シミュレーション映画『グランツーリスモ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

俺が初めてやった『グランツーリスモ』はたぶんPS2で出た三作目でその実写と見まごう(当時は)映像クオリティにこれがPS2の実力かッ! と唸らされたものだった。今はどうか知らないが当時新しいゲーム機が発売されると『リッジレーサー』とかの写実的なレースゲームが一緒に出てそれで新機種の能力をプロモーションするみたいなところあったからクルマとか全然興味ないんですがそれで『グランツーリスモ3』買ったんだよな。クルマ自由に選べるから俺は好きなミニクーパーばかり乗ってました。うん、ミニクーパーで競技レースに勝てるわけないね。だから早々に飽きてしまった。レースゲームは俺には『リッジレーサー』と『マリオカート』と『激走トマランナー』と『ペンペントライアイスロン』があればいいよ。え、『リッジレーサー』もう新作出てないの!? 『R4 リッジレーサータイプ4』は面白かったねぇ…。

などという与太話はさておき映画版『グランツーリスモ』、レースシーンが映像も音響も迫力あって面白かったです。面白かったんですがなんか物足りない、なにかが物足りない。それはひとつにレースゲームばかりやってたらプロのレーサーになっちゃった的なドリームサクセスがゲームはあくまでも余暇でやる遊びと考える俺にはあまりピンと来なかったというのもあるだろうが、うーむどうもそれだけではないような…で昨日ぐらいに閃いたんですがそうかこれ、ライバルがおらんね。

確かに主人公のような元からプロのレーサーではなくレースゲーマーからリアルレーサーに転身したシムレーサーを敵視する金ピカのランボルギーニ(でしたっけ?)乗りは登場するがこいつはあくまでも噛ませ犬の域を出ず、宿命のライバル的なドラマが展開されることもなければレースシーンにおいて主人公と抜きつ抜かれつの熾烈なレースを展開することもない。主人公が戦うのは他のレーサーではなくあくまで自分自身であり、その走りはリアルレースで起こる様々なリアルならではのトラブルに惑わされずゲームでやったのと同じように走ることに全身全霊を傾ける、シミュレーションをリアルにしてしまうというものだった。

ライバル、競技の映画だと大事だと思うんですよね。主人公の特性は主人公自身ではなく脇キャラに語らせろと漫画家の小池一夫は言ったが、ライバルが強ければ強いほどそれと戦いそして乗り越える主人公の強さが引き立つし、それに主人公とライバルが切磋琢磨してお互いに腕を上げながら、最初は反目していた二人がやがてお互いを認め合うみたいなドラマはベタかもしれないがなんだかんだ胸が熱くなる感じである。ところがこの映画にはそういうところがない。いやそれどころか最終的に共にル・マン24時間耐久レースを戦うチームメイトとの連帯や友情も描かれず、主人公のリアルレーサー転身に反対していた家族との和解も厚みがなくひどく空疎に見え、恋人に至っては内面のない単なるトロフィーガールでしかない。

唯一主人公を鍛え上げるチームのコーチ的な人とのドラマはこれらと比べれば多少盛り上がるようにはなっていたが、それも元レーサーだったこのコーチ的な人が過去の自分と主人公を重ね合わせて彼に自分の果たせなかった夢を託す、というわりと一方的なものなので、イイ話っぽさはあるけれどもどうもそれ以上のものにはならない感じである。主人公の方は見事プロのライセンスを取って日産と契約した祝いで東京を訪れた際に恩師コーチへのお土産として中古と思われる1万1800円とかのウォークマンおそらくAシリーズ(※時代設定は2010年頃らしい)を買ったりするのだがお前多額の契約金あるんだからそこはせめて新品を買えやみたいなところもありあんま恩義感じてないっぽいしな。あくまでも映画の中ではということだが。

総じてドラマ面が弱いということかもしれない。ドラマ面が弱い代わりに主人公がサクサクとサクセスの階段を上っていく過程を迫力あるレースシーンを景気よく織り交ぜながら見せる。だから面白い。でも、だから物足りない。レースゲームにはストーリー仕立てのものやドライバーの個性を強く打ち出したものもあるがシミュレーターとしての側面も強い『グランツーリスモ』というゲームにはストーリーはないし人間も登場しない。あくまでも主役はクルマとレースというわけでその映画版にドラマ性が希薄なのはある意味ゲームに忠実と言えるが、それでいいのだろうか。俺がこういう映画で結構気にするのは主人公の顔つきの変化で、最初はだらしなかった主人公の顔が熾烈な戦いを重ねることでプロの顔に変化したりすると良いドラマだったなとか思うのだが、そういう変化もこの映画にはなかった。

あとあれだね『グランツーリスモ』やってたらプロになっちゃったってそんな面白い話でもないよな。主人公には『鉄騎』やって欲しかったよ『鉄騎』。あの二足歩行ロボットのコックピットを再現した確かゲーム本体よりも高かった完全専用コントーラーを使って遊ぶやつな。普通のゲームなら死んでもやり直せますけど『鉄騎』は死にそうになったら脱出ボタンを押さないとゲームオーバー時にセーブデータが初期化され最初からになるっていう鬼マゾ仕様のあれだよあれ。初代XBOXで発売されたあれを今でも部屋に引きこもって仕事もせずにやりこんでいる50代ぐらいの廃人ゲーマーがいてそいつのもとにある日連絡が来るんですよ。君がプレイしている『鉄騎』は実は戦闘用二足歩行ロボットのパイロット養成マシンだ。現在世界各地で様々な戦争が行われていることは君もニュースで知っているだろう。あれは嘘だ。いや、半分は、と言うべきだな。今や生身の兵士による白兵戦は行われていない。その代わりに各国はそれぞれの国を代表する『鉄騎』廃人を戦闘用二足歩行ロボットに乗せて戦わせ、その勝敗こそが戦争の勝敗となったのだ。現在ウクライナから緊急のパイロット支援要請が出ている。つまり、この20年間『鉄騎』のみをプレイしてきた廃人である君に、世界の命運はかかっているのだ!

こんなシナリオだったら燃えると思うんですがどうでしょう。どうでしょうもなにもそれもう『グランツーリスモ』じゃないよ!

※オープニングとエンディングに『グランツーリスモ』クリエイターの山内一典役の人(役者さんが演じてる)が出てきて『グランツーリスモ』の新作を作るシーンがあり、その前後のくだりも含めてあのへん全部いらないんじゃないかと思うが、なにかソニー側からこれは入れて下さい的なオファーでもあったんだろうか。

【ママー!これ買ってー!】


鉄騎大戦 専用コントローラ同梱版

『鉄騎大戦』の方はオンライン専用なので今もうプレイできないんじゃないかと思うがそんなもんリンク貼るな。

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