釈ショック映画『ロックダウン・ホテル/死・霊・感・染』感想文

《推定睡眠時間:0分》

釈由美子の海外映画初出演作だそうですが釈認識がお行きなさいのドラマで止まっている人なのでこんな映画というのもなんだが芯の入った演技をしていて驚いてしまった。釈由美子の役どころはDVだかなんだか知らんがダメ男の魔手から逃れてホテルにやってきた妊婦というところでこちらもマウンティング暴力夫により心身ともにすり減っている主人公カロライナ・バルトチャクとのちょっとした会話で見せる心の機微なども見事であるが、デスウイルス(新型インフルエンザという設定)に感染して痙攣気味に廊下を這いずる場面合計約10分で見せる身体表現力の高さには思わず唸ってしまい、この人がそういえば(完全にネタ扱いして見てすらいなかった)『修羅雪姫』においてドニー・イェン×谷垣健治&下村勇二(そして監督は佐藤信介)とかいう今となってはネタ枠に入れていたことをビルの10階からスカイハイしながら全力で謝罪するしかないアクションチームの指導のもと堂々主演を張っていたことを思い出し今度は20階から釈さんナメててすいませんの土下座スカイハイをしてしまう。

しかしだ。しかし…釈さんをぶっちゃけナメていたのは果たして俺だけであろうか。俺だけだとしたらもう全身の骨という骨がボッキボキのまま30階まで上がりますけれどもこんなに能力のある人を邦画業界はちゃんと活用していなさ過ぎるんじゃないですかね。テレビドラマとかにはコンスタントに出ているようであるがいやーその枠はもったいないんじゃないですかーそれはー。もちろん釈さんサイドの意向とかもあるのでしょうけれども水野美紀とか武田梨奈とか土屋太鳳とか芝居もできてアクションもできてという女優の人がその能力からすれば不当なほど脇に追いやられがちな邦画業界であるから釈さんもやはりその一人と言えるのではあるまいか。

釈情報が「釈お酌」と「お行きなさい」からアップデートされていなかった俺であるが今は『ロックダウン・ホテル』を観て完全にアップデートされましたからこれはもう手に持った徳利でお酌相手の頭頂部をぶん殴ってお行きなさいですよ。どんどん海外お行きなさいむしろ行ってください邦画なんか捨てて! 平成ゴジラ俳優の一人にして『修羅雪姫』の主演でありこの『ロックダウン・ホテル』では「英語ネイティブではないが日常会話やビジネス会話は問題ない人」という微妙なラインの英語芝居を難なくこなしたぐらいのハイスペックハイ経歴なのであるから本来ならば小栗旬なんかよりよほど『ゴジラVSコング』とかに呼ばれるべき人ですよこの人は! その証拠に『ゴジコン』の小栗も『ロックダウン』の釈も共にトランス状態で白眼を剥いている! …証拠に?

でも『ロックダウン・ホテル』は釈由美子だけじゃなくて主人公のカロライナ・バルトチャクもその夫役のマーク・ギブソンもかなりいい芝居をしていて、トカナ配給のカマし邦題とはいえまさかこんなタイトルの映画でそんな展開が見られるとは思わなかったのだが、実はこの映画はDV夫から逃げようとする妻の暗闘を描いたドメスティック・サスペンスとして丁寧すぎるほど丁寧に撮られているのであった。

この夫のDVというのは直接的には出てこないのですが妻がまだ幼い娘に言う「(自分は)階段から落ちて骨折した」などなどの台詞から窺い知ることができるし、DV夫(らしき)から逃れてきた釈に向ける無言の眼差しからも察せられる。お話はこの夫婦+娘一人が新型インフルエンザが流行ってるときにホテル旅行にやってきたところホテル内というか正直に言えばホテルの廊下のみで感染が爆発してしまうというものですがなんでそんな状況で旅行来るのよといえばこの夫婦は夫のDV原因で離婚の危機にあって、でも夫は離婚したくないし妻の方もいまひとつふんぎりがつかない、そういう状況で一旦クールダウンしようってんでギスギスしたままホテルに来た「っぽい」のですが、具体的には描写されないのでわからない。

『シャイニング』をベースにしたと思しき険悪夫婦ドラマは芝居にたっぷり間をとって観客に行間を読ませるタイプで、夫のなんでもない一言にいちいち神経を尖らせる妻と妻のなんでもない一言に表面上は穏やかだが心中青筋を立てている夫の今にも爆発しそうなやりとりは思いのほかサスペンスフル、その間には鎹というよりも緩衝材として娘がいるわけですが、夫婦の暗闘はいつのまにかどっちが娘に好かれているかのアピール合戦の様相を呈してきて、いつこの危うい均衡がぶっ壊れるのかと気が気でない。

