原田眞人超特盛りマシマシ映画『ヘルドッグス』感想文

《推定睡眠時間:0分》

俺のいつもの朝食は納豆とヤクルトとパックご飯&ふりかけ各種に梅干しで梅干しは潰れ紀州南高梅、ふりかけは丸美屋のもの、納豆は旨味と決まっているのだが、こんなオウム食よりも質素な食事(オウム食は意外とボリュームがあるのだ)に飽きないのと思えばいやそんなことはない、一口二口で食べ終わる梅干しはともかくふりかけは毎日同じだと飽きるので週に何回か種類を変えているが、旨味である。旨味がもう全然飽きない毎日美味いすごい旨味大好き。毎日口にする度に生まれてよかったとまではさすがに思わないとしても起きてよかったぐらいは思う。

しかし俺にとって超美味い旨味も人によっては汚物同様でしかないということはあり得るだろう。なにせ納豆はネバネバしているし歯ごたえはないし第一クサイ。好きな人は徹底して好きでも嫌いな人は徹底して嫌いで食べることすらできないのではないだろうか。そういうクセの強い食べ物ってありますよね。ブルーチーズとかくさやとかドリアンとか。原田眞人の映画、それ。はいというわけでまだ一言も映画に触れていないのに既にネガティブな結論が見え見えの『ヘルドッグス』感想文でーす。

いやー、クサかった! これはクサイ! 強烈! 訳あって正義の闇堕ちをした岡田准一がヤクザの潜入捜査官になるという劇画チックなお話はありがちだが監督が原田眞人だものだからあんたもう冒頭からクワッとキマった構図にそんな台詞絶対に日常生活で言わないっていうカッコイイ台詞にフラメンコギターの調べが乗るわけで監督の色が全開、良いとか悪いとかではなくこれぐらいクセの強い映画になると乗れるか乗れないかの話でしかない。

原田眞人の色はスプラトゥーンの如く映画全編に渡って塗りたくられ空白地帯などひとつもない。たとえば、普通に会話するだけのシーンでもよくある日本映画ならあうんの呼吸で交互に台詞を言わせるところをあえて被せ気味に台詞を言わせる。たとえば、よくある日本映画ならそのシーンに必要な台詞を登場人物が言い終わったらすぐにカットを切って次のシーンに繋ぐところをあえてカット尻を長めにとりエチュードのような他愛も無い日常会話をいくつかさせる。

そしてたとえば、狭い部屋で撮ろうが広い部屋で撮ろうが別にシナリオ的な意味は変わらないようなシーンでもあえてやたらと広い部屋で撮る。原田眞人は狭い部屋が大嫌い。こうして見ていけば原田眞人の反日本映画精神と共に日本映画の特徴も浮かび上がってくるのでおもしろいですね。

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たとえばはまだ続く。たとえば、芝居に大袈裟な身振り手振りをつけたり表情にあまり緩急をつけたりしないことで日常性を演出するのがよくある日本映画だが、原田眞人の映画はそれを許さない。役者がA地点からB地点に歩きながら説明会話をするだけのシーンでも決して「歩きながら話すだけ」の芝居はさせない。途中で歩調を早めるとか緩めるとか、何か食べながら歩いてみるとか、視線を頻繁に移動させるなどのワンアクションを過剰なほど入れる。

たとえば、芝居がかった台詞は必要最小限に留めて日常的な台詞回し基調とするのがよくある日本映画だが、原田眞人の映画はそれを許さない。マッサージ屋を仮の姿とする潜入捜査官の連絡役の大竹しのぶが岡田准一の背中を揉みながら魔女みたいな口調で「あんたの中の悪魔がこの手を伝って私の中に入ってくるんだよ。10分も揉んだらこっちが倒れちまう」とかなんとか言う。ヤクザの情婦・松岡茉優は会話にたまに英語を混ぜるキャラなのでソーリーとかワットとかなんとかのたまう。

日常っぽさ、みたいなのが心底嫌いなんでしょうなぁこの監督は。日常と、それを支える予定調和が。とにかく良くも悪くも退屈なシーンが一つもない。全てのシーンに意外性を入れてくる。ケレン味を入れてくる。そして映画オマージュを入れてくる。結構、結構、結構ですもうわかりました! わかりましたよ監督わかりましたから…わかりましたからミヤコ様みたいなヤクザババァをどうだ俺のセンスは常識外れでカッコイイし独創的で面白いだろみたいな感じで入れてくるのやめてくださいよ!

