【後編】全作感想『シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2021』

【前編】全作感想『シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2021』に続いて前編に書けなかった残り三本、『スリープレス・ビューティー 戦慄の美女監禁実験』『ロスト・ボディ~消失~』『BECKY ベッキー』の感想文。前編三本はわりと笑える映画でしたけどこっちはなんか三本ともシリアス路線で笑える感じとかあんまりなかった。そして怖い感じもあんまりなかった。あとファンタスティック感もほとんどない。…いや別に悪口ではないよ? 面白かったけど面白さのベクトルがこっちの三本は違ったということ!

『スリープレス・ビューティー 戦慄の美女監禁実験』

《推定睡眠時間:0分》

導入部だけ見れば攫ってきた主に女の人を監禁して拷問するサマを延々見せるホラー映画の悪趣味サブジャンル通称トーチャー・ポルノの典型だが、ひたすら泣き叫び呻き苦しみ決して通ることのない拷問部屋(っていうかソ連時代の廃工場みたいなところ)からの解放を拷問者に懇願し続ける監禁主人公の姿は観ていて可哀相になるのでツラさがあるものの、拷問描写自体は意外とヌルめでむしろ映画の眼目はなぜ主人公が監禁されたのか、監禁&拷問者の目的は何か、といったミステリーに置かれている。

答え合わせはラストでちゃんとされるしそんなに凝ったオチでもないので30分ぐらい観ればなんとなく分かってしまうんじゃないかと思うが、その表面的な答えに隠された答えの答えはわりあい興味深いものだった。これは仄めかされるだけなので多少妄想のウイングを側頭部に広げてあれこれ推測するしかないのだが、おそらくはロシアにおける(※ロシア映画です)ソ連回帰を標榜する極右主義の台頭とその様々な国家機関への密かな浸透がこの映画の背景に描きこまれたものである。

トーチャー・ポルノで女が拷問されがちなのは女を拷問した方が観てるやつが厭な気分になるからという誠に厭な理由によるが、ここでは主人公の性別と同じぐらい外国語教師の職業設定も重要であり、冒頭で語られる融和的・国際協調的なロシア大使のスピーチと合わせて考えれば、そうしたロシアの文化的解放を良しとしない勢力の存在が浮かび上がるのだ。監禁部屋で目覚めた主人公が最初に受けた拷問が中絶の過去に対する罰だったことも故無きことではおそらくはない。言うまでもなく女の権利などは極右の最も憎むものの一つだからである。

スリープレスとか言ってるくせに眠らせてもらえない苦しみもろくに描かないし途中で挿入される悪趣味アートアニメも面白いけど拷問というには弱いしで、それだけ見れば多少不快ではあっても恐怖度的にはあまり大した映画ではないのだが、トーチャー・ポルノのガワを借りて現代ロシアの無関心社会や強権的保守政治(が生み出した極右主義)の批判を展開した映画と思い込めば一気にそこそこ大した映画になる、まぁあれですねイーブイはそのままだと弱いけどサンダースとかブースターとかいろんなやつにトレーナー次第で進化できるから潜在的に強いポケモンみたいな…なんで最後にそのたとえ出したの!?

『ロスト・ボディ~消失~』

《推定睡眠時間:5分》

たぶん今年のシッチェスファンタ特集ラインナップの中で一番メジャー寄りの作品。これはホラーではなく少しだけツイステッドなミステリーで、ウェルメイドに完成されているのでシネコンは厳しいとしてもミニシアター系なら普通に単体公開されていてもおかしくない感じ。まぁ色々勘案してそれじゃ稼げそうにないからってことでシッチェスファンタの枠に入ったんだろうな。俺もこれを単体公開で観てたらまたつまんねぇ映画引いたなって思ってたと思うもん。そんな映画でもこうやって特集上映でほかの映画と一緒に観ると何割か増しで面白く見えるから特集上映っていいものですね☆

でストーリーはなんでかこれも『スリープレス・ビューティー』と同じくスピーチから始まるんですがこっちでスピーチをしてるのは大使とかではなく主人公のオッサン建築家。講演会っていうか新プロジェクトのお披露目会みたいな場でアフリカの子供たちのために云々と理想主義的なスピーチして満場の拍手を浴びる成功した人というキャラ見せで既に「こいつ嫌な奴なんだろうな」感がぷんぷんである。嫌なのはそこに反感を覚える俺の性格なのではないかという疑惑もあるがそれには触れないでおこう(血が噴き出すので)

でその人が講演を終えて土砂降りの雨の中タクシーで空港に向かってるとずぶ濡れのヤングウーマンがすいませんタクシー拾えないんで同乗させてくれないっすかね~とやってくる。それが悪夢の始まりで、この厚かましい謎のヤングウーマンの別に聞きたくない猟奇的な過去エピソードをあれこれ聞かされているうちに主人公はのっぴきならない状況へと追い込まれていくのでした。やっぱ知らない人とは安易に身の上話とかしない方がいいな外国の空港近くとかで。

ミステリーとしてはぶっちゃけありがち。謎のヤングウーマンを演じたアテナ・ストラテスの繊細で不安定な芝居は結構魅せるがそれ以外はまぁ…映像はキレイだしトリックは丁寧だし謎解きもなかなかシャープに決まって88分と無駄なくまとまった小品ですけど、でもこういうの洋画でも邦画でも映画でもドラマでも何十回も観てるしなぁみたいな。面白かったですけどね。空港模型、枯山水、ドミニク・ピノンのゲスト出演が印象的。

『BECKY ベッキー』

《推定睡眠時間:8分》

母親の死とその傷も癒えない内の父親の再婚によって若くしてすっかりやさぐれてしまった万引き少女の前にネオナチ脱獄犯グループが現れちゃったもんだからさぁ大変! 少女がではなくネオナチ脱獄犯グループが! ゆーて子供でしょ的な感じでわりと手加減してくれるネオナチ脱獄犯たちをブチキレ少女ベッキーは今こそフラストレーション発散チャンスとばかりに刺す、砕く、刻む、轢く、撃つ、など様々な殺人手法で潰していくのであった。子供はわかってくれない。

要するに人が死んで血が飛び散る版の『ホーム・アローン』でベッキーちゃんのお子様とはいえいささか容赦のなさすぎる殺りっぷりが面白い映画なのだが、そのプロットとキャッチーなオープニングタイトルに反して温度は低く陰鬱なムードが全編を覆う。実はこれもちょっとミステリーが入ってる系で、脱獄する前のネオナチの惨めな刑務所生活とベッキーちゃんの学校生活がカットバックでシンクロする冒頭から、このネオナチ脱獄犯というのはベッキーちゃんの空想の産物なのでは? と思わせる叙述トリック的な仕掛けがある。その核心を明らかにしないまま映画とベッキーちゃんのネオナチ殺しが進んでいくので妙な居心地の悪さがずっと持続するわけです。

果たしてベッキーちゃんの身に実際は何が起こったのか。これが現実だとするならネオナチ脱獄犯の目的は何なのか。そのへんはまぁ各自映画を観て確認してくださいですがただ一つ明らかなのはめちゃくちゃな巻き添えを食らったベッキーちゃんの父親の再婚相手(子連れ)だいぶかわいそう。

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