きったぞ~きたぞクッリスマッス~! やぁどうも! 俺だ! 早速だが宣伝だ! 古今東西のクリスマスホラー映画のレビュー100本をまとめた自主制作本『Christmas Ho Ho Horror Movies 100』が発売中だ! 今年はこの本の編集に結構かかって大変だった! 買って下さいとは言いません! 買え! いや、ウソだ! 買わなくてもいい! だってその本に載ってるレビューは全部このサイトの過去記事を漁れば読めるしな! だが自分へのセルフクリスマスプレゼントとしていかがでしょうかという提案だ! とりあえず100部刷ったがもしこれが完売すれば第二弾もあるかもしれないしないかもしれない! まぁそういうことで今年も観たぞクリスマスホラー映画10本! ネタ切れじゃないのかと思われるかもしれないがいやそんなことはない! 今も海外とくにアメリカ合衆国では産業廃棄物のようにクリスマスホラーが大量排出されており、あの『悪魔のサンタクロース』のなんと2度目のリメイク版も今年公開されたほどなのだ! なんというクリスマスホラー大国! バカなのか……? いやまぁそれはともかく、聖なる夜にクリスマスホラーレビュー10連発をプレゼント! これを読めばもうひとりぼっちのクリスマスも寂しくなぁぁぁぁぁぁい!!!!!
『グレムリン』(1984)
ハリウッドには珍しく超人気キャラクター「ギズモ」を生み出したのに続編が一本しか作られていないファンタジック・スラップスティップ・コメディの1作目。発明家の父親が冴えない息子へのクリスマス・プレゼントにチャイナタウンで買ってきたのは超可愛いがよくわからんふわふわ生物マグワイ。息子にギズモと名付けられたこの生物は素直で大人しくてきゃわきゃわなのだが、水をかけると増殖してしつけがなってない個体が増え、さらに夜中の12時過ぎにエサを与えると凶暴生物グレムリンへと変身してしまうのだ……!
マグワイの正体が最初から割れている続編は完全にスラップスティックに振り切れているが、この1作目は水を掛けるな、12時過ぎにエサを与えるな、という元の飼い主が言っていた掟を破るとマグワイがどうなるのかわからない。そのためマグワイがグレムリンに変身するくだりは監督ジョー・ダンテのこよなく愛する古典ホラー映画のタッチでサスペンスフルに撮られており、ママとグレムリンのバトルなんか正体不明の怪生物に襲われる怖さがよく出ていてしっかりホラー。ま、グレムリンの正体が明らかになってからは一転して陽気で狂騒的なコメディになるわけですが。
アニマトロニクスとマペットでわちゃわちゃ動くグレムリンたちの度を超した悪ふざけ、発明家のパパが繰り出す数々の珍発明(ぜんぜん役に立たないっていうか邪魔)、そしてお歌を歌いながらテレビで映画を観るのが大好きという可愛すぎるギズモ。怖くて笑えて夢いっぱい、とぼけたキャラクターたちは味わい深くジェリー・ゴールドスミスのテーマ曲も一度聴いたら忘れられない、クリスマスホラー不朽の名作。
『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)
ハロウィンのオバケたちが棲まうハロウィン・タウンのカボチャの王様ジャック・スケリントンは毎年毎年人間を怖がらせてばかりで飽き飽き。思い悩みながら一人で森を歩いていたところ辿り着いたのはサンタさんやエルフたちが棲まうクリスマス・タウンだった。これだ! 思い立ったら止まらないジャックは今年は人間を怖がらせるのではなく喜ばせようとハロウィン・タウンの仲間たちとハロウィン・タウン流のクリスマスを作り上げようとするのだが……。
などという説明はおそらく不要の名作クレイアニメ・ミュージカル、真っ直ぐなものが一つも無い歪みきったハロウィン・タウンや奇抜でブラックユーモア満載のオバケたちの造型はまったくサイコー、ダニー・エルフマンのいたずらっぽい音楽はすっかり童心に帰らせてくれるし、これはティム・バートンというよりも監督ヘンリー・セリックの手柄であろう生きているようなキャラクターたちの動きも素晴らしく、文句の付けようがないなこれは。
