信じる者でも救われない映画『君といた108日』感想文

《推定睡眠時間:45分》

厳密にはお正月映画ではないが公開が2021年12月31日の金曜日ということで実質的にはこれが『マクベス』などと並んで今年のお正月映画、昔のお正月興行といえば『ジョーズ』とかなんかそういうブロックバスター系とか寅さんとかが並んでいたわけだからまったく寂しい限りで、こんなどこにでもありそうなラブストーリーっぽいやつをお正月に観ても盛り上がらないよなーと考えながら映画館でポスターを見ていたら「監督:アーウィン兄弟」の文字がある。あらアーウィン兄弟じゃないですかクリスチャン映画の秀作を多数手掛ける! ということはこれは邦題からはわからないがどう考えてもクリスチャン映画! 劇場公開される宗教映画は基本的に全部観ることにしているので迷いなくチケット売り場へと向かったのであった。

それにしても映画が始まると『ソウ』シリーズ等々でお馴染みのあのLIONS GATEのムービングロゴ、スタッフロールの最後にはIMAXのロゴがあって日本ではさすがにIMAXでやっている劇場などないだろうがこんな普通の伝記ラブストーリーがIMAX向けに作られてしかも配給はLIONS GATE。アメリカのクリスチャン映画の客層の厚さがよくわかるところで、こういう映画は内容だけじゃなくて周辺情報からも色々見えてくるものがあって面白い。日本にメインで入ってくるアメリカ映画は基本的にグローバルですけどクリスチャン映画なんかはやはりドメスティックなので案外リアルなアメリカっていうのはこっちの方にあったりするんだよな。

ただアーウィン兄弟のクリスチャン映画はこれとか前作の『アイ・キャン・オンリー・イマジン』もそうですけど、ドメスティックといってもそれは舞台とか文化的なもので、内容的には宗教を超えて結構普遍性があるのが特徴。宗教映画と聞けば奇跡がどうの祈りどうの的なものを想像する人もおられるでしょうが、これそういうのって基本出てこないんですよね(会話は神さまありがとうみたいのばかりだけど)。難病ものってことで主人公の若男歌手はガンに侵された妻が治るように必死に祈る。ところがその祈りも虚しく妻の病状は悪化するばかりで奇跡は結局起こらない。

俺がいいなと思ったのはこういう映画って奇跡はあるかもしれない、救いはあるかもしれないって主人公が本気で信じているからその裏切りとしての死や人生の挫折が、ハナから信じていない人よりも重く痛みを伴って迫ってくる。だからそういう誰もが経験するけどなんとなく仕方が無いものだとしてスルーしがちなことについて真剣に悩む。宗教がどうとかとか関係なくてその姿が胸を打つんだよな。この映画は誠実ですよ。だってゲイリー・シニーズ演じる主人公の父親が神を信じて良いことなんかあるのかよって悲嘆に暮れる主人公に問い詰められて「わからない」って言いますからね。それでその後も明確な答えを出さないんですよ、信仰は辛いことも楽しいことも全てひっくるめて前向きに生きる力をくれるみたいな落としどころは一応あるんですけど。信仰の有無に関わらず人間の人生ってそういうことだよなぁとか思いましたよ。

最近のクリスチャン映画的定番の神の視点としてのドローンショットはとくに終盤の屋外フェスのシーンで歌の力と相まって威力を発揮する。クリスチャン音楽というのもアメリカのそれはゴスペルの国だから全然垢抜けていて演奏も歌唱も普通にレベルが高いので、歌詞はまぁ神さまありがとう神さま信じますをずっと歌ってるだけであんま面白くないんですけど、ライブパフォーマンス自体はわりに盛り上がる。一番にアピールしたいのは信仰の力でしょうけど、だからといって音楽の力を侮ってはいないのがこの映画のちゃんとしたところです。

停滞のない歯切れの良い編集も心地よくプロテスタントの信仰世界を見せてくれてそのおかげで思わず45分ぐらい居眠りってレベルじゃねぇだろと言わざるを得ない爆睡をかましているが、まぁでも、それぐらい安心して観られるよく出来た映画ということで。ゲイリー・シニーズの悩める父親は静かな名演、その妻役のシャナイア・トゥエインは出番こそ少ないが存在が嬉しく、けっこう面白かったです『君といた108日』。クリスチャン映画に苦手意識のある人にもおすすめ(まぁ世の中にはイスラムを侮辱したり宗教的観点からの悪人に天罰を下したり無駄に独善的で奇跡が乱発されるような野蛮なクリスチャン映画もありますからねぇ)

【ママー!これ買ってー!】


I Can Only Imagine [Blu-ray]

これも非クリスチャンでも神ワードに抵抗がなければ普通に楽しめる良い映画なんですけどなんか今のところ国内盤ソフトも配信もないらしい。

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