《推定睡眠時間:15分》
舞台はたぶんタイのはずなのだがトニー・ジャー以外に登場するのは華人ばかりで言語も中国語と英語でタイ語はなし、テレビニュースは英語に吹き替えられているのでどこの国でジャーが怒り狂っているのか混乱させられるが、おそらくこれはハリウッド映画で他の国が舞台なのにみんな英語を話すとかそういうやつの中国版なんだろう。観光地巡りとかをするわけでもないしそうなるとタイが舞台の意味があんまりないような気がするのだが、麻薬関連の裏社会人をトニー・ジャーが片っ端から処刑していくという内容の中国資本映画なので薬物犯罪に超厳しい中国では「ウチの国でこんな無法が蔓延ってるわけないじゃないですか!」ということで撮影許可が下りなかったのかもしれない。実際タイというのは中国の犯罪組織の海外拠点となっている面もあるそうで、ジャーもゲスト出演した香港映画『ドラゴン×マッハ!』も中国系の犯罪組織がタイ・ルートを使って悪いことをしている映画であった。
てなわけで『ドラゴン×マッハ2!』という感じの『ザ・レイジ』である。『ドラゴン×マッハ!』ではゲスト出演だったので途中退場したトニー・ジャーだったが今度は主役、しかも妻子が裏社会に殺されド怒り心頭のトニー・ジャーである。こうなれば途中退場の心配など無用だ。怒ったトニー・ジャーは闘神なので致死量のダメージを受けても死なないことが『トム・ヤム・クン』などで科学的に証明されている。思えばトニー・ジャーがかなり珍しく途中で死んだ『ドラゴン×マッハ!』での役どころはジョーク好きな気の良い警官であり、全然怒ったりしていなかったから致死量のダメージを受けて普通の人間みたいに死んでしまったんだろう。
怒ったトニー・ジャーは死なないわけだが怒ったトニー・ジャーに捕捉された裏社会人は膝蹴りか肘打ちを食らって死亡確定である。しかも今回は冒頭の時点で既にトニー・ジャーの妻子が殺されている。裏社会人にとってこれほど絶望的な展開があるだろうか。映画開始5分で早速ろくに画面に映されることさえなく20人ぐらいの裏社会人を始末するトニー・ジャーなのでこれからの約2時間でいったい何人殺すのかと恐ろしくなるが、そこで物語は意外な方向へ。トニー・ジャーが復讐ターゲットとする裏で麻薬を扱ってる疑惑のある大物華人(フィリップ・キョン)の娘が俺の寝ているところでどうやら何者かに誘拐されてしまい、俺の寝ているところでどうやらトニー・ジャーがこの娘を助け出したようなのだ。
ということは敵はフィリップ・キョン一人ではない。かくしてトニー・ジャーはにっくき敵の娘と共にタイ裏社会を巡り妻子殺され事件の真相を掴みつつ復讐を遂げようとするのであったってなわけで主演はトニー・ジャーだがストーリー的には様々な勢力の思惑が交錯する犯罪群像劇、資本的には中国映画なのだが『ドラゴン・マッハ!』のフィリップ・キョンと『導火線 FLASH POINT』のシン・ユーという香港カンフー・ノワール畑の役者さんが出演しているところを見るとそのへんを意識した中国産香港カンフー・ノワールという感じの映画なんだろう。いろんな勢力の思惑がやたらと入り乱れるのは香港ノワールのお約束である。
そのようなちょっと複雑なシナリオを持つ映画なのでトニー・ジャーがド怒り一直線で死体の山を積み上げていくかつての主演作のような疾走感はあまりなく、フィリップ・キョンの娘の心情描写にわりかし時間を割いたりもするので結構スロースターター、トニー・ジャーがブチキレているにもかかわらず序盤はちょっと眠くなってしまう。とはいえそこはトニー・ジャー、そして香港カンフー・ノワールである。ハンドアックスで林家パー子みたいに笑いながら人を切り刻むのが趣味の狂戦士(ワン・チェンシン)がド怒りトニー・ジャーと対決するあたりからスイッチが入り以降怒濤のブチキレバトル、安宿の廊下でトニー・ジャーが一山いくらの殺され役悪人たちを30人ぐらいナイフと関節でぶっ殺していく場面などは近年のトニー・ジャー・アクションの中でもピカイチのナイス・ファイトだったんではないだろうか(リアルに死人が出ているようにしか見えないショットがあったが無事であることを祈る)
あと今回思ったのはトニー・ジャーが他のアクションスタアと違うのって殺意と殺気の強さだよねっていう。そりゃもちろん身体能力と戦闘技術もすごいんだけどそれ以上に「これは殺されるわ。怒らせないどこ」って観てるとめっちゃ思うからトニー・ジャーは。いろんな国でいろんな映画やって演技力が上がったっていうのもあって今回もアクションに漲る殺意と殺気は凄まじかったですよ。それを生かし切った映画になっているかというとフィリップ・キョンの見せ場も作らないといけないとかこれは中国映画なので反薬物啓発シーンを必ず入れないといけないとか横道が多くて微妙な感じではあるのだが、でもまぁね、事件の黒幕に辿り着いての結末はトニー・ジャーの殺意と殺気があってこそ生きるもの、無駄な殺意と殺気ではなかったね。
もうちょっとラストバトル周辺は盛り上げることができたんじゃないかとか敵の強いヤツの出方が唐突とかトニー・ジャーとシン・ユーの達人決闘はアクション自体は良いけど見せ方にもっとケレン味を出して欲しかったとかいろいろ思わなくもないとしても、やはり映画館の大スクリーンで浴びるトニー・ジャーの殺意と殺気とブチキレ殺人は格別、違法薬物をやってはいけないという以上にトニー・ジャーを怒らせてはいけないという人生の最重要教訓も学べる、実に教育的かつ怒り心頭のトニー・ジャー映画にして中国産香港カンフー・ノワール映画であった。
通りがかりのトニージャーファンです、全くおっしゃる通りの素晴らしいご感想!久しぶりのトニージャー大殺戮を見れた大満足感がさらに満たされました!
ただ、客演でふつうに死んじゃう陽気な刑事トニージャーはドラゴンマッハでなく「狼たちの処刑台」です…!そこだけ…!