戦争やめよう砂場で遊ぼう映画『SAND LAND』感想文

《推定睡眠時間:0分》

砂漠化した未来世界が舞台の冒険活劇ということは原作発表2000年を考えても『マッドマックス2』にインスパイアされた物語であることは間違いなく『マッドマックス2』が男ばかり出てくる映画だったから的な理由もあるとしても、このご時世に台詞のある登場人物が男だけでモブでさえ女キャラが二人ぐらいしか出てこないアニメ映画というのは相当に異色で、ことにそれが男キャラよりも女キャラの方が断然生き生きと魅力的に描かれる鳥山明の原作なら尚更なのだが、そうとなれば男しか出ないそれなりの理由を(『マッドマックス2』の影響以外に)考えるのが妥当というもの。

で考えたんですがそうだこれはオトコノコのごっこ遊びの物語だね。サンドランドって砂場ですよ。砂場に集まったオトコノコたちがじゃあ俺は正義の味方ーじゃあ俺は盗賊ーじゃあ俺はすっげー悪いやつーとか言ってそれぞれの役に成りきってバキュンバキュンと存在しない銃を撃ったりして戦ってんです。鳥山明の漫画ってずっとそうじゃないですか。いや一応生死を賭けた戦いをやってるから普通に人は死ぬんだけど本気の殺し合いじゃないっていうか、まぁ『ドラゴンボール』なんか死んでも普通に蘇ってきちゃう世界だし、みんな戦うのが楽しくて楽しくて仕方がなくて戦うんですよね、なんだかんだ理由はつけても。

『ドラゴンボール』の最後で魔人ブウの最終形態に悟空がかける言葉がそのへんよう表してるよな。遊びとしての戦いだし、役に成りきるためのコスチューム。だから鳥山明の漫画ではキャラが戦いの中でどんどん形態や風貌を変えていく。オトコノコがやりがちでしょうそういうの。俺はこれだけ本気になったぞーとか俺はこれだけ強くなったぞーっていうのを見た目で表現しようとするんですよね。それで、そういう変化は鳥山明の漫画の中では基本的に男キャラにしかない。女キャラは見た目が変化しなくて心境の変化なんかがあれば台詞で言う。女キャラには内面があるけど男キャラには内面がなくて、男キャラはとにかく外に表れるものがすべて。まぁ男とか女とかいってもフリーザとかセルとかブウとかあのへん性別不詳っていうか性別とかなさそうですけど。とはいえ、まぁ、男的なものとしてイメージされてるでしょあれは。男っていうかまだ性化されていないオトコノコとして。

ごっこ遊びの映画であるから内容ときたら至ってシンプルに良い奴が悪い奴を倒すというただそれだけである。良い奴が悪い奴を倒す。水不足にあえぐ砂漠の村の保安官が悪魔といっているが仲間に一反木綿とかもいるからどちらかと言えば妖怪に近い悪童ベルゼブブおよびそのお目付役と共に幻の水源を目指しながらいろんな奴と戦う。行きて帰りし物語とは主に神話や神話に倣った娯楽映画の物語類型としてよく言うが、この映画は一直線に行くだけで帰りはない。あの『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でさえ往復していたのに片道切符とは! この潔さは物語の複雑さを増せば増すほどなんとなく立派な作品になると思い込んでいる凡庸な人の作る映画であふれかえりそして凡庸な観客たちがきっちりとそれをありがたがっている現代にあって砂漠の水源のようにめずらしいものである。

物語も単純ならキャラだってしごく単純だ。こいつ良い奴、こいつ悪い奴、こいつズルい奴…『続・夕陽のガンマン』か。なんのことかわからなければいいですすいません。とにかく単純。裏がない。言動が一直線。それもそうだこれは砂場のごっこ遊びなのだからキャラにブレがあったらたまらない。さっきまで敵のボス役でヒーローと戦っていたはずの人が急に裏設定として複雑な家庭環境などを持ち出し回想モードに入ったりしたらお前ふざけんなよ一人でやれよもしくは鳥山漫画ではなく冨樫漫画で! ということになるだろう。

ゆーてこの映画のキャラにだって過去や変心がないことはない。というか秘められた過去や変心による善悪の反転は物語の重要ポイントである。けれども芯はブレない。このキャラはこういう性格でこのキャラはこういう思想信条でというその部分はすべてのキャラで最初から最後まで一貫しているわけで、だから清々しさがあるし、オトコノコのごっこ遊びに過ぎない物語なのに、そこで語られる素朴な反暴力とか反戦とか勧善懲悪のメッセージが強さを持っている。砂場のオトコノコたちはあくまでも楽しいから各々好きな格好をして戦っているのであって、決して憎み合ったり殺し合ったりはしたくないのだ。だってそうしたらもう遊べなくなっちゃうからね。

きっとここには鳥山明の幼少期の遊び体験がノスタルジックに反映されているんじゃないだろうか。女キャラがいないのは鳥山明の世代的に砂場のごっこ遊び仲間がオトコノコしかいなかったからかもしれない。鳥山センス爆発のデフォルメ戦車細密描写、イイっすねぇ。砂漠なのに海パン一丁のバカ一家、大好き。ベルゼブブとお目付役シーフのガチャガチャした掛け合いはまさにオトコノコの遊びのあの感じ、駄菓子屋でブタメンとか酢だこさん太郎を食いながら『ウルトラマン』のベルトスクロールや『メタルスラッグ』をやっている、あの感じだ。笑えるやら懐かしいやら。

すべてがシンプルで難しいところがひとつもないこの映画なので絵も無駄な動きやカットを入れないシンプルなもの。いささかシンプルすぎてもう少し最後らへんのアクションに迫力があれば、などと思わないところもないではないが、戦車戦は本格的だし、だいたいこういうユーモラスな冒険活劇で過度に迫力を出すのもやはり違うと思うので、この形でいいんだろう。これぐらいサイズ感の冒険活劇なんかそういや久しく映画館で観てないわ。上映時間106分。うんうんよかったよかった、満足。

【ママー!これ買ってー!】


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それにしても鳥山明って悪魔モチーフ好きだよな。よくやってたわ鳥山明デザインの『GO!GO!ACKMAN』のゲーム。

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2 Comments
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りゅぬぁってゃ
りゅぬぁってゃ
2023年8月24日 7:17 AM

鳥山明原作だけど東映がノータッチってのも、個人的には珍しいと思いました。