ユーモアとペーソス映画『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

なんでも『プチ・ニコラ』というのはフランスの国民的新聞漫画かなにかのようで小学生男子ニコラくんの愉快な日々を社会風刺をまぶして描いたもののというから要するにフランスの『コボちゃん』みたいなものだろうがその原作漫画を知らない俺はニコラと聞いてクロード・ミレールの陰鬱な児童ファンタジー『ニコラ』を頭に思い浮かべポスタービジュアル等からこれがあのダークな『ニコラ』とは別のニコラであることはわかっていたのだが実際に観るまではいや観た後もそのイメージが離れないのであった。『ニコラ』、細部はもう忘れてしまったが『子供はなんでも知っている。』などと並ぶ(といってもこちらも国内DVDの出ていない忘れられた映画になってしまった!)ダーク児童映画の秀作なので機会があれば是非どうぞ。

ということで『プチ・ニコラ』なのですが映画が始まるとカメラが少しだけデュフィを思わせないこともないカラフルな水彩画のタッチで描かれたパリを俯瞰しましてそこを一人の男がチャリンコですいすいやってくる、この男がどうやら『プチ・ニコラ』の絵を担当していた人、スケッチブックを抱えて向かった先はおパリなカッフェでそこには一人のジェントルマンが座っております。この人が『プチ・ニコラ』のストーリーを担当していた人、というよりもこれから担当することになる人。絵を担当していた人はなぁお前文才あるんだからストーリー書いてくれよとお願いしにいくところなのでした。

アメリカ映画などではここで一悶着あるもんだがフランス的軽妙洒脱というべきかこの映画はなんともあっけなくストーリーの人はその場であっさり即答、ついでにたまたま傍らを通り過ぎたバスの広告から『プチ・ニコラ』のタイトルまで思いついてしまう。決まったところでそこからが大変なんだろうなとアメリカ映画にすっかり毒された目と脳は考えるがとくに障害もなくそのまま連載開始、以降とくにスランプに陥るなどもなく二人は幸せな共作を死ぬまで続けましたさよかったねっていやいいけどなんかそのなんていうかもうちょっとドラマティックな展開があっても…でも新聞漫画なんか実際そんなもんか。『ドラゴンボール』の誕生物語みたいのはドラマティックに盛れそうな気がするが『コボちゃん』の誕生物語にドラマがあるかといったらたぶんない。

というかこの映画半分くらいは『プチ・ニコラ』のアニメであり作者二人の物語は『プチ・ニコラ』のアニメを見せるための額縁のようなもの。二人がテキストを書き絵を描くととできあがったニコラくんが動き出して『プチ・ニコラ』のアニメが始まる、以降作者二人は『プチ・ニコラ』のエピソードの合間合間に顔を出すに留まり、そのエピソードがどのような体験に基づいて作られたかというのを解説するんである。『ドラえもん』でたとえるなら併映ドラ映画の傑作『2112年 ドラえもん誕生』のようなものか。これは藤子・F・不二雄先生がドラえもんのアイディアを思いつくまでの物語を外枠に、21世紀の未来で生まれたドラえもんが今の青いハゲ頭のスタイルになるまでの物語を内枠に、漫画世界と現実世界の両面からドラえもんの誕生に迫った併映作とは思えない力作であった。

新聞漫画なので『プチ・ニコラ』にはなにか深いストーリーであるとか重いテーマであるとかそんなのはない、とここまで書いて本当に新聞漫画かなと思って検索したら新聞漫画ではなく児童書・絵本であることが判明してしまったが、まぁいいか大した違いはないし、とにかく『プチ・ニコラ』は多少の教訓は含まれているとしても基本的には読んでいてたのしいだけの取るに足らない、そしてその取るに足らなさが美点という漫画である…漫画とは言わないのかなこういうのは。

けれどもその楽しいだけのエピソードの数々にはまぁやはり作者も人間ですから色んなね、まぁなんか色々あるんだよ大人には。子供時代こんなことしたかったなぁの思いであるとかあの時ああしてれば俺の人生変わってたのかなとかね、そういうのがある。ユーモアとペーソスってのはこういう映画のことよね。楽しくて軽やかで洒落ていて、でもその明るさの下には人生の暗さが透けて見える。フランス映画っぽいねぇ。なんとなく食い足りない気もするが観るとちょっとだけ幸せになれるよい映画でした。

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映画ドラえもんの併映短編ドラ映画は本編に比べて配信などが充実していないが傑作も少なくないのでぜひとももうちょっと光を当ててあげてほしい。

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