邦画SF野心作映画『ペナルティループ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

タイトルを忘れてしまったのだがむかし観た『世にも奇妙な物語』の一編に囚人の話があって、その囚人はサディスティックな看守から毎日酷い拷問を受けていて壁に残りの刑期を掘ることで「釈放まであと何日…釈放まであと何日…」と自分に言い聞かせて拷問を耐えてるんですけど、地獄のようなその日々がついに終わったこれで釈放だ! と思ったその瞬間、囚人は今まで観ていた世界がバーチャルリアリティだったことを知らされて、その地獄のような日々をまた最初の一日から繰り返すことになる。これが未来のとっても人道的で残酷な有期刑…という素敵なお話であった。

未来の刑罰の話だと『トワイライトゾーン』の一編として映像化された(原作誰だったかな)『無視刑囚』も忘れがたく、これは無視刑を執行された囚人は監獄の外に出してもらえるのだが、その代わり世界中のすべての人間が囚人を無視するようになる、それが無視刑という一見軽いようでたいへん重い刑罰なのだというお話だったがー、なんか『ペナルティループ』そういう感じ。『世にも奇妙な物語』とか『トワイライトゾーン』みたいなSF短編・ホラー短編を一話完結30分で映像化するドラマを90分に引き延ばしたような映画だった。

主人公の若葉竜也の恋人なのか恋人じゃないのかよくわからない微妙な関係性の女の人が何者かに殺害される。悲嘆に暮れる主人公。次のシーンはなんだかSFじみた屋内栽培場であった。最初の方のシーンからすれば主人公は建築士か何かかと思えたがどうやら彼は少なくとも今は屋内栽培場の作業員をしているようだ。例の事件なんか影も形もないのであれからしばらく経ったのだろうか。よくわからないがそこへ黒のツナギを着た男・伊勢谷友介が到着。彼は主人公と面識のない電気系統の保守作業員らしい。主人公は彼を冷酷な眼差しで眺めるし家を出るときにボストンバッグに様々な種類の凶器を詰め込んでいたから、どういうことかはわからんがきっと彼が殺人犯なんだろう、そして主人公は復讐を目論んでいるのだろう。はて、どうなることか。

ループものであることは予告編どころかタイトルで既にバラしているのでそこそこ多くの人はこれがどんなネタの映画かあらすじなんか読んだらもうわかっちゃうんじゃないかと思うが、まぁでも一応詳細には触れないでおくか。今更そんなことを言ってもだいぶ遅い気がするがそんなもん客に先を読ませる作り手の方が悪いんだから俺の責任じゃないだろと物の見事に責任転嫁しつつ感想なのだがおもしろかったよ。やっぱりね未来の刑罰って考えるの楽しいじゃないですか。どんな方法で人に苦痛を与えるかというのは魔女狩りの時代から変わらぬ人間の創造力を刺激する危険課題だね。ですからそういうものは観ていてたのしいのです。ほらフィクションだからこれ! あくまでもフィクションとして!

でそういうのもあるし日本て特撮映画は強いですけどSF映画はホント弱い国でさ、それこそですよ『ゴジラ-1.0』の山崎貴ぐらいじゃないですかみんなが知ってる邦画でSF映画をちゃんとやろうとしてる人って。それもでも巧くないからな山崎貴は。変に大仕掛けでどうもネタを扱いきれてない感じがある。そういう国でSF映画をちゃんと作ろうとしてる映画監督のSF作品に関しては存在自体が嬉しいので悪くはいえない。といっても堤幸彦の『人魚の眠る家』とか早川千絵の『PLAN 75』、大御所ハインラインのなぜか日本でだけ異常な人気がある『夏への扉』の実写映画版やケン・リュウの短編を映画化した『Arc アーク』、キラキラSFの決定版『Orange オレンジ』など、2010年代後半からは邦画でもSF映画の力作秀作大作がよく見られるようになったわけだが。

映像面のハイライトはなんといってもボウリング場のシーンで、怪しいネオン照明がきらめく中での矮小にして非現実的な光景は中国ノワールの世界を思わせた。屋内栽培場のシーンといいSFセットを組むのではなく実際にある建物を巧く活用して未来感を出すという手法は日常風景の中に異常世界を見つけ出す中国ノワールに学んだ手法じゃないだろうか。決してお金のある映画とは思えないがチープな感じがしないのは素晴らしい。他方、奇想とまでは言えないとしても、いやそれは無茶があるだろ的な強引感の漂う、でも面白い発想のシナリオは、韓国サスペンスや韓国SF映画の世界。中国ノワールも韓国サスペンスも台湾ホラーと並んで今のアジア映画の最もアツい部分であるから、きっとこの監督の人はそのへんを大いに意識してこの映画を撮り上げたんじゃないだろうか。良いものから学ぶことは良いことだ。その点でもやはりこれはとても好感の持てる映画である。

いや、いいんですけれども、チャレンジングな作品だと思うし面白くもあるんですけれども、犯人役・伊勢谷友介の気怠い芝居も渋くて良かったと思うんですけれども、でもこれも昨日感想書いた『ビニールハウス』と同じで、もう少し丁寧にやっていればなぁとかやっぱ思ってしまったな。サスペンスからコメディへ、コメディからヒューマンドラマへ、ヒューマンドラマからSFへの奇妙な転調なんか面白くて単に30分ドラマのネタを引き延ばしただけって感じにはなってないのは良いとしても、そうした転調ありきのシナリオになってしまっていて、作品のテーマからすれば重要であるはずの主人公の心境変化の描写がおざなりだったり、作品の核になってるアイデアにリアリティとは別の意味で迫真性というか必然性がないというのは、どうも表面的な面白さに気を取られて作品の一番大事なところを見失っているように感じられてしまう。だから、結局、やっぱ30分一話完結ドラマの90分拡大版だなっていう印象になっちゃう。

そういうの勿体ないと思うんだけどな俺は。までも好みの問題かもしれん。同じくらいの予算規模の最近の邦画SFとしてどっちが好きかって言われたら俺はいろいろとオモシロを詰め込んでるけど細部の詰めが甘い『ペナルティループ』よりもオモシロは一つだけれどもその一つのオモシロを細部まで磨き上げた『PLAN 75』の方が好きって答えますけど、逆の人も多いんじゃない。まぁ、ともかく、意欲作なんでみんな観たらいいと思います。ボウリング場で犯人が主人公に「最後まで見ろって」なんて言うところ、あそこだけでもいいから観て。そこなのかよって思うかもしれませんけどそこ、笑えて好きなんだよ。

※一番どうかと思ったのは犯人の殺害動機だったのだが、そのへんはさすがに書けばネタバレになってしまうだろうと思われるので自粛。まぁなんというかね、「ハァ?」みたいな動機でさ、日和ったって言うと言い方悪いかもしれないですけど、日和ったんじゃないすかね。こういう展開の映画で殺害動機をたとえば性的暴行なんかにしてしまったら今のバカな観客の支持を得られないので…みたいな。そういうところで妥協しちゃダメなんじゃないこういうテーマでって俺は思うんですが。まぁ、観れば何を言いたいかたぶんわかると思うよたぶんね!

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