漫☆画太郎VSスティーヴン・キング死闘映画『ザ・モンキー』感想文

《推定睡眠時間:25分》

なんか前回感想書いた『ボーイ・キルズ・ワールド』とテイストに共通するところがあってこちらも不謹慎血まみれギャグ映画。あるところにメカニズムは不明だが背中のネジを巻いてガシャンガシャンとドラムを鳴らすと謎の呪い作用によってネジ巻き人に近い誰かしらが比較的凄惨な方法(寝袋の上からおよそ200頭の馬に踏み潰されて死体がペースト状になる死、電流プールに飛び込んで肉体四散爆発死など)で死ぬというお猿さんのオモチャがあった。親父からこのオモチャを贈られた主人公の仲悪兄弟は数々の悲惨死を目の当たりにしてオモチャの封印を決意。ところがそれから25年後、あのオモチャが数々の死体を引き連れて兄弟の前に帰ってきた…。

原作は飽きもせずにスティーヴン・キングということでキングは代表作の一本『ペット・セマタリー』でも今や古典の現代怪談『猿の手』から着想を得ている(と見える)が、よほど『猿の手』が好きなのかこちら『ザ・モンキー』も猿のネジを巻くと誰かが死ぬという設定に『猿の手』の影響が見える。てか猿だしね猿。ちなみに『猿の手』を直接の原作とはしていない翻案ながら最良の映画化かもしれない作品にリチャード・マシスンを経由した『運命のボタン』というものがあるのでおすすめ。

その『運命のボタン』なんかは奇抜な設定のもとでの人間の葛藤や思いがけない展開が面白い「奇妙な味」系だったが、こちら『ザ・モンキー』にそんな繊細さはほとんどなし。何が面白い映画かといえば、ひたすら猿の気まぐれで人間が面白く死にまくっていくところが面白い。コーエン兄弟を思わせるブラックユーモアで人が死に人が死に人が死ぬ。激しく血を噴き出して肉塊もしくは人肉スープ化してして死ぬ。これが冒頭というのはやや惜しいがサイコーなのは銛が腹に飛んできてぶっ刺さり、銛が巻き上げられると大腸がびろ〜んと一緒に出てきて死ぬ人である。ひどい死に方もあったものだ!

こうした冷笑的な残酷ブラックユーモアは快調ながらこれはもうキング原作映画の宿痾というべきもので後半は家族関係の話に収束していき、結局家族か〜ってなもんである。とにかくスティーヴン・キングという人は家族要素抜きにはほとんど何も書けない。『シャイニング』にしたって全体の9割は離婚するかしないかで揺れている家族の話であり、キングがキューブリックの映画版『シャイニング』に強い不満を持っていたことはよく知られているが、おそらくそれはキューブリック版『シャイニング』が家族要素(とくにジャック・トランスの葛藤)にまるで関心を払わなかったためでないかと思われるのだ。

そういう意味でキング作品に忠実といえる『ザ・モンキー』なのだが、ぶっちゃけそんなウェットで大衆ウケする要素は作品の格を落とすだけだったんじゃないかと思う。この監督オズグッド・パーキンスの前作『ロングレッグス』は連続家庭内殺人を冷たいトーンで描いていてとても人でなし感があってよかったものだから、余計にこう、もったいなさが募る。最初から最後までずっと無慈悲で情のない笑える人死にだけをやっていたらかなり良い作品になってたんじゃないかと思いますがねぇ。

といっても終盤はほとんど世界の終わり、他愛ない兄弟喧嘩が巡り巡って世界を滅ぼしてしまう殺人ダイナミズムには心が洗われるし(世界の終わりはいつも美しいものだ!)、漫☆画太郎みたいに杜撰かつ馬鹿馬鹿しく人が大量死するラストカットにはわっはっはと笑いながら心の中で拍手。この映画、日本の配給が宣伝に漫☆画太郎を起用していつものアレを描かせているが、たしかにキング成分と同じくらい画太郎成分もある映画だったので、オズグッド・パーキンスにはぜひとも画太郎の代表作『地獄甲子園』をあえてアメリカで映画化していただきたい!

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