オバケが出てくとはいえこの映画をクリスマスホラーに加えるのは無理があるのでは……とは自分でも思ったが、クリスマスに憧れる日陰者(でもハロウィン・タウンもみんな楽しそうだけどね)がクリスマスの輪に入ろうとして結果的にクリスマスを恐怖のどん底に陥れてしまうという展開は『悪魔のサンタクロース』や『サンタが殺しにやってくる』といったクリスマスホラーの代表作と共通するもの。暗い世界に生きてきたからにはどんなに憧れても決してキラキラした明るい人たちの世界に混ざることができないという切なさは、クリスマスホラーの本質なのかもしれませんということでこれもクリスマスホラーに俺判断で編入。
『ジェイコブス・ラダー』(1990)
過酷な戦場体験が十数年を経てもなお脳にこびりついて離れないベトナム帰還兵のジェイコブは、出口の封鎖された地下鉄駅で怪物を目撃してからというもの、奇怪な幻覚に襲われるようになり、同時に正体不明の男たちに命を狙われるようになる。悪夢からの出口を求めてジェイコブはクリスマス・シーズンのニューヨークを彷徨うが……。
俺も大好きな人気ホラーゲーム『サイレントヒル』の元ネタの一つとしても知られる鬼才エイドリアン・ラインの異色ベトナム帰還兵映画。戦争後遺症、陰謀論、ドラッグ、暗殺恐怖、キリスト教信仰が入り乱れ、ベトナムの戦場と現在のニューヨーク、別れた妻との日々と現在の恋人との日々がシームレスに結びついてしまう、何が現実なのかも誰を信じていいのかもわからない混沌とした世界は、あたかもベトナム戦争後のアメリカの混乱が凝縮されているかのよう。
しかしこの映画をカルト作にしている最大の要因は廃墟や都市の汚れをフィーチャーした退廃的な映像。中でも『サイレントヒル』に多大な影響を与えた病院のシーンはフランシス・ベーコンとヒエロニムス・ボスの世界を混ぜこぜしたようなやたらとスタイリッシュな悪夢感で、何気ない日常風景がぬるりと悪夢に変わってしまうこの怖さクールさは他の映画ではなかなか感じることができないというのもあり、強烈な印象を残す。
『ナイト・オブ・ザ・コメット』(1984)
未曾有の彗星接近に沸くクリスマスのLA。人々はこぞって彗星観測に繰り出すのだったが、それは大気を汚染し人々を塵と化し、辛うじて生き延びてもゾンビにしてしまうおそるべき死の彗星だった……。
ゾンビ映画として紹介されることの多い映画だが、実はゾンビの登場シーンはごくわずか。上映時間の大半は終末世界に取り残された女子高生姉妹と生き残った少数の人々の戦いに費やされており、ゾンビ映画というよりは終末映画の古典『渚にて』の舞台をクリスマスのLAに移してゾンビ風味をふりかけたという感じ。
ポップチューンをサントラに多数使用のMTV感はいかにも80年代っぽいも、それらの楽曲が劇判ではなくBGM(物語の中で登場人物が聴いている曲)というのがこの映画のユニークなところ。主人公が勝ち気な女子高生だし妹と仲良しだし一見すると明るいのだが、劇判はほとんど用いられず無音が基調なので、台詞が途切れた途端、BGMのポップチューンが途切れた途端に、対置法的に終末世界の現実が浮き上がり、前日まではクリスマスで賑わっていたというのもあって、強い寂寥感に襲われる。
彗星通過後もラジオから聞こえてくる陽気なDJボイスとポップチューンが実はループ再生のオープンリールによって機械的に垂れ流されているものであったことが判明する瞬間の方がゾンビよりもおそろしいという、そんな映画だ。
『The Mean One』(2022)
ご存じクマのプーさんをホラー魔改造した『プー あくまのくまさん』やミッキーマウスが初登場した『蒸気船ウィリー』をホラー魔改造した『マッド・マウス ミッキーとミニー』など著作権が切れてパブリック・ドメインとなった名作をホラー魔改造し原作の知名度を生かして売るという山師商売が横行している昨今、この映画のDVDジャケットにはどう見てもグリンチが描かれていたのでこれも魔改造シリーズかと思いきや、グリンチが世に飛び出したドクター・スースの絵本『いじわるグリンチのクリスマス』は1957年発表なのでまだ著作権存続中。つまりこの映画、無許諾魔改造ホラーであった。
