信ずる者は救われるし悪魔も撃退映画『死霊館 最後の儀式』感想文

《推定睡眠時間:40分》

映画の最初と最後に出てくるオレンジ色の夕陽に包まれた世界はアメリカのクリスチャン映画に特有のサインのようなもので、たとえば『サウンド・オブ・フリーダム』『アイ・キャン・オンリー・イマジン 明日へつなぐ歌』のようなクリスチャン映画を見てもらえれば俺の言っていることがわかってもらえると思うのだが、これはどうやら神の恩寵を示すもののような印象を受ける。そもそも日本ではクリスチャン映画というジャンルがアメリカに存在するということ自体あまり一般的に知られていないので言及している人が他にいるのかどうか、このへんアメリカのクリスチャン映画を分析した論文などがあれば読んでみたいと思うのだが。なんか名前とかあるんですかねあのオレンジの光は。クリスチャン・ライトとか? まんまじゃねぇか。

ということでまぁそこからこの映画のアメリカ国内における位置付けというのは容易に想像でき、もちろんこれは狭義のクリスチャン映画(クリスチャン映画を専門に扱う会社が製作したり配給しているもの)ではなくワーナーのドル箱ホラー映画シリーズなのだが、そのオレンジ色の光の中で描かれるのは出産の喜び、奇跡的な蘇生、家族と過ごす幸せなので、アメリカのプロテスタント道徳と符合し、この映画が広義のクリスチャン映画として作られていることがわかる。『死霊館』はあくまでも邦題で原題は『The Conjuring』とはいえ、死霊というぐらいだからシリーズ初期にはオバケが出てきていたと思うのだが(未見)、前作『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』』および今作ともなると敵は完全に悪魔であり、それもまたこの映画が広義のクリスチャン映画であることの裏付けだ。

こうも宗教色が強くなるとさすがに非クリスチャンにはしっくり来ない映画だと思われ、俺もたかだかホラーのくせに長々とつまらない説明とか人間ドラマとかやりやがってさっさと本題に入れよとぜんぜん恐怖現象が起きてくれない最初の40分ぐらいずっと思っていたが、まぁしかし映画としての出来はともかく、その宗教性に目を向ければ興味深い映画ではあった。というのも今年は日本で1980年代のアメリカを覆ったサタニック・パニックという集団ヒステリー(邪悪な悪魔崇拝者たちがひそかに児童におぞましい虐待を加えている! なんていう与太話が広く信じられ多くの冤罪逮捕者まで出してしまったズッコケ現象)をテーマにしたドキュメンタリー映画『サタンがお前を待っている』が公開されたのだが、実録を謳う『死霊館』の主人公コンビ・ウォーレン夫妻は1970年代のアメリカで心霊研究家兼民間エクソシストとして活動し、手掛けた事件の一つが70年代オカルト映画の代表的一本『悪魔の棲む家』として映画化されたように、アメリカ社会にけっこう影響を与えた人。夫妻の主張はもちろんオバケは実在するというものであり、書籍やテレビといったメディアを通じてオカルトなものの実在を世間に信じさせたという点で、来る80年代サタニック・パニックの下地を用意したとも言えるのだ。

おそらく非クリスチャンの日本の観客の大半はこの映画で語られる物語を額面通り真実として受け取ることはないと思うのだが、日本のフェイクドキュメンタリーみたいにふざけて実録を謳ってるようには見えないし、案外アメリカでは本当にこのウォーレン夫妻が未来予知の超能力を持つ信心深い正義のヒーロー&ヒロインで本当に悪魔と戦ったと受け止める人もいるのかもしれない。そう思えばこれはけっこう罪深い映画ではないだろうか。日本で言えば、たとえば五島勉の自称ノンフィクション『ノストラダムスの大予言』は1970年代にベストセラーとなって、これはオウム真理教の麻原彰晃の終末論的な世界観にも影響を与えたと言われるが、その五島勉をいまさら本当にノストラダムスの大予言を解読した正義の人として持ち上げるようなもので(『ノストラダムスの大予言』にはこれは世間に警告するための本なのだみたいなことが書かれている)、そんなことをしようものならたぶん激しい非難と失笑は避けられないだろう。

そんなような映画が当たり前に大ヒットしてしまうアメリカという国はなんだかんだ今でもプロテスタント勢力の強い宗教大国ということかもしれない。おそらく回を重ねる毎に宗教性を増していったと考えられる『死霊館』シリーズの歩みはまたリベラル急進派と宗教保守の対立が激化する中で成立したトランプ政権の歩みとも重なるところがあり、アメリカというのはニューヨークとかLAみたいな都市部はともかく全体として見れば進歩的なわけでもないし、科学的なわけでもないし、理性的なわけでもないことが、この『死霊館 最後の儀式』を観ればよくわかるんじゃないだろうか。

『死霊館』シリーズに興味がないことがバレバレな感想である。まぁ、でも、しょうがないよ。この映画面白くなかったもん。ホントにとにかくかったるくて全然話が進んでくれなくてね…オバケと悪魔とそして神様を本気で信じている人たちに向けて作られてるからこんな締まらない出来になっているわけで、好きではあってもそういうものの実在には関心がない俺としては、そんなイイ話パートとか良き人生とは何かメッセージみたいなのどうでもいいからさっさと怖いシーンだけやれよそしたら135分とか無駄に長くならないで上映時間90分で済んだよ! とか思うんである。

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