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昨年末に『アイ・ライク・ムービーズ』っていうカナダの青春映画が映画館でやってて、なんか映画大好きを自称する自己中心的で友達の居ない高校生がレンタルビデオ屋でバイトを始めて己の愚に気付いていくみたいなやつなんですけど、それを観てムカついてしょうがなかったのはいや映画あんま関係ないじゃんみたいな。アイライクから始まるタイトルが示唆的だが主語は自分で映画じゃないんですよこの主人公。映画が好きなのは友達がうまく作れないからで、だから大学デビューした主人公が映画じゃなくてリアル友達を作ろうとするってオチになってて、つまり映画は噛ませだった。うわーいるわーこういう映画じゃなくて映画が好きな自分が好きなひとーと思わされる点ではリアルで面白い映画だったとも言えるが、そんなやつの物語をイイ話風に落とすなと思うし、あとついでに言えばレンタルビデオ屋の映画だからってんでこれを上映してた映画館でタイアップ企画的にVHSテープを売ってたんですけど、そのラインナップが『ダイ・ハード』とか『フォレスト・ガンプ』とかそういうやつで、それも巻き添え的にムカついた。
あのさ、俺も中古VHSテープは見つけたらサルベージしてますけど、それはDVDとかBlu-rayとかになってないソフトがVHSにはたくさん残ってるからで、DVDでも配信でもなんでも観られる『ダイ・ハード』なんか予告編を収集したりVHS用にトリミングされた画面を記録に残しておく以外の理由でVHSを買う必要はないわけで、そういうね、そういう…そういうことじゃないんだよ!! VHSっていうスタイルが好きなんじゃなくていやそれも好きっちゃ好きだけど俺たちがVHSを集めるのはVHSじゃないと観られない映画があるからなのに、なんかそれが昭和レトロ的な懐古趣味として解釈された感じで心外ですよそれは…! いいよ別にそういう人がいても! でもそれを「ほら映画好きビデオ好きってこんな感じでしょ?」と見せてくるなよ! そういういつでも別趣味に鞍替えできるような軽症者ともう今更映画以外の世界には腰を据えることができないから仕方が無く『ゾンビ』とかを飽きること無くいつまでも繰り返し観てるよな重症者を一緒にしないでください! トリアージ! トリアージ!
でまぁそんな意味での重症軽症でいえばこの映画『キムズビデオ』は明らかに軽症の人、つまりは映画が好きであるよりは映画が好きな自分が好きな人の撮った映画だったので、『アイ・ライク・ムービーズ』同様にムカついた。なんでもニューヨークには二十年ほど前までキムズビデオなる海賊版とかたくさん置いてあるマニア御用達のレンタルビデオ屋があったらしい。そのコレクションは貴重なので閉店時に譲渡しますよと広告を出したらシチリアの自治体から応募があってキムズビデオのビデオコレクションはそこに寄贈されたのだが、この映画の監督がビデオを見に当地へと向かうとビデオ博物館作ったり上映企画をやったりするという当初の計画案はいつの間にか棚上げになっててキムズビデオのコレクションは倉庫に雑に放置されていた。これは許せんと憤った監督はビデオコレクションを奪還しニューヨークに戻そうとするのだった…というのがまぁおおまかな筋であるからそれだけ聞けば映画マニアホイホイだ。
だがぜんぜんホイホイされねぇ…! それはあまりにも監督の自己アピールが強すぎるからであった。監督が出ずっぱりなのはまぁ良いといえば良い。シチリアを訪れた英語しか出来ない監督が英語の出来ない現地の人々に向って「VHS! DVD!」とか言ってビデオ博物館の場所を聞き出そうとするあたり『進め電波少年』みたいで笑えたが(実際はGoogleマップを見ればいいだけなんだからこれは明らかに「見せ場」として撮られたシーンだ)、それから起こる出来事をまとめれば一言、自治体と交渉してビデオコレクションを返してもらった、ただそれだけ。ところがこの監督ときたらただそれだけの話を自分を主役にしたサスペンス映画みたいに飾り立てる。そして自分こそがビデオコレクションを救ったヒーローだという物語をでっち上げてしまうのだ…!
バカじゃねぇのかと思うあいやそれは言い過ぎかもしれないですがアホじゃねぇのかぐらいは思います。そりゃたしかにビデオコレクション返還のためにいろいろ自治体と交渉したりはしたんでしょうからその点でこの監督は偉いかもしれないですけど、それが事実だとするならばこのドキュメンタリー映画を盛り上げると同時に映画大好きな自分というキャラクターをアピールするためにこの監督はシチリアの倉庫にあるビデオコレクションをトラックで豪快に盗み出すんである(後から金は払った模様)。どうせ放置してたビデオだし維持費がいらなくなって助かるぐらいな感じで自治体側も大目に見てくれたらしいが、こんなもん映画第一に考えたらどう考えてもあるまじき行動だろうが。だって自治体側が寛容だったから良かったけれども普通にこんなの刑事告発事案なんだから。そしたら話がこじれてビデオは何年も戻ってこないかもしれないし、警察に押収されて警察の倉庫に雑に置かれてるうちにもしかしたら中にあるレアものビデオがどっかに行ってしまうかもしれないし。本人ナレーションによれば返還交渉には一年を要したというが、そもそも最初からお金を払いますから返して下さいと提案してたら普通に帰ってきてただろどうせ倉庫代ばかりを食い潰す無駄な棚上げ事業だったんだから。
あぁ下らない。ただそれだけの話であったはずなのに、シチリアの倉庫に眠っていたキムズビデオのビデオたちはこの監督の俺様アピールのために利用されてしまったのだ。しかもビデオ譲渡の事業に携わった政治家はマフィアとの関係が噂されているとかその捜査担当者が不審死を遂げたとかまるで根拠のない薄っぺらい安物エピソードで粉飾されて(百歩譲って仮にそうだったとしても、それがいったいなんだというのだろう? いくらにもならないたかがビデオ譲渡事業なんかマフィアはどうでもいいだろうし、結局カネにならず今は放置されてるビデオなら、もうとっくにマフィアの管轄外だと思うのだが)
今に始まった事でもないかもしれないが、映像撮影や編集が素人でも簡単にできるようになった昨今はとくに、ドキュメンタリー映画が自称ドキュメンタリー監督たちの自己宣伝の道具と堕しているようなケースが増えてきているように感じられる。本気のドキュメンタリー映画と単なる売り込みビデオを見分けるための教材としては、この映画も有用かもしれない。
今週は「タローマン万博大爆発」見ました。
こちらもノスタルジー売りだけど(岡本太郎のリバイバルブームを狙う)って点では志が高かったりして?