飛島よいとこ一度はおいで映画『島にて』感想文

《推定ながら見時間:15分(vimeo鑑賞)》

またもや村もの! しかも東北! 良い映画だと思うのだが福島第一原発事故によって長らく避難指示に対象となっていた福島県双葉郡にある広野町というところ(村ではなかった)の復興過程に寄り添ったドキュメンタリー映画『春を告げる町』を観たのはほんの1週間前かそこらのことであったからどうしてもまたか感が出てしまう。

こちら『島にて』の舞台は反対側山形県に属する離島・飛島。広野町と違って飛島にはなにかコミュニティの存続を脅かす外的要因があったわけではない(まぁ間接的であったり構造的な影響はあったにしても)が単純に不便なので人が来ないし人が出ていく。その一方で本土から飛島を眺めることで島からは見えない魅力を再発見した人なんかが新たに住み着いたり戻ってきたりもする。出ていく人と戻ってくる人、島に住み続ける人、その狭間で戸惑う人。だいたいそういうのをカメラに収める。

またかと思ってしまうのは『春を告げる町』の記憶も新しい中で観たからではあるが、ドキュメンタリー映画にならないだけでこういう限界コミュニティは日本中たくさんあるのだろうし、半ば「地方」の記号と化してその断片が流通しているせいもあるんだろう。わりと全編デジャヴュの嵐。飛島を見たのも存在を知ったのも初めてのはずなのにいつかどこかで見た映像しかない。

たとえば、生徒が一人しかいない中学校とか。こういうのテレビのドキュメンタリーとかで結構やりますよねぇ。たとえば、歴史とか文化も含めた島資源を生かした新事業を始めた若い人たちの挑戦とか。これもテレビのドキュメンタリーとかで結構やる。その他、後継者がいないので一人で複数集落の祭事を担当する中高年宮司とか、誰に頼まれたわけでもなく定年後(?)の趣味で海岸清掃をする中高年とか、なんだか全員知っている人のようである。

なにか意図があってそうしているという気はあまりしないのだが島住民の一人で一度は東京で就職したもののアラフォーぐらいで漁師をやるために島に戻ってきた老人が、その時にテレビ局に撮られたらしいインタビュー映像をビデオかなんかで見る、というメタ的な場面がある。その映像はカメラに写らないのだが、マイクが拾うこの漁師さんの当時の声だけ聞くと、何十年か前の出来事のはずだがあまり時の経過は感じない(漁師さん本人もそんな前だっけ? とか言う)

そうかぁ、過疎と限界集落のイメージはこんな風にずっと前からみんなが共有してて、でもずっと前から基本的にみんなどうにもできなくて今に至るんだねぇ、と、なにやら侘しい気分にさせられるのだった。

もっとも映画全体としてはわりあい希望の持てる作りというか、良い明日が来るといいね、みたいな感じになっているので悲壮なところは別にない。映画の前半は島に骨を埋めるつもりっぽい主に高齢の島人たちとその文化を、後半は若手有志が結成した合同会社とびしまの活動を主に捉える。最後は一日一便の船で島を去って行く島ツアー客と思しき人々を見送って観ているこちらも観光気分、ヴァーチャル潮風に当たって後味さわやか。

…しかしそれが逆に侘しさを増すというか、この感覚はなんで生じるんだろうなぁと考えてみてあぁそうかと思い当たったのがこの映画、色んな島人が出てくるが、その横の繋がりの方はほとんど画面に出てこない。あの人はあっちでゴミ拾ってる、あの人はこっちでタコ漁やってる、それからあの人はそっちで観光客呼んでバーベキューイベントやってる…というのはわかるのだが、ゴミ拾ってる人がバーベキューイベントをどう思ってるのか、バーベキューイベントやってる人がタコ漁やってる人をどう思ってるのかとか、タコ漁の人はゴミ拾いの人を…というのがあまりわからない。

みんな他人にとやかく言われず好きなことやれてていいじゃんという風にも見えるし、過疎地のコミュニティの維持がいかに難しいかを生々しく切り取っているようにも見える。どちらかじゃなくて両面あるんだろうな。自由だけど寂しい、寂しいけど自由。島でただ一人の中学生男子の何かわだかまりを抱えているようなのだけれどもそれを必死に押し殺しているような陰のある表情(※単に撮られるのが嫌だった可能性もある)はその過疎地ジレンマを象徴しているようで印象的だった。まぁ、普通に考えて大変だよね、一人学校。生徒よりも教師が多い給食風景なんて見ていて息苦しくなってしまった。

高齢化の進行と足並みを合わせてコミュニティの風化は進んで、なんとか島に活気を取り戻そうと入ってきた合同会社とびしまの若い人たちは、それを再生させるというよりは別の新たなコミュニティの形を模索しているようだ。詳細は知らないし間違ってるかもしれないのだが、なんでも会社の人によると一年の半年は有給で島に居ても居なくてもいいんだとか。ええっ! 今すぐ超入社したい!

まぁ、実際はそんな夢みたいな話じゃなくてネオ農業的な稼働スタイルということだろう。ネットに常接されているから離れていても繋がってる。あるいはネットに常接されているからこそ忙しない現代社会から切り離された離島にあえて集まる。持続可能性という言葉の浮かぶなかなか先進的な取り組みのようだ。シリコンバレー臭がする。
個人のアトム化を前提としたその新しいコミュニティ(+ビジネス)の在り方は島の誰かにとっては良いことだろうし、誰かにとってはきっと悪いことだろうけれども、良いも悪いも含めてとにかく島の季節は巡っていく。答えはないし、そんなもの時代と共に変わっていくんだろう。

哀しいような楽しいような、優しいような厳しいような、なんとも言えない味わい深いドキュメンタリー映画でしたな、『島にて』。さてあの中学生男子は両親の希望通り漁師を継ぐのだろうか、それとも島を出て新たな道を探すのだろうか…。

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過疎の港町ドキュメンタリー。猫がいっぱい出てくる。

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