではないんだよな。でしかも服を着たままそこに浮いてて。これもだから風刺なんでしょうね、ローマ教皇みたいに偉い人は風呂でも豪奢な服を脱がないんだろうとか、風呂はお湯と水だけ出れば充分じゃないかとか。面白かったなこの絵も。

あとねボテロの描く人物ってなんかだいたいみんな目が魚みたいに死んでるんですよ。楽師たちっていうタイトルの絵なんかは笑っちゃったよな、五人ぐらいの男が楽器演奏しながらこっち見ててその目が全員同じ死んだ目! でも例外もあってパロディ肖像系の…とくに女性を描いたものは男に比べて目にちゃんと表情がある。このへんの描き分けはボテロの特徴のひとつなのかなとか思ったりします。

ドローイングもよかったな。普通ドローイングなんて面白くないからぱっぱっと見て済ませちゃいますけど今回展示されていたのはドローイングを水彩でちょっと塗ったもので、この塗りと線が肉体のボリューム感を見事に出しているわけです。スタイルだけじゃなくてちゃんと地力のある人なんですよねいや当たり前なんだけど。他にもカプセル怪獣みたいなの(ガーゴイルらしい)が空を飛び回ってる落書きみたいなやつとかカラフルな色彩が楽しいサーカスのシリーズとか面白いのたくさんあったんで、これおすすめの展覧会です。

【ママー!これ買ってー!】


画業30周年記念 漫☆画臭

ボテロに対抗できる日本のアーティストといったら誰なのかなと観ながら考えていて稲妻のように脳天を直撃したのは巨匠・漫☆画太郎先生でしたので先生の画集いや画臭を貼っておきます。

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