連続ドラマでやれ映画『沈黙の艦隊』感想文

《推定睡眠時間:55分》

映画館でこの映画の予告編を見た時に主演の大沢たかおの芝居を見て「王騎将軍が演技してる!」と思ってしまったのでいくらなんでもキャラ作りすぎだろというのが俺の映画『キングダム』シリーズにおける大沢たかお王騎将軍評価だったのだがあれはやっぱ当たり役だったんだなと思い直したりした。ところで『キングダム』、物語の最終目標は中華統一なのだが今年公開のシリーズ三作目ぐらいに至ってもまだ全然全然中華統一の青写真が見えない。そう簡単に中華統一などできまいてという意見は正論だがこれは映画なのである。連載漫画とか連続ドラマならダラダラと続けてくれても構わないが映画ならそもそも基本は一作で完結させるべきだし長くても三部作ぐらいには物語をまとめるべきなんじゃないだろうか。スラッシャー映画とかそういう一話完結に近いものは何作続いてもいいけどストーリーが続いてるやつはさぁ…だってあんた後に前後に拡張されたとはいえ最初の『スター・ウォーズ』だってあんな壮大な物語を三部作でちゃんと終わらせたんですから。

というわけで題材がどうのとかテーマがどうのとか主演だの監督だのがどうのとかではなくこの実写版『沈黙の艦隊』、どうも原作のかなり序盤で終わってしまい物語的には一区切りにさえなっていないというネット感想を目にしていたのでえーじゃあ俺はいいよーそういうのーって感じであった。それでも観に行ったのは半ば義務感からであったが(なんの?)少なくともあと二本ぐらいは作られそうな続編はそうだねぇ、観に行かないと思います。まずこんな序盤の序盤で映画を終わらせて続編でもう一回客呼んで稼ごうとする昨今流行りの映画ビジネスモデルが気に食わないし、わざわざ続きも観たくなるような魅力ははとくにないと判断した。

前半一時間は寝ていたので詳細不明も(今ウィキで調べてそういうことだったのかと納得した)どうやらこれは原因不明の沈没事故により死亡したと思われた海上自衛隊の名潜水艦艦長が秘密裏に核搭載の日本原潜に搭乗するもその航行中に突如われわれの原潜は独立国であると宣言、日本および米国に反旗を翻し単独行動を開始するという物語らしい。重武装(核武装)中立のローンウルフという右翼の夢を具現化したような物語はオトコノコ精神で生きる人々には時代を超えて訴えかけるものがあるのだろうか。原作は90年代に発表されたものだが最近やってたガンダムのハサウェイのやつもしっかりその影響下にあるよな。

おそらくその物語はわりと面白いと思われるがなんだろうこのコクのなさ。こう、なんというかね、これをどうしても撮りたいんですこのショットを、この場面を! みたいなのが1時間寝ているとはいえなのだが一個もなかった。すべての面で型どおりに、個性を出さず、そして目を引くものがない。本格的な潜水艦バトルではなくデモンストレーションのようなものではあるのだが終盤には一応潜水艦戦も用意されてはいる。しかし…やはり潜水艦の映画なのだからそこはこだわりがあるんだろうなと思ったらそれもとくにはなく、潜水艦のCGもそれを捉える構図も、あるいは編集や音楽や音響も、そのシーンで何が起こっているかを伝えるだけで、そこから映画的な快楽は伝わってこない。

原作が面白いんだから実写映画版ならではの変な主張を入れたりとか差別化したりとかしないで可能な限り原作に忠実に物語を紡いでいけばそれでいいんじゃないのみたいなこの作りはある意味誠実とも言えるが、これはあらゆる原作付き映画に対して言えることだと思うが原作の面白さを浴びたい人は普通に原作を読めば良いのだから、実写映画化で原作をただなぞるだけであれば映画化する意味がないんじゃないかと思う。少なくとも芸術的な意味はといいますか。そりゃ金出してる側は映画に客が入って金が儲かればいいわけだからそういう原作再現の映画作りが金になるならそれは金を出してる人にとって意味があることだとは思いますが。

原作者が同じかわぐちかいじとあって何年か前に実写映画化されてネットで炎上した『空母いぶき』と比較する人もいるが、比較するというか『空母いぶき』に比べれば『沈黙の艦隊』の出来はよかったという持ち上げをする人もいるが、俺はこれなら『空母いぶき』の方が映画として面白かったと思ったな。っていうか比較しなくても公開時から『空母いぶき』面白いと思ってましたが、『空母いぶき』の方はつまらないところとかダサいところはあっても「これが見せ場だ!」みたいな場面がしっかりとあったし、十何巻とかもある原作を換骨奪胎してちゃんと二時間で起承転結の結まで物語を持っていったんですよ。敵国が原作の中国から大東亜連邦とかいう架空国家に変更されて映画の中では地図上のなにもないところに位置していたために右翼とオタクの怒りを買ったらしいが…おそらくミクロネシア連邦を地理的なモチーフにして現代日本で自衛隊が戦うべき「敵」を抽象化されたかつての日本軍に置き換える発想には脚本を担当した伊藤和典の鋭い批評眼とSFセンスが感じられ、それさえ俺には映画版『空母いぶき』の美点だった。

翻って『沈黙の艦隊』にそういう尖ったところ=映画的な面白さが一箇所でもあったかなと思えばないわけで、だから政治も軍事も国際情勢も絡む可燃性のネタであるにも関わらずとくにネットで炎上もしていないが、多少悪く言えばそれは炎上するだけの工夫がなかったということなんじゃないだろうか。ウェルメイドでかつ二時間かけても起承転結の起までしか描かない。ウェルメイドだから観ている間は退屈しないだろうが、それとは別の意味でつまんない映画だなぁって思いましたよ。

【ママー!これ買ってー!】


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インターネットの炎上カルチャーのせいで野心作が叩かれ可も不可もない映画ばかりが褒められる映画制作者にとって悪夢の世の中になってしまったので早くツイッター消滅して炎上カルチャー廃れて欲しい。

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