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今週の新作映画にはどんなものがあるかなと映画サイトでこの映画のあらすじを読むとなになに母娘4人の心が入れ替わってしまい…ってそれジェイミー・リー・カーティスとリンジー・ローハンが共演した『フォーチュン・クッキー』じゃねぇか。続編もしくはリメイク? 続編であった。なんだそれなら邦題は『フォーチュン・クッキーズ』とかでよかったのに。『フォーチュン・クッキー』は原題が『FREAKY FRIDAY』なので日本独自邦題なわけだが、こちら『シャッフル・フライデー』は原題が『FREAKIER FRIDAY』なので、ちょっと原題に寄せているとはいえ結局こっちも日本独自邦題なんである。あれかな何か前作の邦題が使えない理由でもあったのかな配給会社の違いとかそういうので。なんであれパッと見で続編とわからない邦題はとくに新規客の開拓などには貢献していなかったようで、かといって前作を観てる人もあんまり劇場に呼べてないらしく、俺が観た回では都心のシネコンで客が5人とあまりに寂しい。みんなリンジー・ローハンのことなんか忘れてしまったのだろうか…忘れてるか。俺も忘れてたし。
そんな具合に日本の観客にはガン無視されてしまった『シャッフル・フライデー』であったがこれがわちゃわちゃと楽しいコメディだったのでガン無視するのはちょっともったいない感じである。前作から20年。あの頃は小娘だったリンジー・ローハン(の役)はすっかり中年女性となって現在アイドルのマネジメント業をしながらシングルで子育て中。その母親ジェイミー・リー・カーティスもまだまだ現役とはいえ今や立派なシニアである。光陰矢の如し。少年老い易く学成り難し。あぁ、時間というのは残酷なものだ…なんてムードではなくまだまだ人生殺る気まんまんの二人とくにリンジーなので娘の学校の同級生の筋肉イケメンパパ(マニー・ハシント)と再婚を決意。しかしリンジーの娘ジュリア・バターズはこの同級生ソフィア・ハモンズと犬猿の仲。にも関わらず親の都合で家族とさせられその上に再婚後はイケメンパパの古巣ロンドンに引っ越しだってんでリンジーの娘は激おこ、むろん同級生も納得がいっていないので、謎の占いババァの魔力により今回はジェイミー&リンジーの年配コンビに加えて新参組のジュリアとソフィアの4人の心が入れ替わってしまうと、これはチャンスとばかりに年配コンビの肉体に入り込んだ若輩者ふたりは再婚の阻止を画策するのであった。
前作はジェイミーとリンジーの母娘の心が入れ替わるのでわかりやすかったが今回は4人である。しかも単純に母娘が入れ替わるのではなくリンジーの再婚相手の娘がなぜかリンジーの母親であるところのジェイミーと入れ替わってしまうのだからややこしい。画面に誰かが出てくるたびにえーとこの人に入ってるのは誰だっけとつい考えてしまう。ダメじゃないか。いや、ダメじゃないんだ。その混沌がたのしいのよ。前作はもう記憶の彼方だがおそらく前作よりも格段にドタバタ度は上がってるんじゃないすかね。心の入れ替わった人間が4人もいればいったい物語がどこへ向かっているのかもうわからない。次から次へと押し寄せるギャグとコント的シチュエーションに流されるのみだ。
しかし混沌としているとはいっても軸がブレた印象はぜんぜんない。それはひとえにジェイミーとリンジーの熟練のコメディ芝居による。若手のジュリアとソフィアのコンビもそれなりに活躍はするのだが、やはり場数が違いますからね場数が。大ベテランのジェイミーと元大スターのリンジーにいかに面白いことをさせるかというのが作ってる側の眼目だったんだろう。とくにジェイミーだよな。見た目はお達者婆なのに心は頭の悪いイマドキ中高生の設定だからまーやることなすことバカで可笑しい、それがまた年寄りネタなんかになるとジェイミーの自虐にも見えるもんだから二重に笑えるよね。屈んだ拍子にオナラが出ちゃうよ~と情けなく声を上げたりとか、スーパーの介護用品コーナーでいつものやつを買っといてくれと夫に言われた心は中高生のジェイミーが介護用品を物色して「オムツ!? オムツをするのか…!?」とショックを受けるとかさ、ははは。レコード屋に行くと「さぁて私はシニアだからシニア向けレコードでも探すか! コールドプレイとか!」ですよ。コールドプレイはもはやシニア向け音楽なのだ! これは笑えるが笑えないぞ!
どこか往年のスクリューボール・コメディの空気をもった波瀾万丈のドタバタ劇の終着点は大観衆の待つアリーナ・ライブ。ストーリー的には一応もう少し続くのだが、散々ふざけてはしゃぎ回ってラストはリンジーの本業である歌で締めるとはなかなか粋じゃあないですか。ちょっとだけ『ゲット・クレイジー』を思い出したよ。日頃からハリウッドなんかさっさと潰れろと言って憚らない俺ではあるが、なんだかんだこういう狂騒的でありつつ気の利いた楽天的なハリウッド喜劇はおもしろい。ってかこういう映画をサクッと作れてしまうのがハリウッドの本来の強みなんじゃないすかね。これみたいな派手さはないかもしれないしデカくは稼げないかもしれないがしっかりと面白い映画を堅実に作ってればいいのにどうして今のハリウッドは創意のカケラもない続編ものリブートものリメイクものばかり作るのでしょうか…ってこれも続編ものか。たとえ続編でもリメイクでもこんな風に名優の見事な芸を見せてくれる映画は歓迎なのです。