銃撃こわい米国こわい映画『ハンテッド 狩られる夜』感想文

《推定睡眠時間:0分》

近辺に建物らしい建物のない深夜の田舎のコンビニ併設ガソリンスタンドに立ち寄ったら闇夜の中に正体不明のスナイパーがいてコンビニの外に出ると脳天を狙撃されるから下手に動けずという『フォーン・ブース』を彷彿とさせなくもないシチュエーションの映画で2014年のスペイン映画『シャドウ・スナイパー』のリメイクらしいのだが、その血の気の多さと発想からいってこれはむしろリメイク化権を取るとしたら北村龍平の『ダウンレンジ』なのではと俺は思うのですがどうでしょう。まぁどうでしょうと言われても困りますよね。いいんだ気にしないでくれ。

とにかく世の中には正体不明のスナイパーが遠くから一方的に襲ってくるコワイ映画が結構あるということです。比較的最近のものとしてはダグ・リーマンの『ザ・ウォール』もそうですし、古くは『パニック・イン・スタジアム』『パニック・イン・テキサスタワー』『殺人者はライフルを持っている!』などもその範疇というか元祖のようなものかもしれません。世の中にはというかアメリカ映画ばかりだな。アメリカはいつどこでスナイパーに撃たれて死ぬかわからないコワイ国ということでしょう。実際300人以上の死傷者を出したラスベガス乱射事件とかもあったわけだからジョークになってない。

さて『ハンテッド』でありますが監督フランク・カルフン×製作アレクサンドル・アジャの『マニアック』な信頼コンビ(でもなぜか世間的な評価は低めである)の作というわけで今回もバイオレンスが冴えておりました。まー世にはというかアメリカにはスナイパー映画とか銃乱射映画とかが上に挙げましたようにたくさんあるわけですけれども銃撃のコワさでいったらこれはその中でも頭一つ抜けているんじゃあるまいか。数で恐怖感を煽る自動小銃と違いこちらはスナイパーライフルなので銃撃の数は少ない代わりに一発一発が実に重い、一般的に映画の中のアメリカ人は銃を5発ぐらいまでなら食らっても耐えられると研究機関が発表しておりますが、いや、死ぬ死ぬ、全然死ぬって。一発食らっただけでも全然死ねるよ銃。

主人公が食らう最初の一発はおそらくわざと頭を外して二の腕なのですが、撃たれた二の腕もうめっちゃ痛ぇ死ぬマジで助けて。二の腕なんて別に命に支障はないでしょ(笑)とツイッターの頭でっかちなくせに頭の悪いミリオタなら言うかもしれません。しかし実際に…といってもこれも映画の中のことではあるが、この映画の中で二の腕を撃たれた主人公はぐぎゃああああとものすごい叫び声を上げてコンビニの床をわけもわからず血を塗りたくりながら這いずり回るのです。その演出の生々しさとねちっこさ! もう観ているだけでひ~痛い~ってなもんでさすが信頼のカルフン×アジャである(なのにどうしてこのコンビの人気が日本では低いのだ!)

銃撃の暴力性を過剰なまでに見せつけてショッキングに幕を開けるこの映画だったが、その後カルフン×アジャ作『P2』のごとく孤立無援の限定空間サバイバル(コンビニに売ってる色んなものを思いがけない方法で使う創意工夫がたのしい)を経て物語はアメリカの分断に切り込んでいく。詳細につきましてはみなさん劇場でご覧になってお確かめくださいに留めておくがイイなと思ったのはアジャはフランスの人だからアメリカ資本で撮った『ヒルズ・ハブ・アイズ』にしても『ピラニア3D』にしてもそこには第三者的なアメリカ批判がわりかしハッキリと見える。

『ヒルズ・ハブ・アイズ』はまぁその被爆者の扱いはどうなんだとか思うところもないではないですが原爆というアメリカの行使した極限の暴力がアメリカ人に跳ね返ってくる構図の強烈なバイオレンス映画だったし、『ピラニア3D』は血まみれのバカ映画だがそこにはアメリカの軽佻浮薄な若者カルチャーとかそれに乗っかってAVで一稼ぎしようとする業界人の風刺があったわけです。とくに『ヒルズ・ハブ・アイズ』は殺人ファミリーに襲われる被害者ファミリーに民主党支持者の人と共和党支持者の人がいて反目しているというのがアメリカ批評として優れていた。アメリカの極限暴力が生み出した殺人ファミリーとの文字通り血みどろの戦いの中で共和党支持者のオヤジはあっさり殺される一方で民主党支持者で銃規制派だったオヤジの義理の息子はしぶとい抵抗を見せてついには『マッドマックス2』みたいなバイオレント戦士として生まれ変わるのです。

彼が家族のもとへ帰還するラストシーンにはなにやら勇壮な曲が流れる。民主党的建前をかなぐり捨てて殺人ファミリーをぶっ殺すことで家族を救ったのですからこれはなんだかハッピーエンドのような気がしてきます。しかしその後に続く映像は「一度はじめた戦争は終わらない」と示す皮肉なもの。たしかにこの家族はぜんぜん悪いことをしてないのに殺人ファミリーに殺されかけたというか家族の何人かは殺されているので、民主党支持者が武器を手に立ち上がり殺人ファミリーをぶっ殺し返すというのは正当防衛っぽい感じです。けれどもじゃあ原爆実験によって生まれた殺人ファミリーの方は暴力の被害者ではないんでしょうか。

もちろんそんなことはなく、実は『ヒルズ・ハブ・アイズ』に登場する殺人ファミリーと被害者ファミリーはどちらも暴力を受けた被害者でありながら暴力を行使する加害者でもある、というのがこの映画の隠れたポイント。それが正当防衛であれなんであれ暴力は結局のところ暴力なわけで、暴力の連鎖を暴力で止めようとすれば更なる暴力を呼び込む結果になるだろうし、そもそも核実験と核投下を是認したアメリカ国民はたとえ一般人だとしてもその決断と結果に対して責任があるんじゃないのか、その責任をアメリカ国民は果たしてないんじゃないのか? というのが『ヒルズ・ハブ・アイズ』が仄めかすアメリカ批判なのでありました。

そのような鋭利なアメリカ批判はこちら『ハンテッド』でも健在、たしかに夜闇に紛れてスナイパーライフルで人を狙撃する人は明らかに悪いわけですが、しかしそれはそれとして夜闇に紛れてスナイパーライフルで人を狙撃するような人を作り出してしまったアメリカ社会に問題はなかったのだろうかというと、おそらくそんなことはあるまいなのであります。だからこの映画は決してハッピーな感じには終わらない。ホロ苦い後味を残すその結末は、被害者であるはずの主人公も夜闇に紛れてスナイパーライフルで人を狙撃するような人を作り出してしまったアメリカ社会の一員であって、だからいささか理不尽にも感じられるでしょうが、なんの罪も責任もないわけではなかったということを示すように俺には思えます。

思えばイラクの砂漠で米兵が姿の見えない謎のスナイパーに一方的にライフゲージを削られていく怪談話のような(※日本版予告編では稲川淳二がナレーションを担当していた)『ザ・ウォール』においても、あたかもその暴力は米兵がイラクで行使した暴力が鏡にぶつかって跳ね返ってきたものであるかのように描かれていたものでした。アメリカ映画に頻出するスナイパー恐怖とはもしかしたらそんな風に、自分たちの行使してきた様々な形の暴力に対する怯えや自責の念が生み出したものなのかもしれません。で、この『ハンテッド』はそのことをきわめて意識的に描き出した本格社会派のバイオレンス・スリラーであったというわけです。おもしろかった!

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