腕力勝負映画『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』感想文

《推定睡眠時間:5分》

実話ものらしくハリウッド映画以上に実話が本当に実話かどうかとかどうでもいいボリウッド映画なので奇跡に次ぐ奇跡なのであるがその奇跡のスケールがかなり地味だったのでちゃんと実話ものとして作ろうみたいな志はあったらしいことがわかる。その結果として実話を謳いつつも超絶娯楽脚色によりほぼほぼフィクションのフェイク実話と化す悪質ハリウッド映画と比べて今ひとつ盛り上がりに欠く気がしたので正直者は馬鹿を見るとはこのことかと思った。正直と言ってもキャラとかセットとか展開とか基本的に娯楽映画用の作り物感丸出しなのだが。

しかし金がかかってるのかかかってないのかよくわからん映画だよな。それなりに金がかかってることは間違いがないのだが火星探査機のCGとかになるとアホみたいにチープになる。『ロボット』みたいにウケ狙いである程度は意図的にやってる映画もあるだろうがボリウッド映画界の技術力を持ってすればもう少しCGレベル底上げできたんじゃないだろうか。

いかにしてミッションがインポッシブルな超低予算で火星探査機を作って打ちあげるかというプロジェクトものの映画でダブル主人公のうち一人がミセスなので家庭の節約術でプロジェクトも節約! というお話だったし内容に合わせて映画作りも諸々節約したんだろうか。それなりに金がかかってると言ってもボリウッドレベルではこれも低予算映画だったのかもしれない。そういえば金のかかるモブシーンなんかは出てこなかった。みんなが期待するかもしれない管制室のモブたちがプロジェクト成功で一斉に踊り出すシーンはありませんでした。

ざっくりあらすじを書くと…なんかインド版NASA的なところで働く天才ロケット科学者(話題を呼んだ実録映画『パッドマン』のアクシャイ・クマールだ。実録役者か)が月ロケット計画に失敗するんです。で「じゃあ十年くらい先の実現を目標に火星探査機打ち上げ計画やってな」って偉い人に言われる。本当は他の道もあったがこの人は愛国者でインドのロケット打ち上げはなんとしても自国の技術でっていうのに拘るんで偉い人に疎まれて閑職に回されたわけです。

失意の天才ロケット科学者であったがそこに先の月ロケット計画で燃料なんかを担当して天才ロケット科学者と一緒にオフィスとは名ばかりの廃墟に配属された女科学者ヴィディヤ・バランが大逆転の名案を持ってくる。予算ナシ、経験ナシ、人員ナシでも遠心力を利用すれば火星行けます! 地球と火星が最接近する2年後に間に合えばね! かくして廃墟に配属された主に若い女たちから成るならず者(でもない)部隊のゲリラ的超絶突貫プロジェクトが始まるのであった。

なにがすごいってこういうプロットのハリウッド映画だと技術上の難題にぶち当たる度に変人部隊が各々の個性を発揮して解決! みたいな感じになりがちじゃないですか。これはボリウッドだから違うんだよな。最初の方は若い女中心のチームメンバーの境遇とか一通り出すんですけどその境遇がそれ以上掘り下げられることはなくてしかもその境遇と課題の解決が全然関係ない。しかもこいつら廃墟オフィスに集結して音楽が高鳴った5分後ぐらいにもう哀しげな音楽と共に一旦去るからね。なにその雑な扱い! 妊婦のメンバーが出てきたからこれは出産に際して一悶着というか一ドラマあるぞ…と思っていたらいつの間にか子供を産んでいてとくに支障なく普通に仕事をしていたのでその波乱匂わせはなんだったんだよと思うよ。

あと主人公の天才ロケット科学者って呼ばれてる人、全然頭脳で勝負しないでひたすらパワーで押してくる。本来は4年かかる計画を2年で終わらせないといけないっていう技術的課題に対してこの人が出した答えが「我々は今1日8時間拘束…休憩が1時間だから実労働は7時間だ…1日15時間労働にすれば間に合う!」その後のシーンで特に15時間労働で疲弊している風景が出てこなかったことも含めてすごいと思うし、他にやっていた仕事が無茶な計算を任されたメンバーが「こんな積載燃料だけじゃ不可能ですよ」と至極真っ当な愚痴をこぼすや烈火の如く怒り出してそこらの書類を床に叩きつけてオフィスを去る(その後なぜかメンバーは打開策を閃く)とかいうパワーなハラスメントだけだったのもすごかった。どう天才かは一切わからないが偉い人の前で演説して納得させるのだけは上手いのでブラック経営者にしか見えない。

車の免許を取ろうとしている女チームメンバーが「公共交通機関を使えば…」との教官の言に「自衛です!」と返すあたりインドと世界を震撼させたバス内での集団強姦殺人を批判しつつの女エンパワーメントっぽさを感じるもそれ以上キャラが掘り下げられることもなくこの人がどう計画に貢献したのかもよくわからないまま探査機を載せたロケットが無事飛んでパワハラ天才ロケット科学者が歓喜する展開になるので女中心チームの快挙を推してるくせに結局女どもはオッサンのお膳立て役じゃねぇかというツッコミが不可避なのがちゃんとしたところはちゃんとしているがいい加減なところは徹底していい加減なインド映画らしさである。

取って付けたようなざっくりフェミニズム、難題にぶち当たったら根性と祈りと運で適当に解決、ワンパターンの展開とバリエーションの少なすぎる音楽、そして童貞のレッテルを貼られるだけ貼られてそれ以上なんの活躍もしない不憫な男メンバー…なんか非常にしょうもない映画のような気がするがスーファミのゲームみたいな管制室の画面とかギアの代わりに教官の股間をトップに入れてしまう女メンバーとか地下鉄で勃発する酔った女たちの逆ギレとしか言いようのない乗客リンチとか場面場面のパワーで押し切られます。上映時間の九割方は失笑しているが失笑していたらあっという間にエンディングで2時間越えの上映時間が信じられなかったのでパワーに負けました。

これでいいのか! まったくいいとは思えないが退屈しない映画であったことは確かだ。

※インターミッションのタイミングが異様に早かったのでおそらく元々は3時間超ぐらい上映時間があって、これは世界市場向けに再編集したインターナショナル版とかなんだろう。あまりにもざっくりしていたチームメンバーのドラマの部分もオリジナル版(があるとすれば…)ではそこそこ丁寧に描かれてたはずである。女主人公の息子がムスリムに改宗した件とか。

【ママー!これ買ってー!】


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こういうの観ると『パッドマン』はよくできた映画だったんだな~って思うよ。

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