北欧お通夜映画『突然、きみがいなくなって』感想文

《推定睡眠時間:25分》

とにかく気になって仕方が無いのは主人公の髪型でこの主人公は美大に通う女子大生なのだがシルエットは坊主頭。光を当てて見ると坊主ではなくちゃんと髪があるのだが、それをびっちりと寝かせて固めているので丸く見え、スリーブロックに分けた中央部はサイドよりも少しだけ毛量が多く、ねじ曲がっているわけではないのだがどことなくキューピー人形を思わせる。これはなんという髪型なのだろうか。ベリーショート・リーゼントとでも言うのだろうか。アイスランドの映画だが、この髪型によって英米などとはまた違う文化圏の映画であることが冒頭からして強烈に印象付けられたのであった。

そんな一見して奇異な髪型と見える主人公は恋人持ちの男と浮気中、しかし真剣交際だったのでこの男は現カノと正式に別れようとして、まさにその道中で不慮の事故死。なかなか人に愛される男だったらしく主人公がグズグズと鼻をすすって以後だいたいずっと静かに泣いてる、男の学友たちもやたらとグズグズ泣いている、もちろん現カノも泣くのでもうみんな泣きっぱなしである。アメリカ映画のような派手な泣き方ではないのですごいお通夜感。

人が死んで悲しいと思ったことがあまりというか全然ない。今までに触れた他人の死でもっともインパクトがデカかったのはデヴィッド・ボウイの死だが、それも悲しいというより心にポッカリ穴が開いたようなという表現がピッタリで、泣いたりとかはなかったんじゃないだろうか。といっても何にも感情が動かされないわけでは当然無く、むしろ逆に俺は映画などを観ながらよく泣く方ですらあると思うのだが、その泣く場面というのは人が死んだり不幸になったりする場面ではないんである。弱い者ががんばってる姿とか見ると泣く。だから悲しいというのでは結局ない。

そんなような俺なのでこの映画とかお前ら泣きすぎだろと途中で相当にどうでもよくなってしまった。そんなもん人間いつかは必ず死ぬんだから早く死ぬか遅く死ぬかの違いしかないじゃない。病気と借金で苦しんだ末の孤独な自殺とか場合によっては遅く死んだ方が不幸なケースもあるだろうから早く死んだからといって悲しむ理由などあるだろうか。いや、そりゃ戦争に巻き込まれて子どもが死んだとかは可哀相と思うけどさ。

人間の死は悲しいものという価値観が共有できないのでそうした価値観がすべてを支配するこれみたいな映画は蚊帳の外。ストーリーが面白いわけでもなく、人間観察眼が深いわけでもなく、撮影はキレイだが風景に頼りすぎな気がするのでこれはどちらかといえば撮影よりもロケ地(レイキャビクだそうな)が良かったという話じゃないだろうか。キレイな風景の中でひたすら若造どもがグスグス泣くイメージ映像的な作りは、『aftersun/アフターサン』みたいなナイーブなエモ以外になんもないような志の低い映画が評論家にさえ高く評価される嘆かわしい欧米映画界には歓迎されるだろうし、こういう映画が好きな人は日本にもたくさんいると思うが、まぁ、俺向きの映画ではなかった、というに尽きるかもしれない。

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