青汁飲もう映画『BAD LANDS バッドランズ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

『勁草』なる渋いタイトルの原作小説を映画化するにあたりわざわざこう改題しているぐらいだから映画オタクの孤独中年と学生のだいぶ哀しい友情を描いた『さらば映画の友よ インディアンサマー』で監督デビューを果たした映画オタク映画監督の原田眞人がBadlandsの原題を持つテレンス・マリックのカルト的ニューシネマ『地獄の逃避行』を意識していないとは考えられないことだろう。共通するのは地獄環境に身をやつしている男女の刹那的な反逆と先の見えない逃避行を描くところだが、もしかすると原田眞人がその名を勝手に頂いたのは『地獄の逃避行』の男側主人公マーティン・シーンが自分をジェームズ・ディーンに似ていると幾度も自慢げに語っていたからかもしれない。

マーティン・シーンはジェームズ・ディーンに別に似ていないのだが、本人はジェームズ・ディーンになったつもりで社会に反抗してみせるのである。そして『さらば映画の友よ』もまた映画のことしか頭にないボンクラの川谷拓三が健さんか池部良かはたまたトラヴィス・ビックル=ロバート・デ・ニーロかにでもなったつもりでヤクザの別荘に単身カチコミをかけるのであった。『さらば映画の友よ』を心のコスプレ映画と評したインディーズ映画評論家みたいな人がツイッターにいるが、言い得て妙、それこそが原田眞人という映画オタク映画監督の本質だろうと俺は思う。つまりそれは、コスプレなのである。いかに精巧であってもコスプレで、どこまで行ってもホンモノにはなれない。そのことを半ば自嘲的に描いた『さらば映画の友よ』以来、原田眞人は意識的にコスプレ劇として映画を作り続けているように思える。この『バッド・ランズ』もそうした観点から理解することができるんじゃないだろうか。

というのもいやクサいクサいこれクサいってだいぶクサいよこれ! クサい!!! いや俺も納豆大好きだしクサいものが好きな人もたくさんおるであろうからあんまりクサいクサいとばかり言うのも躊躇われるところではあるがクサいものはクサいのだから仕方がない。俺も毎日納豆を食べているが納豆がクサくないと思ったことは一度も…すいません嘘つきましたもう臭いに慣れてそもそもクサいとかクサくないとか考えることさえなくなってました。バナナはまだクサいね。バナナも最近毎日食べるようになりましたがバナナはまだクサいです。バナナはクサい! でもおいしい! 更に安いし栄養満点!!!

もうとにかくクサい芝居にクサい演出にクサいロケーションの大連続で一片たりともクサくないところがない。それイコール作品世界が完璧に作られているということである。コスプレ劇として映画を撮り続ける原田眞人はここでも現実世界の光を遮断して映画の中だけの夢世界を構築することに余念がない。大阪・西成を舞台とする振り込め詐欺系の裏社会ものという原作小説においてはリアリティの醸成に寄与したであろう要素は映画版では反転してしまう。ここでは西成のロケも振り込め詐欺グループの階層構造描写もすべては映画の中だけに存在する虚構世界を成り立たせ盛り上げるための小道具でしかないんである。

それは言い換えれば漫画的・アニメ的ということかもしれず、その点で原田眞人はアニメみたいな実写映画を撮る映画オタク映画監督である庵野秀明や押井守の先輩のようなものかもしれない。業界用語や専門用語を駆使した長広舌台詞の応酬という庵野や押井がよく用いるアニメ会話は『バッド・ランズ』でも駆使されている。人は何を言っているかはよくわからんが淀みのない会話というものを聞くとそれだけ淀みなく当たり前のように話しているのだからこの人たちはその分野のホンモノなのだろうと錯覚する(それは振り込め詐欺ほか各種詐欺のテクニックでもあるだろう)。柳沢慎吾の警察24時モノマネの一つに何を言っているかわからないが超ホンモノっぽい警官の無線会話というネタがあるが、あれと同じことでしょうな。この柳沢慎吾メソッドを用いて庵野や押井は荒唐無稽なストーリーにホンモノっぽさを与えるが、同じことが『バッド・ランズ』でもなされているわけだ。そのホンモノっぽさがなかったらこんなにアニメ的にクサい映画みんな笑ってしまうだろう。まぁ登場人物の大半関西人設定なので積極的に笑わせようとしてるところも多々ありますが。

好みはともかく映画内にその映画だけの世界がしっかりと構築されている映画というのは立派な映画である。それはいいのだが、確固たる世界観に基づいて映画内世界を作ることに腐心するあまり、じゃあ一本の映画としてどうなんだということになると、編集にはメリハリがないし展開は盛り上がらないし、登場人物のアニメ的なキャラ付けと芝居のおかげで楽しく観られるのは確かだとしても、なんだか精彩を欠く。映画内世界を作り上げるのが映画制作の一次工程だとすると二次工程としてその後には作られた映画内世界を出荷できる状態に加工する作業が普通あると思うのだが、原田眞人はたぶん撮ったシーンは全部使いたいので加工の作業がホントできない。結果、強いクサみが残ってしまうのである。これは庵野秀明や押井守にも言えることかもしれない。

まぁ、原田眞人の映画が好きな人っていうのは思うにそのアマチュア的な垢抜けなさに魅力を感じているんだろうから、これはこれで。そのクサみを取れば映画内世界は完成されているので最近の韓国エンタメ映画みたいになるのかもしれないし、元々アメリカ映画の世界を崇拝していた原田眞人なのでアメリカ映画イズムを見事に取り入れることで洗練された最近の韓国エンタメ映画には猛烈な対抗心や羨望を抱いているに違いないとこの『バッド・ランズ』や前作『ヘルドッグス』を観ると思うのだが、俺は最近の韓国エンタメ映画はなんかハリウッド映画みたいになっちゃって逆に韓国映画独特の魅力失ったよなとか思ってるので、クサみを取ることが必ずしも正解ということもないんだろう。クサい! もう一本! なんだか‎八名信夫のような表情でそう言いたくなってしまう映画であった。

※宇崎竜童の老ヤクザは最高。岡田准一の友情出演はちょっと笑えます。

【ママー!これ買ってー!】


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原田眞人のクサみが300%詰まった兵器のようなオタク映画。川谷拓三の友達の居ない映画オタクっぷりがリアルすぎるので嫌な汗が出ます。

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