ベトナム式わいわい鑑賞推奨映画『ラウ・チュー・ホア:あの屋敷には、何かいる』感想文

《推定睡眠時間:15分》

なんとなく新宿ピカデリー(上映館)のチラシ置き場にチラシが置いてあるのは見たような気がするとはいえホラーっぽいという以外に何も知らなかったこの映画、とくに話題になっている気配もなかったのだがチケットをネット予約しようとしたら座席数100ぐらいの小さめのシアターとはいえほぼ満席で面食らってしまった。なんでしょう、舞台挨拶でもあるのだろうか知らんけど、とか考えるもとくにそんなことは映画館のサイトに書いてない。これはいったいどういうアレでこの無名に近い映画にこれほど人が集っているのか……?

その答えはシアターに入るとなんとなく察せられた。日本のシネコンとしては珍しくお客さんがわいわいとよく喋っているなぁと思ったらこの映画ベトナム/韓国合作、といっても韓国要素はほとんどないので基本的にはベトナム映画と考えていいだろう。ベトナム映画なので言語はベトナム語だが英語字幕が入ってる。そしてその上に日本語字幕が表示されるのだが、何秒間に何文字とかここでは文字と文字の間に空白を入れるとかそういう一般的な劇場公開作の字幕レギュレーションは守られていないので、これはプロの翻訳家が付けた字幕ではない。ということはたぶん日本の観客をメイン客層とした興行ではないんだろう。このたくさんのお客さんはどこから来たのかといえば、在日ベトナム・コミュニティなのである。なるほど映画サイトの解説を読んだらベトナムのSNSで話題になった映画と書かれていた。

いやぁ、ベトナムの人って結構日本にいるもんなんですねぇ。新宿という多国籍地域だからではあるのだろうが、普段の生活の中でベトナムの人と交流を持つ機会があまりないので(お寿司屋さんとかコンビニで働いてるのはわりと見る気がする)なんだか新鮮な驚きがある。それは鑑賞スタイルもそうで、昔からよく言われることだが、日本の観客はホラー映画の上映中でもほんとシーンと静まりかえって顔色を変えてくれない(渋谷・池袋なんかの中高生客の多い上映回はその限りではない)。アメリカの観客なんかは騒ぐために映画館に来ているぐらいうるさくホラー映画を観るというが、ベトナムの若もんたちにとってもホラー映画はわいわい楽しむもののようだ。来るぞ来るぞ……というシーンで場内ざわめき、登場人物が恐怖のあまり変顔を見せればほがらかに笑い、人がブシャッと死んだりするとベトナム語で何と言っているのかは知らないが「オーマイガッ!」的な反応を示してくれるのであった。これだけお客さんがダイレクトに反応してくれたらさぞかし作ってる方もやりがいがあって楽しいだろう(もしかするとそれがホラー映画の盛んな国の条件なのかもしれない)

そうした鑑賞スタイルに合わせてか人死にがダイナミックで良い。あ書き忘れてましたがこれはPOVのファウンド・フッテージもの、ホラー配信でお金を稼いでいる配信者グループが曰く付きの廃墟で不謹慎にも探検&除霊会配信を行ったところ霊激おこというそれ韓国のPOVホラー『コンジアム』だろみたいな内容です(本当によく似てるのでリメイクかと思いエンドロールを探したがそれっぽいクレジットは見つけられなかった)。ということで言うまでもなく不謹慎な配信者グループの若造どもはオバケにザックザックと狩られていくわけだが、その死に方というのが首をちょん切られて頭部ゴロゴロとか強制飛び降りさせられて地面にボトンとか壁に何度も頭を叩きつけられてグシャリとかいうものばかりで、毎回周囲に血が飛び散りグチャッ! という効果音が鳴るのでちょっと笑ってしまう。ダイレクトな反応をしてくれるお客さんに向けてはホラー映画の作り手もダイレクトなホラー描写をサービスで入れるのである。

ぶっちゃけ作りは『コンジアム』なので『コンジアム』同様にあまり捻ったところはなくただただ大味な恐怖シーンを繋げたという感じ、その手数の多さはオバケ屋敷的に楽しめるものの、単調は単調なので楽しい惨死の連続なのにわりと眠くなる。角の向こうとかベッドの陰からオバケがぬーっと顔を出したりするところは心霊写真みがあってゾクリとさせられるんですけど、まぁ結局わーとか言いながらカメラに向かって走ってきたりしちゃうからな。ベトナムの民族楽器的なもので鼓膜を破る死の演奏会のシーンだけは毛色が違ったけれども基本はそういう映画、だからこれは観るアトラクションなんだろうな。一人で観に行って真剣に怖くなる映画っていうんじゃなくて友達恋人同僚と観に行ってわいわいはしゃぎながら観る映画。

そういう映画を観るには実に良い環境だったので、作品自体の出来は大したことないと思うが面白さが何倍か底上げされた気がする。たぶん『事故物件』とかああいう映画も目指すところはこれなんだろう。昨今の日本のSNSなどでは映画は厳粛に観るもので隣の席の客が音を立てるのも許せないというようないささか神経質が過ぎる意見も散見されるが、そりゃまぁ映画史上の名作とかならそうかもしれないとしても、ホラー映画なんていうのは基本的には時間つぶしと気晴らしの娯楽である。ベトナムのおおらかなお客さんたちを見習って日本のお客さんも肩の力を抜いてわいわい楽しんでくれたら、映画館で観るホラー映画はもっと面白くなるんじゃないかと思うのだが。

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