いや~こわいな~。そこに死霊だか感染だか知らないけどそういうのも絡むわけでしょ~。いや~怖いな~。いや~…全然、絡んでこなかったね。ぜ、全然絡んで、こない! いや絡んでは来るんですが『死霊のしたたり』みたいな蛍光薬を持ったマッド博士みたいな人も出てくるのですがそこでおーゾンビ展開か~!? って期待すると全然なにもなくて! いや、だから、なにもないことはないんですけど、なんかホテルの廊下で…廊下だけで五人ぐらいの宿泊客と釈由美子が呻いているだけっていう! ていう!!!!!

まぁロックダウン映画ってことなんでしょうね。人がめっちゃ集まるシーンとか身体接触しまくるシーンとかは撮れないからホテルのワンフロア貸切ってそこだけで撮ろうみたいな。わかる。それはわかります。しかしせめてオチぐらいはちゃんとつけてくれないと…衝撃のエンドマークだったなあれは。『首だけ女の恐怖』ぐらいの衝撃。あのシーンとかあのシーンとかあの釈由美子はなんだったんだ。それはお前ロックダウンとか関係なく脚本家が投げたろ結末。なんでもいいからなんか付けろよオチを…マジでなんでもいいから! 夢オチでもいいから! 夢オチでさえないとかすごくないか逆にっ!

なんで伝染病要素入れてきたんだろ。ドメスティック・サスペンスとしては良くできていたから中途半端な伝染病パニックとか抜いてそれだけで最後まで行けばよかったのに。それだけで売り物になるかという興行的な判断は別として確実にそっちの方が面白かったし好感度も高かったよな。お芝居とか台詞とかは本当よかったですから。プールに行くぞと言って夫が娘をホテルのプールに連れて行くが感染症対策か何かで撮影ができなかったと思われるのでプール自体は画面に出てこないという限界現場っぷりにも関わらず夫婦と釈のドラマ、それを捉えるニューロティックなカメラワークだけである程度は面白く見せてるのですごい。すごいがすごいの使い方を180度間違ってる。足りないことでダメになる映画は多いがこの映画は無駄に要素を足してダメになったかなり珍しいパターンじゃないだろうか。

妻バルトチャクと釈由美子がお互いに相手の心象風景であるかのように映る序盤の足場のおぼつかない構成なんか不条理劇の趣もあってわりに期待を持たせるところであっただけにという感じで…というか、妄想感度を強めにしてそう見ようと思えばあのオチもそういう意味のオチとして見ることもできなくもないのだが、でもそれもエンドロールのめちゃくちゃ余計な情報の重複でしかない映像のせいでぶち壊されるしな。これにはあんなに破天荒で面白かった『ミートマーケット』シリーズが同じ人が作ってるのに三作目の『ミートマーケット 地獄からの脱出』でめちゃくちゃ普通のつまらないゾンビ映画になった時と同じぐらいがっかりしたよ。まぁどっちも観れば俺の言ってることの意味はたぶんわかるから…。

新コロ禍での制約の多い撮影ならその制約を逆手に取って俳優の芝居で魅せようという安易な発想のロックダウン映画というのは珍しくなく、この『ロックダウン・ホテル』はその意味でかなり成功している部類だとは思うが、なんだろうな、観客サービスのつもりなのかな、廊下だけで展開するクラスターで本当に台無しに…いやでもあの廊下クラスターがあるおかげで釈由美子の身体表現力を知ることができたわけですから必要だねうんあれも必要でした! 病に倒れてホテルの廊下を這う釈由美子の! 藁をもつかむような手の動き! ひきつった足の裏! 暗黒舞踏の感性を感じさせなくもない胴体のうねりの異様さを! 見ながら! これぐらいできてしまう人をこんな場末みたいな映画に放置しておくのはあんまりなので誰か次のハリウッドゴジラの日本人枠にマジで推挙してくださいと切に願う、そんな映画でした。

※コロナ禍で撮られた映画だと思って観ていたので感想もそのつもりで書いているが釈由美子のインタビューを読むとなんとコロナ禍前に撮影された映画らしい。コロナ禍前でこのノー濃厚接触撮影っぷりなのか! 感染者がゾンビにならないのは新コロ対策で役者が動かなくても成立するようにした苦肉の策かと思ったのに! なんか想像以上に予算的な意味で限界現場だったっぽいので釈さんお疲れさまでした。

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釈さんぶっちゃけナメててマジすいませんでした。

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