お肉おいしい映画『RAW 少女のめざめ』の感想(ネタバレ多少注意)

《推定睡眠時間:0分》

獣医一家のどうぶつ大好きヴィーガン少女がおねえちゃんも通う獣医学校に新入学! おねえちゃん元気かなぁ! どんなキャンパスライフが待ち受けているのかなぁ! 友達100人できるかなぁ! 豚の血、ザバァ。
待ち受けていたのは容赦のない先輩シゴキとリア充強制、そしてウェイの暗黒面に染まったかつてのおねえちゃんであった。暗黒ウェイと先輩シゴキと言えば米国大学の友愛会だが、米国大学の友愛会といえば『アニマルハウス』。幼気な少女がまさにアニマルハウスに放り出されてぶっ壊れていくのが『RAW』なんである。

この先輩シゴキがすごい。まだ荷ほどきもロクに済んでない(全寮制)ところに目出し帽を被った先輩群団が奇声を発しながら乱入、部屋を荒らしてベッドを窓から放り出すなど常軌を逸した犯罪的暴れっぷり。てめぇらさっさと部屋から出やがれ! 今夜はオールで新歓レイヴだぜぇぇぇぇ!!!!
遊びに来た友達がポテチを素手で食いながらゲームのコントローラーを握ったりするのが許せない。本棚とかDVD棚から取った本なりDVDを違う位置に戻されると許せないとは言わないがイラっとはくる。俺は神経質な人間なので最序盤にあたる上のシーンで早くも食人を許可しました。はやくこいつら全員食べてくれ少女。『地獄の謝肉祭』みたいに。

先輩シゴキと先輩どものバカさに入学早々うんざりの少女だったがバカなんて放っとけばいいんだし、どんなにバカでもしきたりはしきたりだからしょうがない。
そこらへんは我慢できないこともなかったらしいが、おねえちゃんの裏切りには我慢がならなかった。ウェイの暗黒面に堕ちたおねえちゃんはウェイの群れに自分もウェイであることアピールするためだけにノンウェイな妹に牛の睾丸かなんかを食わせる。ウェーイ。てめぇこの野郎わたしがヴィーガンだって知ってるだろが!

ストレスもあったんだろう、その夜の少女はお肉のアレルギー反応がボリボリ出ちゃってもう大変。ベッドの中でのたうちながらボリボリボリボリ体中を掻きむしる。かゆい。むかつく。ねむれない。
わかるよ超わかるよ俺はアトピーだったからな。なかなか寝つけない夜につい布団の中で掻いたりすると痒みが雪だるま式に全身に広がってっちゃって、そのストレスで半ば自傷的にどんどん掻くっていう負のスパイラルに入るんだよな。

掻きむしった患部からは血とリンパ液がべっちゃり出てくる。そこまで酷くない部分は粉を吹く。脱皮するが如く翌朝の少女は炎症を起こした部分の皮を剥いていたが、症状としては違うとしても感覚的には共通するものを感じてしまったなこれは。
皮膚が自分の身体の一部じゃないように感じる。肉が裂けんばかりの勢いで脇の下とか膝の裏とか掻きむしりながら、その下から骨が現われる様を妄想する。偽物の皮膚に覆われた本当の自分の身体というようなものを。

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そんなこんなで少女に食肉願望が芽生えてしまって、抑圧された、またはルールを知らない、ともかく無垢な存在ほど歯止めが利かないってなもんで食人にまで発展するわけですが、お話の方はといえばセックスフレンドの奪い合いを含む姉との確執にシフトしていくのでぶっちゃけあんまりお肉は食べないのであった。
いや、食えよ! そいつら全員食えよ! 食われた方も食いたくなるの『地獄の謝肉祭』学説にでも根拠を仰いでアニマルハウスの鬼畜先輩も家畜後輩も全員食って食い合えよ! 食人革命勃発しろよ!
それはもうカニバル映画じゃなくてゾンビ映画か。そういうの、期待してはいかんかった。

