映画『UFO真相検証ファイルPart2/衝撃!カメラに映った宇宙人たち 』感想文

《推定睡眠時間:0分》

前作の感想→ガチ映画『UFO真相検証ファイルPart1/戦慄!宇宙人拉致事件の真実』ガチ感想文

確かにパート1はつまらなかったので配給TOCANAのツイッター公式アカウントが「ぶっちゃけパート1より面白いです」とか宣伝ツイートしているのを見た時にはパート1があれならたぶんそうだろと納得する反面テメェで前後編に分割しといてその言い草はねぇだろとも思ったのだった。さすが叶井俊太郎が率いているかどうかは知らないが看板になっているTOCANA。愛もなにもあったものではない。

だが困ったのは実際このパート2、パート1より断然面白い。まず衝撃的な事実を先にお伝えしておいた方がよいかと思うがこの映画ハイメ・マウサンとかいうメキシコのオカルト・ナビゲーターのインタビュー映像と二三のUFO映像解説から成る45分の短編『Beyond The Spectrum – Maussan’s UFO Files』とマウサンがホストを務めるオカルト番組に投稿されたエイリアン映像の数々をマウサンの解説付きで抜粋した62分の『Beyond the Spectrum – Humanoids』を日本オリジナルで雑ミックスした特別編集版である。

一作目と二作目をグロシーンメインに繋いで無理矢理一本にしたまさかの『ネクロマンティック』方式。叶井俊太郎といえば『ネクロマンティック』を日本に輸入した人として知られるが2020年にもなってまだそんな阿漕な商売をやっているなんて。モノがモノなら炎上不可避であるがこの場合は配給も劇場も観客も更に言えば制作者もみんな作品に愛がないのでギリ成立している感じである。すごいですよちゃんと一本の映画として再編集する気もないので尺の都合カットした部分とかはないと思いますがエンドロールとか二回流れますからね。呆れてしまう。呆れてしまっておもしろい。

悪徳業界人をそうやって甘やかすのは本当によくないとは思うが、しかしその雑な扱いがこれみたいなパルプな内容の映画の場合は風味を増しているとも言えるので、まぁ映画は何がプラスになるかわからん。基本的に全部ネットで見れますからねここに出てくるUFO映像とか宇宙人映像とか。安いよねー映画の作りが! しかもそのほぼすべてがマウサンの番組を中心とした孫引き映像とくる。FOXニュースがUFOのニュースやってるの10分ぐらいナレーションも付けずにノーカットで引用してるだけのシーンなんか酷いよね。なにそれ完全に尺埋めじゃん。なんてろくでもない映画だろうと思ったよ。

UFO懐疑論者への攻撃が主目的だったので力は入っているがそのぶん映画的には面白くなかったパート1の反対で、このパート2はめちゃくちゃいい加減な作りなんですけど笑って観る分には楽しめるっていう、そういう感じでしたね。

まぁでもゴミの中からも学べることはあるってものでこれはこれで案外タメになるところもある。まずFOXニュースのしょうもなさがよくわかってこれは素直に勉強になった。ゆーても日本のテレビだったらバラエティではUFOとかエイリアンを取り上げることはあってもさすがに報道番組ではやらないですよね普通。でもFOXニュース、アンカーマンがずっと真面目な顔してジョークひとつ言わずに中継繋いだUFO目撃者に根掘り葉掘り聞いてるんですよ。逆にUFO目撃者はちょっとおどけたりしてるのに。

で、そのニュースの最後でアンカーマンが「事実ならプーチンとの取引なんかよりよほど大ニュースです」とか言ってて、これ映像の時期的にたぶんロシアゲートのことなんです。なんか、あぁアメリカのテレビの今ってこういう感じなんだっていうか。FOXニュースは枠組みでいえばオルタナティブなメディアには入らないかもしれないですけど、思想的にはオルトライトと親和性あったりするじゃないですか。だからオルトライトの世論ってこういう風に形成されていくんだなぁっていう、これ宇宙人とか全然関係ないですけど面白いところでしたね。

などと第一部にあたる『Beyond The Spectrum – Maussan’s UFO Files』部分をちょっと真面目に見ていると続く第二部『Beyond the Spectrum – Humanoids』では良識あるエイリアン肯定派ならむしろブチ切れるんじゃないかという馬鹿馬鹿しいエイリアン映像のラッシュ。電柱の影に隠れてた宇宙人が道で遊んでたティーンエイジャーの腕を掴んでティーンエイジャーがびっくりするだけの動画とかどう見ても造形が見事な(SF映画的な意味で)作り物エイリアンの写真(しかも日付を変えて何回も見た設定なので5枚ぐらいある)とかをマウサンが全部本物認定して熱烈解説するので笑ってしまう。

それはさすがに擁護の限界ではと思われるものでも異次元の論理で突破していくマウサンの胆力には感服である。電柱の影にエイリアンが隠れてた場所に行ったら通常より放射線量が高かったので本物認定するのはまぁ常識だとしても(?)その数年後に同じ場所を訪れたら放射線量が減っていたのでエイリアンが通ってくる異次元のゲートが開いたことで放射線量が減ったと断言、メキシコでUFO番組やってるマウサンの下に送られてくるエイリアン動画が加工されたものではないことは第一にその多くは携帯で撮られた動画であり、第二にメキシコ人はパソコンが使えないことから明らかだと力説するのだからすごい。

