《推定睡眠時間:50分》
なんかよくわからんが金を持ってる企業に恨みを抱く男ビル・スカルスガルドが社長の息子の首にちょっとでも動いたらショットガン発砲装置を取り付けて「俺の話を聞け!」とメディアに要求するという映画とくれば真っ先に思い出されるのは『狼たちの午後』、実話を基にした映画ということだが画面を見る限り時代設定は1970年代と思われるのでなるほど『狼たちの午後』の時代である。俺が選ぶアメリカ映画の名監督10人なんてランキングがあれば『狼たちの午後』を監督したシドニー・ルメットは間違いなく入るからもちろん『狼たちの午後』大好き。そういうネタの映画なんて面白いに決まってるだろうと思って映画館に入ったのであった。
ところがこれが面白くないわけではないのだがどうも盛り上がってくれない。その理由はといえば比較的最初の方からちょっとユーモラスに演出されており変な動きをしたら即ショットガン暴発というかなり面白いサスペンス装置があるのにも関わらず緊迫感が薄いためで、夏ってんで映画館が過剰エアコンで激寒いというのもあり妙にしまりなくダラダラと人質事件が続くものだから眠くなってしまった。『狼たちの午後』も犯人コンビが間抜けなので笑えるところは結構あるとはいえ、その笑いはあくまでもサスペンスの中にスパイスとして入ってくるから効いていたんである。でも『デッドマンズ・ワイヤー』はなんだか最初からサスペンス映画としてこの事件を撮ることを諦めてしまっているかのようだ。
同じく70年代実録犯罪&人質事件のアメリカ(カナダ合作)映画では『ストックホルム・ケース』というのも何年か前にあったのだが、これもやっぱりユーモア偏重でサスペンスが薄くてあんまり面白くはなかった。最近のアメリカ映画界はこういう内容ではサスペンスフルで面白い映画を作れなくなってしまったのだろうか? とか思いながら寝ぼけ眼でエンディングに突入したら実際の事件の映像が出てきたのだが、そこに出てきた犯人、ハゲデブのかなりアホそうなオッサンである。なんだよ! ビル・スカルスガルドが演じてたカッコイイ犯人と全然違うぞ! ……観たい! ビル・スカルスガルドじゃなくてこのキモハゲデブのオッサン主演の映画が観たいよ!
それでその実際の映像を見ていろいろ腑に落ちたんだよな。映画の最後は裁判のシーンなんですけどそこでちょっと考えられないような評決が出たからえ何でって思ったけど、うーんなるほどな、実際のオッサンの映像を見たらああなんかそんな評決も出そうだなって思った。映画だとねビル・スカルスガルドがちょっとカッコよく犯人を演じてるから判決の理由がピンと来ないんですけど、実際の犯人のオッサンはそういうカッコイイ人ではないんだよね。『ストックホルム・ケース』もそうでしたけどアメリカ資本の中~大規模映画なんかは主演を美男美女にしろっていう暗黙の命令があるからこういう小汚いオッサンは主演になれないんですけど、そのためにラストの展開が説得力を失っているわけだから、なんでもかんでも美男美女でやりゃあ良いってもんじゃないよ。『狼たちの午後』だって主演のアル・パチーノとジョン・カザールはハリウッド的な美男美女からはかなり離れた怪優とか奇人っぽい見た目だったもん。だから『狼たちの午後』は物語に説得力があったんだよね。こういう人たちなら追い詰められて変な犯罪やるかもなみたいな。
でそれは展開の不自然さだけじゃなくてサスペンスとしての面白くなさにも繋がってるよね。カッコイイ犯人だと何をしでかすかわからない怖さって不思議と感じないじゃないですか。それに対してドブ川から釣ってきたみたいな小汚いオッサンが犯人だったらコイツは何をしでかすかわかんねぇぞって怖さがあんのよ。なんでだろうね。たとえば身なりなのかもしれません。ビル・スカルスガルドは髪はちゃんと整髪料使ってるしヒゲはキレイに整えてたし服もまぁまぁパシっとしたもの着てますし、それになりより身体をちゃんと鍛えているのでお腹がぽっこり出たりしておりません。そういう人を見ると俺としてはあぁこの人は身だしなみに気を使ってるからちゃんとしただなって思っちゃって安心感を抱いちゃう。でもエンドロールに出てくる実際の犯人はハゲデブの上に言動は怪しく服もヨレヨレのきったねぇやつ着てる。そりゃあね、どっちが危険人物でSHOWをやったら間違いなく後者の圧勝ですよ。
まぁ何を取るかって話かもしれませんね。サスペンス映画として面白く作るんだったら主演は実際の犯人に似せたキモハゲデブの役者さんにやってもらった方が絶対におもしろい。たとえばヴィンセント・ドノフリオみたいなさ。でも社会風刺の入ったスタイリッシュなクライム・コメディとして見せたいんだったらヴィンセント・ドノフリオだといささか泥臭すぎるのでビル・スカルスガルドの方がよかったのかもしれません。この映画はそのどちらを取るかというところで後ろの方を取ったんだよね。だからサスペンス映画として食い足りないのは当たり前のことなのかもしれません。たしかにまぁ、ガス・ヴァン・サントという監督がそれこそ70年代スタイルの泥臭くも硬派な社会派サスペンスを撮るイメージはない。実録ネタのサスペンスを撮るにしても『エレファント』とか典型でスタイリッシュに美化しちゃうんだよなこの人は。
個人的にはそういう映画はあまり好みではない。犯人がメディアを利用して自分の主張を喧伝しようとした事件なので報道映像はいろいろ残っているはずで、もしその映像をたくさん使ったこの事件のドキュメンタリーがあるのなら、そっちの方がなんだか綺麗事のようになってしまった『デッドマンズ・ワイヤー』よりも見応えがあって面白いんじゃないでしょーか。
※悪いヤツに騙されてスッカラカンになった男がブチ切れ立てこもり事件を敢行しメディアを通して主張を~ということで観ながら思い出したのがジョディ・フォスター監督の『マネーモンスター』。こちらの方は緊迫感のあるサスペンスでありつつ社会風刺も存分に効いて90分ぐらいという午後ロー感もある面白い社会派サスペンスだった。