難民漂流映画『ミッドナイト・トラベラー』感想文

《推定睡眠時間:20分》

公開はわりと前から決まってたはずなので米軍のアフガニスタン撤退は既定路線だとしてもその後のタリバンの電撃侵攻&政権掌握を経ての9.11劇場公開というのはなにか出来すぎた話のように感じる。映像自体は5年ぐらい前に撮られたものらしいので現今のアフガニスタン情勢とはとくに関係がないのだが、とはいえタリバンの復権で亡命を余儀なくされた人というのも少なからずいるわけで、タリバン題材のドキュメンタリー映画を撮ったらタリバンから殺害すべき敵認定されて故国からの脱出を余儀なくされたこの映画監督とその妻と二人の小さい娘の旅路はまっすぐ現在に通じている。

しかし時間的にはそうでも空間的には全然まっすぐではないのだった。何カ国通ったんでしょうね。なんかめっちゃ通ってた。で通る度に難民キャンプに滞在したりとかトランジットに収容されたりしてそこで庇護許可とか通過許可みたいのが出るの待つ。もう全然進めない。最終目的地は難民受け入れ優等国のドイツなのだがドイツ超すげー遠い。たまに難民がトラックとかボートとかに詰め込まれた状態で不法入国業者に輸送されて諸々の事情で集団事故死という悲惨なニュースがあるがこういうニュースだとその背景まではよくわからないが、この映画を観てひとつわかったのはなぜ難民がそんな危険な賭けに出るのかというと(個別の事情はあるだろうが)そっちのがまだ希望国に行ける可能性がありそうだからで正規ルートで行こうとしたら結構絶望的だったりするんですよね。

なんとなく時間はかかっても正規ルートで行けばいいのにな~とか思ってましたけど甘かったよ。だってこの家族だけじゃなくて難民というのは元住んでた国に戻ったら死ぬかもしれんぐらいな切実な事情があって移住先を探しているわけじゃないですか。経由国でやっぱお前ら通っちゃダメとか希望国でやっぱお前らウチ来ちゃダメみたいなこと言われて送還されたら終わるよね。それを何カ国分もこなさなきゃいけないわけでしょ。大抵の国は積極的に難民を受け入れたりしないからドイツが無理ならちょっとグレードは落ちるけどわりと近くにある滑り止めの二流国で我慢するか~みたいな選択肢もそうないでしょ普通。そりゃ難民キャンプに入れりゃまぁいいかぐらいな感じならそうでもないかもしれませんけど子供もおるしさ、教育だって仕事だって遊びだって必要だし、毎日同じような飯食ってぶらぶらして寝るだけとかじゃあ何のために生きてるのかわからんくなってしまうよ。

まぁなんかそういう感じの映画なんだよ。ドキュメンタリー監督が自分と家族の難民道程をスマホカメラで撮っていくロードホームムービーで意外と暗い感じのシーンは少ないっていうか、大変な中でもたのしみを見つけてたくましくやってる二人の娘の姿が印象的な映画ですけど(なぜそういう構成にしたかのタネ明かしは終盤にある)、その背景にある理不尽さは堪えるよなー。なんなんでしょうねーこのFAXもびっくりの制度の前世紀っぷりねー。難民マッチングアプリみたいなやつを作ってこっちの国に空きあるよーとかこっちの国は宗教とか言語が同じだよーとかってやってマッチしたらそのスマホを臨時パスポート代わりにとかしちゃえばいいのにねー。

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いやそんなの容易にはっていうか基本的にできないことは知ってるんですよほら技術的には課題は山積していてもできないこともなさそうな気はしますけど国家主権っていうのがあるからさ。それに難民を諸手を挙げて歓迎する国なんか基本ないし。超国家的な難民分配システムというのを作るとしてどこの国が旗を振ってどこの国が金を出すのかって話ですよ。実際はもっと難しくて複雑な話なわけでしょ政治とか絡んで。もどかしいよねー。だって地図で見たら国境線なんて単なる線なのに実際に行くと跨ぐ跨がないでめーちゃくちゃ揉めて書類とか何枚も作らされて証明とかたくさんさせられたりするわけでしょー。

凹むよなー。なんでそんな自分で自分の檻に閉じこもるようなことをするんですかねー、あこれは主人公一家に対してじゃなくて難民一家が通過する国々とか通過はしなかったが日本も含めて難民受け入れを拒絶するすべての国に対してのことです。なんかどっかから逃げてきたっつったらあそう? じゃウチ住んじゃえば? ぐらいな感じで受け入れちゃえばいいのにね。それをさ制度だから制度だからっつって、制度破ったら秩序が崩壊するんだくらい怯えきってさ、自分たちで自分たちを制度で雁字搦めにしていくんですよ。人間の頭の中にしかない国境線を物理的に存在するんだって思い込むんですよ。こんなの閉鎖型のカルト宗教と同じじゃないですか。自分の居場所がカルト宗教だと気付けないカルト宗教信者と命からがら逃げてきた難民のどちらが一緒に暮らしていて楽だろう?

アフガニスタン関連の日本語ニュースを見るとそれが欧米メディアの翻訳ばかりで現地メディアの報道とか、それはまぁ情勢的に難しくてもアラブ世界のメディアから見たアフガニスタンの現在、またその現在の意味すること、というのは中立性の観点からあってもいいような気もするのだが、アフガニスタン関連のニュースに限ったことではないとしてもそうした視点がほとんどないことに気付かされる。

『ミッドナイト・トラベラー』にはアフガニスタンの場面は最初の方にしかないが欧米メディアのニュースにはあまり映らない首都カブール以外のアフガニスタンの街の風景が見られるし、ニュースをなんとなく眺めているだけではわからない難民の困難も一面だとしても知ることができるので、ヘタな(そしてセンセーショナルな)ニュースを見るよりもこっちを見た方がよほど現状理解の助けになりそうである。で、同時に、難民移動や受け入れに関する国際的なルールの在り方についても大いに考えさせられたりする。面白くてしかもお勉強もできるみたいな嘘は言わないのでお勉強のために観るべきだと思う(あんま面白くはないので)

【ママー!これ買ってー!】


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ミヒャエル・ハネケがカフカを映画化。人でなし監督の一人に数えられるハネケですがこの映画だとめっちゃおとなしく堅実に作っている。『城』のKが置かれた状況と『ミッドナイト・トラベラー』の一家が置かれた状況はちょっと重なるところがありますが、なんかラストシーンまでわりと同じだったので、『ミッドナイト・トラベラー』の監督はインテリっぽいし意識してそう編集したのかもしれない。

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