どうせ死ぬからと諦めるのか映画『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

昨日の『遺愛』に続いてまたしても介護ホラーである。『遺愛』は健常者が認知症患者を介護することで経験する恐怖のお話だったがこちら『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』は介護ホームに入った老人が先に入居していた老人にイジメられる恐怖を描くサスペンス。介護ホームに入ったら怖かったという映画には『呪われた老人の館』などがあるが、こちらは超自然要素ナシ、オバケよりも怖いのは人間だ、いやイジメだ、というなかなか身も蓋もない映画である。

しかしそれにしてはイジメの描写が怖くない。このイジメ老人、毎夜毎夜部屋を抜け出しては他の入所者の寝ている所へ行って嫌がらせをするのだが、せいぜいのところおしっこをかけるとか動かない足を叩くとかそんな程度である。そりゃそんな程度でも毎日やられたらたまったもんじゃないというのはたしかなのでリアルな怖さがあるとも言えるが、ちょっと知恵を働かせれば証拠動画をスマホに撮るとかしてイジメ老人の悪事を暴露することもできそうなのにやらないので(主人公は脳梗塞かなんかで倒れるまで判事だった人なので多少は認知症の徴候も出始めているとはいえ他の入所者より抜群に頭がよく、そしてそのために他の入所者を見下しているので友達ができないという人なのだ)、満足に身動きできない非力な主人公が必死でめっちゃ強いヤツに抵抗することで生じる『ミザリー』みたいな迫真性とかドキドキ感はあんまない。

かといってこの謎のイジメ老人が実は認知症の徴候の出始めている主人公の妄想なんじゃないかという怖さもない。イジメ老人は介護士たちの前では認知症を装っており主人公がいくら「あいつが俺をイジメた!」と主張しても信じてもらえないので、途中まではうーんこれは現実なのかなーそれとも妄想なのかなーと思わせる余地もあるのだが、このイジメ老人のイジメターゲットはもう一人いて、その人と主人公はあいつのイジメどうしようみたいなことを結構話すものだから、わりあいスルッとイジメっ子妄想説は排除されてしまうのだ。

もっとも、そうしたところはおそらく映画の主眼ではなく、主眼はあくまでも自分の老いと死の訪れを受け入れることの出来ない主人公がいかにしてその無情な現実を受け入れるか、というそれである。舞台となる介護ホームには次に死ぬ入所者のところにばかり行くと噂される不吉なかわいいネコチャンがいるのだが、例のイジメ老人というのはそれの人間バージョンみたいなもので、入所者たちにいかに自分は無力で死の運命に抗えないかをわからせる死神なんである。

介護ホーム映画の傑作『プレスリーVSミイラ男』では生きていたプレスリー(を自称する入所者)と生きていたケネディ(を自称する黒人入所者)がホーム内の老人を次々と襲って魂を食って行くミイラ男と戦うことで逃れられない死の運命に抗おうとする感動作だったが、本質的には『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』もやっていることはそれと同じ。主人公とそのイジメられ仲間は一旦はイジメ老人に屈して自分はもう何をしても無駄なんだと無力感に苛まれるが、こなくそ、こんなところで燃え尽きてたまるかよ……たとえ負けてもせめて抵抗ぐらいはしてやろうじゃねぇの! と決死の抵抗を試みる。相手はイジメ老人というよりもそれが象徴する死という概念なので、勝てるか勝てないかでいったら勝てるわけがないのだが、それでも諦めるわけにはいかないというそのいじましい老人心理がここでもちょっと泣ける感じである。

なかなか淡泊な映画なのでもう一展開あればなぁと思わないところもないでもないけど、その枯れた感じも老人映画だし味といえば味か。なんとなくハリウッドリメイクとかされそうな気がするので、ハリウッド版が作られたらたぶんその時はイジメ老人と主人公の介護士が気付かない水面下のバトルがもっとバチバチに描かれたりするのかもしれない。

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