アクションは良い。アクション設計:岡田准一とスタッフロールにあったのでこの人の趣味に合わせて寝技にいささか偏りがちというのはともかく格闘アクションは良い。銃撃戦も良い。これは銃撃戦そのものというよりもそれを生かすための舞台設計と音響設計が練られていて、発砲音と金属音が幾重にも重なり合って響き渡る廃工場の一連のシーンはなかなかうっとりとさせられる。

だからこれは出来が良いとか悪いとかじゃなくて乗れるか乗れないかなのだ。確かに狂犬役が坂口健太郎は役不足だし岡田准一も堕ちた警官の役柄に説得力は全然無い(最近あまりに岡田准一のネット大衆評価が高すぎるので一言言っておきたいのだが岡田准一はアクションは巧くても演技はそんなに巧くないと思う)。「これがこの組織の闇の奥か…」とかいう厨二みたいな台詞がまさかの伏線だったという展開には赤面を通り越して噴飯するしかない。東映Vシネによくありそうな程度の話でしかないにも関わらず上映時間138分とかいう大物尺になっているのはそれだけ映像で語ることが多いからではなく語るべきことと語らずにおくべきことの取捨選択が単純にできていないからだ。だから終盤は広げた風呂敷を畳みきれずになんとなくのカッコイイムードで強引に幕引きを図る。

しかし、そんな欠点も原田眞人のテイストに乗れれば気にならないだろう。だからね本当に乗れるか乗れないかでしかないんですよこの映画は。それだけ。それだけなので他に言うこともさしてないのだが俺が乗れなかった理由を最後に少しだけ書いておくと、原田眞人の映画はいつも豪華なハリボテでしかなくて、その「カッコイイ」はどれも表面的で作り手の哲学が全然見えない。だからダサいのだが、それでいてさも哲学があるかのようにインテリぶっていたり社会派ぶっていたりする小道具や台詞をちょいちょい噛ませてくるので、ダサいでは済まずに観るのが苦痛にすらなってくるのである。

デビュー作の『さらば映画の友よ』はそうした自身の薄っぺらさに対する切実な自己批評のようになっていて実に痛ましくも切ない映画好きなら必見の青春映画になっていたが、まぁ人間偉くなったら都合の悪いことはすっかり忘れてしまうんでしょうな。原田眞人は日本映画の闇の奥で王様になったのです。その意味では『闇の奥』を引用したこの映画もまた原田眞人の自己批評の可能性が…ないよそんなの!

※とはいえホンモノでしかない北村一輝のヤクザっぷりは堂に入ったものだったしクマさんとかいうヤクザを演じた吉原光夫も素晴らしかった。『検察側の罪人』で酒向芳を発掘(映画界的に)した原田眞人なので役者に対する審美眼は確かなものがあるんだろう。キャスティング担当の人が偉いのかもしれませんが。

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原田眞人と漫画家であり映画監督でもあるきうちかずひろは演出の方向性は違っても日本映画的な狭さを打ち破ろうとしている点でよく似ているように思うのだが、原田眞人の映画には乗れないのにきうちかずひろの劇画的ハードボイルド映画にはいくぶん気恥ずかしさを覚えつつも乗れるのは、きうちかずひろの映画にはこの人なりの哲学がちゃんと見えるからだと思ってる。というわけで映画監督きうちかずひろの代表作『鉄と鉛』をどうぞ。

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火薬バカ一代
火薬バカ一代
2022年9月17日 9:57 AM

良いですよね「鉄と鉛」
岡田准一の「ファブル」も変に大作映画化せず、Vシネぐらいの予算できうち監督に撮らせた方がよほどそれらしくなったんじゃないかと思ってしまいます。

omoideneko
omoideneko
2022年9月22日 12:11 PM

ヘルドッグス、昨夜9/21鑑賞しました、ガリレオの予定でしたけど間に合わずでこれです。セリフのやりとり気に食わないです。インテリを気取りたいのか、まさかわざと外してる?
前半での坂口と岡田の会話で趣味の話になりますけど坂口が岡田に黒澤/小津と聞き坂口は小津と答え美術の話に移りますね、これトリュフォー、ゴダール、溝口、成瀬とか5分ぐらい続ければいや10分ぐらい続ければ、無理でしょうね。戻りますけど美術でゴッホ、ピカソでピカソと答えますけどここはゴッホ、ゴーギャンあるいはピカソ、マチスと聞くべきではないでしょうか?小津か黒沢かですからね。あ、現役だとまずかったので忖度した質問だったのでしょうか?もしかして。あ、黒澤は黒沢清?