案外普通映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』感想文

《推定睡眠時間:0分》

靴をはいた小さな貝とあるが貝なのに靴をはいているというのも確かに着目ポイントではあるとしてもそれ以前にこの貝英語を喋ってるし貝の限界を超える腕力や知力を持っているし巻き貝の殻のなんというのか知らないが出口の部分にでけぇ目玉がついているなどの特徴があるのでいや靴よりもそっちだよそっち、そもそもそれ貝なの!? と思わざるを得ないタイトルである。最終的にマルセルくんの貝仲間として喋って歩くビスケットとかも出てきたしビスケットはまだ相当譲歩してビスケットを殻の代わりにしてる巻き貝なのかなと強引に思い込むこともできるがその後喋って歩くプレッツェルも出てきたのでもう譲歩は無理だった。貝というかいろんなものが動くファンタジー世界の物語として捉えるべきなのだろう。

どのようなお話かといえば恋人と縁が切れて住まいを追われた男が次の住まいを見つけるまでの間Airbnbで一軒家を借りることしたらしいがそしたらそこには喋って歩く貝のような怪生物の本人称マルセルくんとその祖母が先に棲んでた。これは面白いネタだということで男は早速その驚異の生態を撮影開始、YouTubeに投稿したら予想外にバズっちゃってさぁ大変でもそれがマルセルくんの背中を押すことにもなったのでよかったね、というお話。

ストップモーション・アニメのフェイク・ドキュメンタリーという奇怪なスタイルが何よりもまず目を引くがこのフェイク・ドキュメンタリーの方には映像的にも物語的にもあまり意味がなく別にフェイク・ドキュメンタリーじゃなくても全然成立する映画だった。技術の進歩というのはときに残酷なもので今もうストップモーション・アニメなんか相変わらず手間はかかるにしてその昔に比べれば遙かに楽に作れてしまうのでなんとなくありがたみが薄いというか、それはたぶんフェイク・ドキュメンタリーの体裁を取っているためクロース・アップなどを使わず謎の貝たちの質感がよくわからないちう理由もあるのだが、そんなわけでストップモーション・アニメのフェイク・ドキュメンタリー!? という字面の驚きはわりと超えてこなかったな。

それを取り払ってみればよくあるというのもアレだがまぁでもアレなんか気にせず正直に書くがよくあるアメリカのエモイイ話であった。未知の領域に踏み出す勇気とか、コミュニティの大切さとか、おばあちゃんはやさしいとか。全然悪い映画ではないと思うがなにせストップモーション・アニメのフェイク・ドキュメンタリーですからね。どんなだろうって興味がかなり序盤で消費されちゃって以降なんとなく冷めた感じになってしまったのでこれストップモーション・アニメのフェイク・ドキュメンタリーじゃなくて普通のアニメとして作った方がよかったんじゃないか。

喋る貝たちのよくわからない生態や形態など面白いところはたくさんあるのだが、ストップモーション・アニメのフェイク・ドキュメンタリーという奇抜なスタイルが、なんだかその面白さの足を引っ張ってしまっているように感じた映画だったなぁ。

【ママー!これ買ってー!】


貝の疑問50 みんなが知りたいシリーズ19

マルセルくんはテニスボールの中に入って移動するのだがそのメカニズムもこの本に書いてあるだろうか。

Subscribe
Notify of
guest

0 Comments
Inline Feedbacks
View all comments