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いくらなんでも俺だけではないはずなのだがこの映画の監督リック・ローマン・ウォー、『グリーンランド』や『カンダハル 突破せよ』を撮った人なのだが、この人のサスペンス醸成力はスゴイと褒めている人を超寡聞にしてぜんぜん見たことない。『グリーンランド』とかおそらくアメリカのよくある大味な地球滅亡危機もの(『ディープ・インパクト』とか)ぐらいな感じで理解されていると思うのだが、いやいやとんでもない、『グリーンランド』はなんでもない日常がジリジリと破局に向かって壊れていくその静かなるサスペンス、そしてそのサスペンスが最大限に高まったところで突如として爆発するアクション、それらを支える確かなディテールが見事な傑作ではないですか。
昨今こうした定番料理を王道の味付けで上手く調理した職人の逸品よりも一発ネタ的な発想でバズろうとするジャンル映画が多いように感じて俺としてはなかなか困り顔であるが、そんな中でこの『シェルター』、リック・ローマン・ウォー監督によるステイサム映画である。いやぁ、これは近年のステイサム映画で俺的にはベストですよベスト。いろいろあって自滅したスティーヴン・セガール(現在『刑事ニコ』の続編を計画中との怪報あり)に代わって今やステイサムがセガール・ポジション、すなわち超人的に強いステイサムが一方的に悪人をバッタバッタとぶっ殺していくだけという水戸黄門の如しアクション映画を連発するようになり、たとえば『ビーキーパー』がその典型的な1本だったが、レンタルビデオ全盛期であればビデオ屋のド定番料理だったに違いないステイサム映画も、ウォーが腕を振るえばしっかりB級の一級品というまったく矛盾した作品になるのだ。
なぜか孤島に隠居している超人的に強いステイサムが主人公とだけ書けばストーリー説明などいらないだろう。まぁいつもの実は特殊部隊が云々とかそういう感じのアレである。そんなことよりも瞠目すべきはやはり静かなるサスペンス、そしてサスペンスが臨界点に到達したところで爆発するアクションだ。たとえば、ステイサムが初バトルを披露する直前のこんなシーン。ステイサムは孤島の灯台の中で訳あって保護することになった少女と静かにご飯を食べているのだが、何かが聞こえたのかそれとも尋常ならざる訓練等によって獲得されたプロの勘のようなものなのか、何かを察知したステイサムは突然立ち上がると素早い動作で窓辺に向かい双眼鏡を海へと向ける。するとそこには島に近づくMI6の急襲部隊のボートが見えるではないか。
たいへんよくありがちなシーンと思われるかもしれないがいやそうではないのだ。というかシーン自体はありがちだが、ステイサムが急襲部隊を発見したその瞬間に凡百な監督ならズドーンと効果音を入れるとか緊迫感のある音楽に切り替えるとか急にチャカチャカとカットを割る編集にして大変だぞ~感を醸し出そうとしてしまうもの。でもこの映画は違うんだな。そこであえて静かなムードを保ちつつステイサムが敵襲に備えて武装していく様子をフラットに捉えることで平和な日常の水面下での崩壊を印象付けるのです。そしていざ戦闘が始まると容赦なしの殺戮つるべ打ち。この緩急、静と動の対比がすばらしい。
クラブでのバトルが始まるところとかグッと来ましたよ。ステイサムがクラブ内で追っ手を発見、追っ手もステイサムに気付いて、ステイサム応戦するために有利な場所へと一旦引いていく、引きながら懐から拳銃を取り出す……とこういう流れだが、ここでステイサムが歩きながら拳銃を取り出した瞬間すれ違った若い男が「あれっ」て感じで振り返ってステイサムを見つつ、でも叫ぶでもなく止めるでもなくそのまま歩き去ってしまう。その直後、トイレかなんかから若い女が出てくると同時に角の向こうから追っ手が姿を現して銃撃開始、ステイサムすかさず応戦して、突然目の前で始まった銃撃戦にトイレかなんかから出てきた若い女仰天して思わず悲鳴! というのをワンカットで撮る。こんなのもうめっちゃイイだろう、このリアルなディテールの積み重ねによってカットを刻まず徐々に緊張を高めていくっていうの。
でなんで近年のステイサム映画の中でこれが俺ベストかっていうとそういう小手先ではない確かな演出力に加えて今回ステイサム、なんと苦戦します。「なんと」になってしまうのはどうなのかと思うがまぁみんなが観たいステイサム映画は『ビーキーパー』みたいなのだから仕方がない、ということはこれはステイサム無双を求める観客にはあまり喜ばれることではないかもしれないのだが、コードネーム:ワークマンという凄腕の諜報員兼暗殺者がステイサムを『ターミネーター2』のロバート・パトリックの如く執拗に追跡してこいつが実質的なラスボス、そしてコイツがかなり強いのである。
なにせあのステイサムを二度も三度も襲撃、ふつうの敵なら一度の襲撃でステイサムの殺人反撃を食らって死ぬことが確実なのに、ワークマンはステイサムの反撃を食らっても死なないどころか逆にステイサムをあと一歩で殺せるというところまで追い詰め、ステイサムは少なくとも今は勝ち目なしと踏んで逃走することになるんである。これはもうステイサム映画史上最強の敵と言っても過言ではないのではないか。単に強いだけでなく最後の最後に二言三言発する以外は台詞がなく、完全無感情のまま粛々とステイサム追撃の障害となると判断した民間人や警官を排除していくのだから実におそるべきワークマン。コイツとステイサムの工作室でのバトルはまさに死闘でこれもまたステイサム映画史上のベストバウト候補になるのではないだろうか。近接格闘の演出も地味に迫力あって本当に痛そうだから結構スゴイ。
なんだか宣伝のような書きっぷりになってしまったがしょうがないじゃない、だって悪いところないんだから。これは本当に巧い映画なんだよ。突飛な設定も捻ったシナリオも華やかな大スタア競演もない、その意味で引っかかりの少ない映画であることは間違いないが、とくにネットに情報も載ってない町の小さな中華料理屋に入ってチャーハン頼んだらなにこれめっちゃうめぇじゃんっていう、そういう感じである。ありきたりな注文で確かな料理を作れるということは決して当たり前のことではなく立派な技能、そういう技能を持った映画人によって作られた作品てぇのは観ていて気持ちのイイもんです。