ところが無許諾にもかかわらずこれがオフィシャルな(?)名作魔改造ホラー群よりも出来が良いから世の中はわからない。クリスマスが大嫌いで街からクリスマスっぽい音とか飾りが見えると山から瞬足で降りてきて人をぶっ殺す全身緑色のけむくじゃら怪物ミーン・ワンによりクリスマスが失われた街を舞台に、スラッシャー映画、UMA映画、アクション映画と様々なジャンルをミックス、歯切れの良い編集によりやたらとテンポもよく、アクションシーンも意外なほど本格的。
主人公は幼少期にミーン・ワンにお母さんを殺された女の人ということで基本的にはシリアスなホラーなのだが、無許諾魔改造ゆえグリンチの名前が出せず、登場人物が「あの怪物はまるでグリ……」と言いかけるとすかさず飲み屋の女将が横やりを入れて名前を言わせないとか、ミーン・ワンへの復讐を誓った主人公が家でトレーニングを積んでる内にネイビーシールズか総合格闘技のファイターみたいになってしまうとか、ピンポイントで繰り出される真顔のギャグも笑えてイイ。主人公もカッコいいし、イイ話だから後味も爽やかだし、これはクリスマス・ホラーの隠れた佳作。
『Secret Santa』(2018)
サンタ殺人鬼が暴れる映画だと思ってソフト買ったらシークレット・サンタというのはアメリカなんかのクリスマスパーティでやるゲームらしく、パーティ参加者が用意したプレゼントを中身を隠したまま交換してみんなの前で開けてわぁびっくり、とこのようなもの。そのゲームをタイトルに頂いたこの映画はサンタ殺人鬼が暴れるのではなく人が暴れるホラー。やたらと仲が悪い金持ち一家が別荘に集い険悪なムードの中でクリスマス・パーティを始めるが、口を開けば誰もがケンカ、険悪なムードはまるでおさまる気配がなく、そしてシークレット・サンタが始まるとついに流血の事態へと発展するのであった。
ブチキレた一家は殴る蹴るでは気が済まずお互いに武装して身内をぶっ殺していくのでなんぼなんでもそうはならんだろ、アメリカの『逆噴射家族』か? とか思うが、実は家族の発狂にはちゃんとした理由があり、中盤からはゾンビ映画の佳作『バイオ・インフェルノ』を思わせる限定空間サバイバル劇の様相を呈す。基本的には別荘の内外のみで展開する規模の小さなホラーだが、この思いがけないツイストと悪趣味な人間模様が楽しかった。なんかアメリカでは「クリスマスに家族が殺し合う映画なんて見せるな!」と公開時に炎上気味だったらしいです。
『A Cadaver Christmas』(2011)
馴染みの飲み屋で冴えないオッサンが寂しく酒浸りのクリスマスを過ごしていると突如として全身血まみれの用務員が出現。話を聞くとなんでもこの用務員、さっきまで勤務先の大学でゾンビと戦っていたそうな。なんだそれは。しかしどうも本当らしいということになってオッサンと飲み屋のマスター、それに警官を名乗る男とそいつが捕縛した変態男は用務員と共にゾンビ巣食う大学へと向かう……。
意外と少ないクリスマス舞台のゾンビ映画だが、基本的にはゾンビ映画というよりクリスマスの輪に入れないちょっとズレたオッサンたちの会話の面白さを軸にしたコメディなので、英語がほとんどわからない俺にはそのへん評価不能。終盤は一応ゾンビと一行の戦いになるが、エンドロールによれば元は48時間で自主短編映画を一本撮ろう企画で製作された作品らしく、この長編版も自主の限界でそんなに派手な展開にはなってくれない。グラインドハウス風の擬古エフェクトも多用も効果を上げているとは思えず、ゾンビの数も少ないしちょっと物足りなさを感じるところ。でもエドガー・ライトの『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』みたいな冴えないオッサンのダメ行動が実は……というラストはよかったです。
『The Melancholy Fantastic』(別題:Mother’s Doll)(2018)