でもおもしろい映画でしたよ。生理的嫌悪感を煽りまくる映像とかうげーってなるしね。剥がれる表皮、吐き出す髪の毛、白衣にこびりつく血液と動物の排泄補助。あぁ悪趣味。ギャスパー・ノエの『カルネ』みたい。
悪趣味は悪趣味も見世物の悪趣味というよりはアートの悪趣味、つまりスノッブ。ダミアン・ハーストの牛アート、アンディ・ウォーホルのトラッシュ映画、のようなもの。
そのいけすかなさも含めての悪趣味演出と好意的に解釈しよう。客の神経を逆なでするという意味ではルチオ・フルチの客目を意識したサービス悪趣味なんか遙かに凌駕。好きなのはもちろんフルチの悪趣味ですがね。

空虚なスノッブ悪趣味は空虚な人間関係を戯画的に飾り付ける。これはいったいなんなのかと思えばそれこそハーストの牛ではないけれど、枠から出られない人たちのお話なのだった。
枠。学校でも派閥でも趣味仲間でもイデオロギー集団でもなんでもいいが、社会の中に生きるということは結局なんらかの枠に入らざるを得ないのだし、そこから抜け出した本当の自分とか、独立した自己というものはあり得ないのだし、だったら社会を捨ててしまえばいいじゃないですか人間食うとかして、みたいな自然回帰の理想さえも視野を広げればまた別の枠の中に入っただけなのだと吐き捨てるかのようなお話。

そのへん徹底していたな。人間と動物は同じだと語っていた少女は皮肉にも食肉に目覚めたことで人間と動物の距離を思い知る。食えば食うほど動物からは離れて人間の枠の方が迫ってくる。
リア充であろうとすればするほどリア充になりきれない自分を少女の姉は自覚する。どうせ枠に入るなら自分で選びたい。本当はくそったれ先輩ルールで無理矢理入れられた枠なのに、さも自ら選んだ枠であるかのように枠と同化しようとするが、それも叶わないかなしさ。

自由意志なんてあるわけないじゃん。選ばされた枠の中で主人として振る舞おうとする人々を冷徹に突き放すその一方で、選ばされた枠の中で唯々諾々と主人に従う人々を家畜扱いしてあざ笑うんだから、えらい意地の悪い映画じゃないすかこれは。
ゲイの人がゲイとしてのアイデンティティに固執する様を滑稽なものとして切り取るとか、とくにエクスキューズもなくぞんざいに扱ってるからアメリカ映画だったら非難の嵐だろうたぶん。

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俺のアトピーは高校卒業後ぐらいから徐々に治まっていったが、最も症状の酷かった中学生の頃に完全自分用の映画脚本というのを掻いていていや書いていて、思い出せる限りではその一本はこんな内容である。
かつてはUFOの名産地(?)として潤っていたが、今はすっかり寂れた北陸の田舎町にアトピー持ちの少年がいた。両親は離婚していて家庭環境はあまり良くない。養育権を持たない実の父親は山中に隠遁して日夜チャネリング行っているあたまのおかしなUFO研究家という設定で、これら諸々の複合的な事情からアトピー少年は学校では異端視されていじめられている。

そんな折、町に久々のUFO騒動が持ち上がる。少年はこれに自己の逃避願望を託して、唯一友人になってくれた女子を色々あって父親がいつもチャネリングしている山中に呼び出して絞め殺すと、精神崩壊を起こして全身を掻きむしる。すると破れた皮膚の下からエイリアンのつやつやした姿態が現われたではないか。やった! やっぱり俺はエイリアンだったんだ!
晴れてエイリアンとなった少年はUFOに回収されてよかったねというファンタジックなアトピー暗黒譚であった。ちなみにタイトルは『火星の生活』といった…。

そんなわけで俺にはとても他人事とは思えない映画がこの『RAW』だったんですがー、他人事とは思えない分やっぱフラストレーション溜ったな。本当全然食ってくれないからな…。
鬼畜先輩どもの仕打ちにムカつきすぎて途中から脳内でNINの『The Hand That Feeds』ガンガン鳴ってんだからこっちは。それは食べてくれないと。枠に翻弄される人間どもを風刺的に描き出そうとした的な高尚な意図もあるのかもしれないけどさぁ。

ていうモヤモヤ感はめちゃくちゃあったな。頭のいい悪趣味映画特有の臭みが。よくできてるからモヤモヤするっていうんだからジャンル映画も難しいよ。俺はやっぱ『地獄の謝肉祭』ぐらいの温度と完成度がちょうどいいっすね食人映画だと…。

【ママー!これ買ってー!】


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