しかしマウサンの超説にはペテン的な薄っぺらさがないというのは重要なところだ。第一部で語られるマウサンの半生は意外にもちょっとだけイイ話、本人の弁によれば元々マウサンは一般枠のジャーナリストかつニュースキャスター、闘牛士の父に報道の道に進むと告げた際には報道は腐敗しているからダメだと強く反対されたが自分は絶対に賄賂を受け取ったりしないと説得、マウサンがジャーナリストを志した一因も腐敗に対する義憤であった。

ジャーナリスト/ニュースキャスターとなったマウサンは次第に環境破壊問題を自身のテーマとするようになる。絶滅危惧種の保全運動を取材したことで政府も動いて絶滅危惧種を保護する法律ができた。オゾンホールの取材でわざわざ北極まで行ったときのことをマウサンはこんな風に語る。その船に乗っていたのは私とドイツ人ジャーナリストだけだった。船員に言われたよ、なぜアメリカや他のヨーロッパの連中はオゾンホールの取材に来ない?

ジャーナリスト時代を振り返るマウサンの言葉はエイリアンが通ってくる異次元のゲートが開いたことで放射線量が減ったというたぐいのものではなくUFOとか宇宙人とかに興味のない人でも傾聴に値するものだ。まぁ本人が言っていることだから信憑性はそこそこだが、反報道腐敗と反自然破壊を掲げてるぐらいだから庶民派で気骨あるジャーナリストだったんじゃないだろうか。

マウサンがオカルト道に入ることとなったのはプレアデス系星人と会ったでお馴染みの宇宙人コンタクティー(UFOの捏造写真家としても知られる)ビリー・マイヤーと番組の企画で会ったからだが、人を信じ不正義と戦う真面目な人がマイヤーのような人間に触発されてニューエイジャーに…というのはありがちな話である。ジャーナリストからオカルト・ナビゲーターへ、というと何か大きく道を逸れたようにも思えるが、そこには一貫した信念がちゃんとあるのだ。

今も昔もずっと貧しいメキシコの庶民がUFOを求めたら(メキシコはUFO人気が高い国だ)マウサンはUFO番組の顔となってそれに応じる。腐敗した体制や既存メディアに頼らず自分たちでカメラを持って「証拠」を撮るよう勧める。そしてマウサンの番組に日々送られてくる庶民どもの馬鹿みたいなUFO動画やエイリアン動画をマウサンはメキシコ人はパソコンを使えないとまで言ってほんの3件を除いて本物扱いするのだ(逆にその3件はどこまで酷かったんだ)

インタビューの中でマウサンが声を張り上げるこんな場面がある。なぜ捏造と決めつける! 彼らに捏造する動機はあるか!? 彼らは金なんて受け取っていない! みんな映像は無償で提供してくれたんだ! 車椅子で家から出られない青年はUFOを撮影するために独自のカメラシステムを作った! 今ではそのカメラシステムで世界中の人々がインビジブルUFO(※可視光線では捉えられないUFOが存在するんだとか…)を撮影することができる!

ちょっとと書いてしまったがむしろ普通にイイ話だった。確かにマウサンは幻想の世界に生きる人かもしれないしマウサンが紹介するビデオは基本的に全部ニセモノか誤認かジョークに決まっている。どう見てもそうに決まっている。けれども現実社会が腐っている時に、たとえ幻想に過ぎないとしても平和な理想で世界を少しでも変えようとする人間を、ただのおかしな人と嗤うこともできない。金欲しさに地上で血みどろの麻薬抗争を繰り広げるぐらいなら、おかしい人と嗤われてもUFOを探して空にカメラを向け続けることの方がどれだけ倫理的かわかったものではない。

こうして見るとマウサンが果たしている役割というのはオカルティストというよりは穏健な宗教指導者といったものに思える。マウサンが語る自身のエイリアン遭遇体験もエイリアンを恐怖の対象として捉えることも多いアメリカのビリーバーなどとは趣を異にするもので、どこか牧歌的、どこか神秘的、そしてどこか美しいものだ。マウサンのエイリアンはあまり人に直接的な危害を加えないのである。危害を加えるのはエイリアンの存在をひた隠しにする政府なのだ、というのがマウサンのエイリアン観で、そうした権力の暴力(?)に対してマウサンは非暴力の宗教的抵抗を…まぁつまりはUFOとかエイリアンを撮って番組に送ってくれということを庶民に訴える。オルタナティブな抵抗運動とはこういうものではないだろうか。

UFOを宣教の道具にしたり政治の道具にしたりする不躾な輩どもに比べて大統領に就任したらUFO関連資料を公開すると公約したから前のアメリカ大統領選ではヒラリーを応援していたと率直に語るマウサンは科学的には間違っていても人としては圧倒的に正しい。それはさすがに買いかぶりすぎだとしても、そう思わせるだけの魅力がマウサンにあるのは確か。
そんなマウサンのナビゲートで観るUFO&エイリアンのバカ映像2時間弱は映画の完成度自体は糞みたいなものであっても、なんだか悪い気はしないのであった。

【ママー!これ買ってー!】


日清食品 焼そばU.F.O. 128gx12個

とくに意味とかはないです。

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