真面目なのにへっぽこ映画『サターン・ボウリング』感想文

《推定睡眠時間:5分》

本編が始まる前に監督パトリシア・マズィのシュートメッセージ動画が付いてて慣れない日本語で「この映画は喜劇ではありません。危険を感じることなく楽しむことができます」みたいなことを言ってくれるぐらいなのでふざけた映画でないのは間違いないのだが、にもかかわらず観終わった後の印象はどちらかというとトラッシュ系というか、たとえばハーシェル・ゴードン・ルイスとかアンディ・ミリガンみたいなへっぽこ系と近かったので、どう受け止めていいかわりと困ってしまった。

主人公は二人の兄弟で前半一時間は弟が主役。こいつは何をしてる人だがよくわからんのだが思い詰めた非モテ系らしく女に愛されたいと切望する一方で女に対する憎悪もまた秘めている。でこいつが毛嫌いしていた狩猟趣味の父親の残したボウリング場を相続して、父親の友人ででかい顔してボウリング場に居座ってる狩猟会のオッサン連中も追い出して、さぁうだつの上がらない人生に光が差してきた、とこちらとしてはそう思っていたのにたまたま仲良くなった美熟女とワンナイトしていたら突然狂ったように女を殴り始め殺してしまう。それからというもの弟はボウリング場オーナーの地位というかブランド? を利用した連続女殺しと化すのであった。

映画の後半一時間は兄貴サイドのお話。刑事の兄貴は墓場で身元不明の全裸女性死体を発見する。この死体は言うまでもなく弟の殺った人たちなのだが、兄貴はもちろん知る由も無く捜査開始、やがて運命の残酷により弟に辿り着くことになるのであった。前半が『ドリラー・キラー』とか『ヘンリー』みたいなシリアルキラー系のホラーなら捜査が中心の後半は兄貴の渋いキャラや寒々しい空気感もあって『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』とか『湿地』みたいな北欧サスペンスの雰囲気が濃厚ということで、どこがへっぽこ系? とこう書けば思われるかもしれませんが…。

なんかね、いちいち変なのよ。前半よりも後半だな。いや、前半で弟が美熟女を殺すシーンの執拗で悪趣味なバイオレンス描写と死体描写も『屋根裏部屋の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』(へっぽこ系シリアルキラー映画の近年の傑作、ただしこちらは天然ものではなく意図的なへっぽこ映画)なんかを思わせたりして妙にトラッシュ感が漂うのだが、後半で兄貴が別事件で知り合った動物保護活動家の女ととくに理由らしい理由もなく急に恋仲になってしまうとか、捜査に進展がなくオフィスで頭を悩ませているところに女が来たのでその場でセックスの前段階に入ってたら部長が部屋に入ってきて「おめーこんなところで何やってんだよ! 三日間の停職!」とか言われちゃうとか、ギャグでやっているのかと思うが至って真面目なトーンでみんな深刻な顔をしているのでなにこれってなる。だいたいバラバラにもなってない完全体の全裸死体を二つも発見して「身元不明の手詰まりです」とかずっと言ってるのだが頭部があるなら歯形で身元が同定できるだろうと思うし、顔写真を復元して広く情報提供を呼びかけることだってできるだろと思う。

ようするにシナリオがかなり杜撰なのだ。え、今時こんなの通るのか? ってぐらいで。そこにちょっと芸術映画を意識したような変なシーンがちょいちょい入ってくるもんだから更にへっぽこ感が増してしまう。面白い映画なんだけどこれは…なに? なんかよくわかんない映画なんである。脳みその記憶領域をまさぐってみたいのだが、もしかするとこの変さ、あくまでも真面目な冷酷サスペンスを作ろうとしているのにシナリオがだいぶ雑だったり妙なアート感を加えようとしていることでへっぽこになってしまったという変さで近いのは鬼才ウーヴェ・ボルの『SHOCKER ショッカー』かもしれない。これもまた少しもふざけたところはない真面目な冷酷サスペンス映画なのだが、その熱意がすべて空回りしてへっぽことしか言いようがない出来になっていた。

こういうへっぽこ感は嫌いじゃ無いどころか大好きではあるが、上映前メッセージまで付いて作り手は本気ですということを見せつけられているので、はははへっぽこですね~とボル映画のように笑うのも憚られ、なんとも…反応に困る映画なのであった。

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