《推定睡眠時間:60分》
なんという邦題だ。面白いか面白くないかは知らないがこんなものは絶対に観に行かなくてはならないという強迫観念に駆られてしまう。『インランド・エンパイアの怪事件』である。インランド・エンパイアといえばもちろんデヴィッド・リンチのアート大作『インランド・エンパイア』だろう。リンチの方の『インランド・エンパイア』はポーランドにあるインランド・エンパイアという場所がタイトル由来だし、『インランド・エンパイアの怪事件』の方はアメリカのインランド・エンパイアという場所が舞台であるから(そんな地名が実際にあるのかは知らないが)、綴りが同じというだけで内容的な関連は一切無い。
だがしかし、『インランド・エンパイア』は改装前の恵比寿ガーデンシネマに観に行った二十代の俺をいたく感動させて未知の世界への扉を開いてくれた心の映画の一本である。何は無くともあのエンドロールのあてぶりダンスは素晴らしい。映画史上最高のエンドロールではないかと真剣に思ってしまうほどだ。その『インランド・エンパイア』のタイトルをいただく『インランド・エンパイアの怪事件』なのだ。わかっている。本当にわかっている。『インランド・エンパイア』と『インランド・エンパイアの怪事件』は一切関係がない。それでも観に行かなければならないのだこんな邦題にされたら……!
実際に観る『インランド・エンパイアの怪事件』はたしかに『インランド・エンパイア』とはミリも関係なく(原題は単に『STRANGE HARVEST』)、これはウソ事件のウソ関係者のインタビューと流出映像で構成されたフェイク・ドキュメンタリー・ホラーであった。ずっと抑揚のない無味乾燥な会話(インタビュー)が続くので早々に眠くなってしまいほとんど観られていないが、なんかどうも儀式殺人めいた事件が発生してその現場には犯人が残したと見られる謎のサインあり、そのサインは何年か何十年前かにも別の事件の現場に残されたものであった……とかなんかそんなお話のようだ。
この手の関係者インタビュー主体のフェイク・ドキュメンタリー・ホラーの起源はおそらく1998年の『ジャージーデビル・プロジェクト』だろう。フェイクドキュメンタリー・ホラーというとその翌年公開の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が大きな話題を呼んだので『ジャージーデビル・プロジェクト』の方は歴史に埋もれてしまった観があるが、案外こちらもホラー映画業界に与えた影響は少なくないらしく、2003年の『ラスト・ホラー・ムービー』や2008年の『The Poughkeepsie Tapes』は『ジャージーデビル・プロジェクト』の後続作品と言ってよい(なにせ『ジャージーデビル・プロジェクト』は原題が『The Last Broadcast』だが、『ラスト・ホラー・ムービー』は『The Last Horror Movie』なのだ)
そうした『ジャージーデビル』の系譜に連なる『インランド・エンパイアの怪事件』だが、作品の構成こそ『ジャージーデビル』とほとんど同じでも、『ジャージーデビル』とその後続作品に共通する「画質の粗い素人ビデオテープの不気味さ」はあまり出ておらず、このへんスマホでさえ動画品質が大幅にクオリティアップしてしまった現代が舞台なので仕方の無いところではあるのだが、ヤバそうな殺人鬼と残虐な殺人が数々出てくるにもかかわらず、なんだか知らんがヤバイものを見ているという感覚があまり感じられなかったのはちょっともったいないところだったんじゃないだろうか。
寝ていたのでお話の内容は知らない(そんな堂々と書くことではないかもしれないが事実は事実なのだからしょうがないのだ)。だからもしかしたらお話は面白かったのかもしれないが、いかんせん起伏の無い関係者インタビューが長いのと映像に禍々しい質感がないっていうのであんまり面白い感じはなく、その平板な映像と語りは俺の意識を俺のインランド・エンパイアへといざなうばかりだ。通しでちゃんと観てたらもっと良いところをいろいろ見つけてあげられたのかもしれないが、寝ていた人間の感想としてはこんなもんである。