『希望のかなた』を見た感想

《推定睡眠時間:20分》

原題のニュアンスはまったくわからないが英語題は『THE OTHER SIDE OF HOPE』というらしく邦題との微妙な差異がちょっとだけおもしろい。英語題だと二重性のイメージでシリア難民の人の映画なので希望の語が意味するのは第一には亡命だろ、亡命の光と陰とかなんかそういう感じになりかつまたシリア難民の人とレストランオーナーの人のおっさん二人が実質的にダブル主演なので云々になるが『希望のかなた』は、希望のかなたにはどうせ闇があるのであるいは光なのかもしれないが指し示す対象としては同じだとしてもそれが同じ場所に同時に存在してしまうような二重性に揺らぐ印象は与えない。与えないかどうかは知らないが個人的には感じない。

というのがなんかアキ・カウリスマキの映画っぽいと思うなどしておもしろいという話で、あの明瞭簡潔断捨離叙述は人が死ぬときには死ぬことしか見せないし人がラッキーを手にしたらラッキーしか見せてくれないので映像的にはハードボイルドのようだ、ハードボイルドのようだということはモノが二重に映ったりは絶対にしないのだ。見える限りにおいて一義的でしかあり得ない線条的で厳粛な世界は『希望のかなた』がしっくりくる。

一方でハードボイルド的情無用の殺伐世界を奇妙なメルヘンコメディ略してメルコメに見せてしまうのもカウリスマキのふしぎな映画だと思われるのでその方向から見るとたぶんきっとこれは『THE OTHER SIDE OF HOPE』のほうがしっくりくるのじゃないの。
まったく創意を感じさせないザ・シンプル海外題二種に相違を感じさせてちょっとおもしろくしてしまうカウリスマキ映画であった。

内容的にはたぶんいつもとおなじ感じなので難民ものに挑戦だみたいな気負いがまったくないわけではなかったのかもしれないが見ている分にはまったくないというのが逆にすごい、ゾンビみたいな難民の人登場シーンあれ前見たぞ『浮き雲』とかで。
だいたい、カウリスマキのものがたりに出てくる人は住まいを追われたかなんかでさすらう羽目になってしまった人ばかりなイメージだから今までだって亡命者を描いていたようなものなんじゃないですか。だから難民大変ですねと言うときの大変が、同情じゃなくて共感になっている気がして良いよね。

共感といったところでカウリスマキ的放浪者には背負いきれない重荷を背負っている設定のこの難民の人ではあったがこれ重すぎるから激シリアスにしようぜor見なかったことにしようぜの政治的イス取りゲームに興じるかしこい人々より倫理的かどうかはともかくシンプル共感の方が見ていて気持ちがよいのは確か。駅の人のそれとない連帯感など。

おもしろかったのはやっぱあれだなあそこは笑うに笑ったよな大パチモノ日本料理店。難民の人が働くレストランに人がこない。使えるのか使えないのかいまいちわからない参謀が行動力はクソあるが判断力がクソないオーナーに進言。今はスシ屋が流行ってるらしい。じゃあやろう。すぐに店はスシレストランに変貌するが誰もスシとか知らないのでワサビをサーティワンアイスクリームみたいな感じで刺身に盛っていく。盛ればいいんでしょ? 文句言われたらとりあえず日本酒出しとけ。

ジャポニスト・カウリスマキの外しネタの数々笑ってしまうがそれは笑ってしまうがそれにしても制度的にも運用的にも地理的にも言語的にもスーパー難民バリアー発動中のお国の人間的に若干の罪悪感を覚えないわけでもなくここでも笑いのもう一つの顔または笑いのかなたが垣間見えるのだった。

わりと人生どうとでもなるという話でもどうとでもならないという話でもあったな。で、どうとでもなることが良いことでどうとでもならないことが悪いこととか、そういう安易な逃げ道はくれないハードボイルドカウリスマキなので、どうとでもなってしまう世の中の適当と偶然が希望として現れることもあればその逆としてもまた、というわけで難民放浪記の最後らへんに訪れる適当の軽さが重量級に痛い。

こんな適当に人生台無しにされたらたまったもんじゃありませんわ。でもじゃあどうとでもならない不自由な予定調和を望むかといったらそれも嫌だしなあ。どうとでもなることとどうとでもならないことの隙間をギター一本とアルコールで放浪するかのようなカウリスマキ映画だしカウリスマキ的人物だしあーそれ難民っぽいなぁ、ていうことでハードコア難民ものがたりがこーんなナチュラルな浸透力を持つんだろうと思えばマンネリーないつものカウリスマキ世界が普通に展開されていることにすごいなぁを感じるのであった。おわり。

【ママー!これ買ってー!】


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作家の世界観に難民の存在がちょうどよい感じに嵌まってしまった系の難民共感映画。この主人公の人はスリランカ難民でした。

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2 Comments
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さるこ
さるこ
2017年12月25日 9:21 PM

観た後、ほんのり哀しく同時にほっこりするのですが、あくまで監督はクールでシリアスだな…。日本は、私は、難民をどう受け入れるのか、考えてるとしんどかったです。