《推定睡眠時間:0分》
なんというネタバレタイトルなんだ! 主人公はとくに人生に希望のようなものがない根暗高校生男子で受験対策にたまたま書いた詩が周囲に馴染めない転校生女子のハートにヒット、この女子、実は識字障害があり読み書きは難しいのだが楽曲制作と歌唱には自信ありという人だから、ほならお前が歌詞書いてワシがそれ歌えばええんちゃうか? ということで二人は片方が裏方タイプのデュオを結成するのだが、最後に遺した歌なんて言われたらこの女子の方が死ぬに決まっている。
もっともこの手の映画を観に来る人というのは多くの場合泣きたくて観に来るわけで、そうした観客に向けてはさぁこの後どうなりますね~と勿体ぶるよりもタイトルでドンと「はいこの人は可哀相に死にます!」と宣言した方が、わぁそれは可哀相で泣けそうだということで観たくなってくれるんだろう。われわれホラー映画ファンがタイトルに「悪魔の」とか「死霊の」とか付いていればそれは人がたくさん死ぬに違いないと思ってついレンタルビデオをケースから引き抜いてしまうようなものである。
監督はキラキラ映画や難病映画の実績ではおそらく現代日本映画界トップランナーであろう『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』の三木孝浩、脚本はキラキラ大ヒット作『君の膵臓をたべたい』の吉田智子で(ちなみに三木孝浩とは『アオハライド』、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』、『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』に続く四度目のタッグである)、トドメに製作は市川南というもう外しようがない布陣。
外しようがないので面白かった。ただ序盤こそ高校を舞台としているものの二人とも案外あっさり卒業してしまって、物語の重点はその後に置かれているため、キラキラ青春映画を期待していた俺の好みからはわりと外れる感じであった。キラキラ映画は主人公の恋愛模様だけではなく、というよりも多くの場合はむしろ恋愛はキッカケに過ぎず、主人公女子がイケメン男子(基本的に性格に難がある)と関わりを持つ中で周囲の同級生たちと交流を深めて青春っぽいイベントをこなしていったりするのが王道だが、この映画の場合はとくにそういうイベントもなく淡々と進んでしまうし、とくに波乱もなくトントン拍子で女子は歌手デビューし大成功を収めるのである。
これはキラキラ映画とは呼べないし、といって予告編で大きく取り上げていたほど識字障害がクロースアップされているわけでもないので難病映画という感じもあまりしない。ジャンル的にはたぶん人生だろう。こんな人生があったんですということを叙事的に綴っていく映画。主人公の根暗男子が歌手としての才能溢れる女子に対して自分なんか全然才能ないじゃんか……と引け目を感じて一度は彼女と距離を置いてしまう、とかそのへんの繊細な感じはまさに人生。女子の方が幸福の絶頂で何の前触れもなく思いもよらぬ不幸に見舞われるのもまた人生である。
人生ってこういうものだよね、急によくわかんない幸運が降ってきたりするし、逆に急によくわかんない死に襲われたりするし、とそれは結構なのだが、しかしなんでしょうな、少し達観し過ぎのように感じられなくもない。二人の日陰者の人生を叙事詩のスタイルで淡々と綴っていくために色々とデカめなイベントは起こるのにドラマティックな盛り上がりというものがこの映画にはほとんどない。明らかにそれは「これが人生じゃないですか」を伝えるために狙ってやっていることなので、良し悪しというか好みの問題なのだが、俺個人の趣味で言えばどうせ通俗映画なんだからもっとデデンと悲しい音楽を流したりドドンと大声を上げて泣いたりした方がおもしろかったとおもう。
でもまぁ、さすがにこの座組ですから「こういう人生があった」の映画として手堅くまとまっていて、もっと識字障害をストーリーに生かすとかそれぞれの人生の挫折と栄光をメリハリ付けて描いてもよかったのではないかとは思いいつつ、うら寂しく枯れた詩情の漂う画面はなかなかなので、悪い映画では当然ない。よかったところは女子の方を演じた生見愛瑠のどこかかつての篠原涼子の面影の見える佇まいだな。あと劇中歌もよかった。そこは少しYUIっぽく、YUI主演の「こんな人生があった」映画の傑作『タイヨウのうた』がなんとなくチラついたりもするのだった。