金曜バカンス映画『ザ・ミスフィッツ』感想文

《推定睡眠時間:40分》

監督レニー・ハーリン×脚本カート・ウィマー×主演ピアース・ブロスナン! どう考えても初日に劇場に駆けつけないわけにはいかない顔合わせだが場内に入ると客、俺の他に三人だった。まぁそうだろうねそうだろうねレニー・ハーリンとカート・ウィマーとピアース・ブロスナンでしょ? まぁそうだろうね蔓延防止等うんたらもありますしそれに完全に十年ぐらい前に枯渇してるからね三人とも才能も人気も。あと座席予約して行ってるから本当は予約画面の時点で壊滅的な客入りを知ってた。

いいじゃないですか。よかったよ。金曜夜の仕事終わり、重たい身体を引きずって見るからにしょうもないアクション映画の最終回に入るとオッサンばかりの客三人、ゴミ回収の必要もほとんどないから上映後に外に出るとバイトさんの姿だって見当たらない。がらんどうのシネコンを誰も何も話すことなく一人また一人と後にする。俺が観たのは新宿のシネコンだがこの映画と共にした二時間弱、あの場に今は無きジャンル映画専門二番館の新橋文化劇場が蘇ったね。これ新橋文化が存命だったら絶対やってたやつでしょ。この顔合わせとこのつまらなさはこれ。新橋文化でやる映画なんて五本に一本ぐらいしか面白いやつがなくて基本的にしょうもなかったからな…でもそれがよかったんだよ。つまらない映画を暇つぶしに映画館で観るっていうのが「文化」だったんですよ。というわけでそんな文化を感じさせてくれる『ザ・ミスフィッツ』です。

それにしてもこのタイトルね! こんな素っ気ないタイトルを聞いて「観よう!」ってなります? 絶対ならないでしょ! こういうバンドいますけどとくに関係ないみたいですし! 内容も本当にどうでもよかったな~。ミスフィッツっていうのは人種さまざまなダイバーシティ若者義賊四人組なんですけどこれが次なる獲物のために監獄破りのレジェンド、ピアース・ブロスナンを半誘拐的にスカウトします。狙うはビン・ラディンの後釜みたいなやつが悪党FBI捜査官と結託してだかなんだか寝てたから知らないが財宝かなんか隠してる砂漠の刑務所! わお! 刑務所と金庫をダブルで破る! こいつぁ超難易度じゃねぇかと思ったら俺が寝ているのもあるがとくに危機らしい危機もなくかなりあっさり破ってしまう。

なんなんだこの締まりのなさは。立ってるようで立ってないキャラにその人間ドラマを描くこともなく無理矢理つまらない見せ場を与えていっても予定調和を感じるだけで何も面白くないよ。しょせんカート・ウィマー(+ロバート・ヘニーという人)の脚本だからと言ってしまえば身も蓋もないがさっき見たあのシーンは実はこういう裏があってというのをミスフィッツのおしゃべり担当がナレーションでいちいち解説する(しかも全然奇抜な裏じゃない)構成のせいでサスペンスもサプライズも何もないぞ。

オフロード車が何台も出てくる砂漠のカーチェイスとかダイナミックなアクション見せ場も一応出てくるけど緊張感はとにかく一切なくここだって単にオフロード車が併走してるだけ。車体アタックなどの車も人も傷つける危険なバトルスタントはほぼ出てこず銃撃や車内乱闘の類いもなし。ただし砂漠に仕込んだ爆弾を遠隔操作で爆破させる程度の見た目の派手さはあり。結果的に、なんか日朝系の特撮かラスベガスのショーみたいになってしまった。それはそれで楽しいが…!

ピアース・ブロスナンもお前ずっとなんかニヤけちゃってお前…ルパン三世的なキャラクターなのはわかるけれどもそれにしても楽しそうだなお前! 現場、楽しかっただろうな。テイク重ねないといけないようなシーンとかないし。激しいアクションも複雑な台詞も奥行きのある展開もないからな。その代わりトロピカルなBGMと観光映像はやたらある。脱力するわー。でもこれだわー。金曜夜はこういうのが観たいわーこれもある意味『コンフィデンスマンJP』ですからねー。いや結構本気でブロスナン版の『コンフィデンスマンJP』だったよ内容的に。『コンフィデンスマンJP 英雄編』の方が見せ場と捻りとキャラクターの魅力が多くて楽しさがあったと書けばまぁなんかどんな映画か観なくても実際に観る以上に伝わるだろう。

撮影の名目で休暇に行ってきたようなゆるゆるバカンス映画を辛うじてケイパー映画のジャンルに繋ぎ止めるのは悪徳捜査官のティム・ロスでその利己的かつサディスティックなキャラクターがこの映画に諸々欠乏している要素を一手に担う。それだけにもう少しティム・ロスのキャラクターを活かしてもよかったのではとも思うのだが、まぁでもあんまり気を利かせすぎると面白い映画になっちゃうからな。面白い映画になっちゃったらダメでしょ。つまんないからこそこういう映画は価値がある。

ピアース・ブロスナンがその時計はどこどこの限定ものでダイヤはなになにカラットですねと余裕のスマイルで言い当てる粋。若造たちの少しも笑えないどうでもいい会話。ざっくりした強盗計画にざっくりしたどんでん返し。勧善懲悪、正義は勝つ。観光映像ときどき爆破。そして最後はみんなプールに集まってビーチカクテルの乾杯。ぬるい! ぬるすぎる! ぬるすぎるがゆえに、こんな映画もまぁいいかと思えてしまうという意味で、なかなかゴージャスな映画であった。

【ママー!これ買ってー!】


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ブロスナン、南国とかラスベガスとか似合いますよね。

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