世界まるごと大賛歌映画『JUNK WORLD』感想文

《推定睡眠時間:20分》

アメリカに『マッドゴッド』あらば日本には『JUNK HEAD』ありという感じで独力クリエイターの妄執をこれでもかと見せつけられた前作はす、すごいものを観た…これは現代映画界の事件だ! と今は亡きアップリンク渋谷で観た時には大興奮したものであった。何がスゴイってそりゃストップモーションアニメだからこれをたった4人のチームで創り上げたというのもスゴイのだがやはり独特のサイバーパンクな世界観に尽きる。設定自体はどこかで見たもののツギハギでしかないとしても、そこにはクリエイターである堀貴秀の趣味と感性と遊び心がありとあらゆるところに息づいていて、唯一無二と言うに相応しい世界が出来上がっていたのであった。観客の目を意識していないわけではないというか逆にサービス過多なぐらいの娯楽編でありつつも、そのサービスが商売っ気とか偉い人の顔色を伺ってとかじゃないから、これはほとんど純粋なアートなんである。

てな具合にべた褒め以外にできない前作『JUNK HEAD』なのであったが先に言ってしまうとその1042年前を描くシリーズ2作目『JUNK WORLD』はそんなに面白い映画ではなかった。1042年前とかそれはもはや前日譚とかではなく別作品だろと思ったのだが実際ほとんど別作品といってよい。独自の進化を遂げて人類に反旗を翻した人工生命体マリガンと人類の戦いが始まって早100年以上(戦争の発端じゃないんかい)、マリガン軍が放棄した都市になにやら妙な反応がということで主人公の人間兵は親人間派のマリガン兵の助けを借りて調査に向かうのだが…とあらすじの字面は前作と似ているが今回は舞台が地下世界じゃあなく荒野と化した地上世界。しかも主な登場人物は人間とかなり人間に近いマリガンである(1042年の間にだいぶ進化なり退化なりしたのだろう)

前作はまず鉄と錆に覆われた広大な地下世界の魅力で俺のハートを鷲づかみにしたわけだからなんか土っぽいだけのつまらない地上世界が舞台だという時点でかなり興味を失ってしまうのだが、それに輪をかけて人間と人型マリガンばかりが画面に出てきてやたらと喋る喋る喋る。人造生物マリガンが独自の生態系を築いていた前作のあのカルチャーギャップ&秘境アドベンチャーの面白さは何処へ…セリフが前作の5倍(俺社比)ぐらいあることからもわかるように今回は世界観ではなくシナリオの面白さで勝負したジャンル的には時間SFであり、そんなわけで一応世界観は共有しているが前作とは別物という感じなのである(あと前作ではやりたくてもできなかったかもしれないバトルシーンがたくさん出てくるのも違うところ)

がしかし、そんな風に思いながら観ていたら最後でちょっとグッと来た。具体的には書かないがまぁ三部作であるからして(※前作のパンフレットに三部作となる予定であることが書かれてた)ラストは前作『JUNK HEAD』へと繋がるのだが、その繋がり方がこんなにギャグ満載の映画なのに感動的。何かと言えばリサイクルなのである。リサイクル、つまり生命の循環。あるモノが連綿と形を変えて遠い未来の果てまでも受け継がれていく…その哲学がラストで開示されるに至り、なぜこの三部作がJUNKを冠しているのかがよくわかった。世の中に無駄なものなどないわけだ。一見ゴミにしか見えないものでもあれこれイジってリサイクルすれば必ず何かには使える。だから全てのゴミは等しく無限の価値と可能性を宿している。たぶんそれは独学でストップモーションアニメを学んでたった一人で世界を作り始めた堀貴秀の信念なんだろうな。ストップモーションアニメの制作に使えないモノなどないわけだ。

何かを作る時に設計図に従って素材を集めるのではなく手元にある素材をフル活用して作ってしまうことをブリコラージュと言う。すべてのモノに生を与えんとする『JUNK』シリーズの豊かなブリコラージュ精神は『鉄男』等初期の塚本晋也映画であるとかデヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』ともよく似ている。『鉄男』も『イレイザーヘッド』も明るい内容ではまったくないが、それでいて観終わった後に不思議な充実感や多幸感があるのは、どっちもブリコラージュによって結果的にこの世界のすべてを肯定しているからじゃないからだろうか。塚本やリンチはあまりその自覚なくブリコラージュを実践していたように見えるが、他方で堀貴秀はブリコラの力に自覚的であるように思える。というのも主人公が地下世界の下へ下へと落下しながらどんどん形を変えていく前作に対して今回は時間SFであるからして時間の横へ横へと横滑りしながら主人公(たち)が姿を変えていく。途方も無い時間の中で主人公(たち)は無数のトライ&エラーを繰り返すのだが、それはすべてのモノは有用だとするブリコラ精神の抽象である。すべてのモノが有用であるように、すべての行為、すべての出来事は、必ず何かにとっては有用なのだ。サイバーパンク調の前作に対して今作が因果や縁起によって世界を把握する仏教をモチーフにしているのはそうした思想ゆえでしょうな。

実に感動的な世界賛歌だと思うのだが、ましかしそれを理詰めでやっているために前作にあった野放図とも言える勢いや妄執を失ってるから一長一短。それでもあのラストを見ればJUNKの行方の最後まで見届けたくはなってしまうから三部作の中継ぎとしての役割は果たしていると言えるか。最終章『JUNK END』、なんだかんだ楽しみに待ってますんで!

※登場人物の話すタモリの偽外国語みたいなユーモラスな独自言語はこのシリーズの面白いところの一つだが、体感でセリフが前作の五割増しということはそれだけ独自言語に仕込まれたネタも多いので、承知したを意味する「ガッテンショー」などのほか、「キンヨウロードショー」とか「ロックンロールヤザワエイ」とか笑わせてくれます。

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2 Comments
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匿名さん
匿名さん
2025年6月20日 4:22 PM

同じ感想を抱きました!
前作の方が尖ってて好きだなぁ、と思いながら見てたら、ラストでそうくるか!?となって、高得点になりますし、エンドロールの作業風景が本当に楽しそうで花丸満点になってしまいますよね。