両親を亡くしたおそらく高校生のティーン女子がこころの傷を癒やすべく母親代わりの等身大人形を作っていつも持ち歩くようになるのだがこの人形が顔面はひび割れているし手足はやつれているし肌はヨゴレで黒ずんでいるしそんな気味の悪い人形を持ち歩くなよとしか言いようが無い。まぁそれだけ主人公のティーン女子のメンタルはギリギリってことですかね。ギリギリっていうか幼児退行を起こしてコンビニでは子供の食う色の悪いお菓子だけを買うし家ではこのキモ人形の爪(紙で作ったもの)を切ったり食事を作って一緒に食べたり(とうぜん人形は食べられない)とおままごとをするし人形からは母親の声が幻聴で聞こえてくるしどう見ても一線を超えているのだが、こんな異常な生活を送っていた主人公がクリスマスの日に見た目は不良だが中身は優しいゴス男子と出会ったところ少しだけ正常化、段々と人形への執着を捨てていく……かに見えたが、というお話。
まぁこんな設定なら結末なんかは最初からわかってしまう。ストーリーは捻りがなく演出も淡泊でちょっと面白味に欠くが、主人公と人形の異常生活は痛々しくも不気味で、少女なのか大人なのかわからない主演エイミー・クロウディスの危うい存在感も効いて、かなり低予算のインディー映画ながら雰囲気はよかった。
『Slaughter Claus』(2011)
清々しいほどのカス映画だ。ストーリーらしいものはとくになくエルフを従えたサンタクロースが人を殺していくだけなのだが、人外のバケモノという設定のこのサンタクロースは特殊メイクをする予算も技術もないのでたぶん近くのロフトかドンキで買ってきた怖いマスクで人外キャラを演出、人外サンタの怖い顔を作る能力がないということは死体の特殊造型能力もないのでサンタがゴムかプラスチックでできた斧とかをポコンと絶対に怪我をさせないように力を抜いてゆーっくり人間に振り下ろすと次のカットでは同じ服を着たマネキンに赤いペンキがかかっており、それで斧を振り下ろされた人が死んだという風に見せたいらしい。サンタの横で不快な笑い声をあげているだけの従者エルフは下半身がタイツで上半身は裸なのでエスパー伊東に似ている。あと会話の間が異常に悪い。
こんなクリスマスホラーを観るのは一度や二度ではないのでアメリカではこういうやつがジャンルとして確立されているらしい。ホームビデオ・ホラーとでも言えばいいのだろうか。まずスタッフとキャストは全員素人で知り合いか友達。撮影地も全部家の近くか友達の家。プロは現場に一人も存在せず役者(友達)がアドリブで面白いことをやればずっと撮ってたまにカメラの後ろからそれを見てる監督の笑い声をマイクが拾っちゃう。家族はもちろん全員出演。とくに子供には見せ場がたっぷり与えられ、この映画の中では階段を一段一段転がりながら降りていくのを編集で何倍速かにして階段を転落しているように見せたりしていた。ビデオの編集ソフトについている面白そうな機能をたくさん使っちゃうのもホームビデオ・ホラーの特徴だ。完全に意味の無い雑合成(ローラーボールみたいなやつの試合を見ている人を単に現地に行って撮ればいいのにわざわざ合成してる)により人物の輪郭にブルーバックの青い線が残って霊体のようになっていたのはある意味ホラー的な演出と言えるかもしれな……言えるわけないだろ!
エンドロールが終わるとどうせ監督本人が演じてるんだろうと思われるサンタが撮影に協力してくれた仲間たちをウワーと追いかけて仲間たちが笑いながら逃げていくボーナスシーンが流れるので、映画としてはカスとしか言いようがないのだが、きっと撮影は楽しくみんなの思い出になったことだろう。それにしても謎なのはこんなシロモノが堂々とDVD化されて一般流通に乗っていることである。アメリカはおそろしい国だ。
『A Christmas Horror Story』(2015)
プレゼント工場でゾンビ化したエルフと戦うサンタクロース、息子がゴブリンにチェンジリング(取り替え)されてしまった母親、夜の森でクランプスに襲撃されるファミリー、心霊スポットに動画を取りに行ったら霊に憑依されてしまった若者たち……クリスマスを舞台にした4つの恐怖譚が語られるオムニバス・ホラーだが、一般的なオムニバス映画が一話終わったら次の一話と進行するのに対して、この映画は4つのエピソードを同時進行させ、テレビをザッピングするように見せていくのが大きな特徴。単純に各エピソードのクオリティがこの手のオムニバス・ホラーの中では頭一つ抜けているというのもあるけれども、この編集の妙によって映画が終盤に向かうにつれてどんどん盛り上がっていくので(そして基本的に悲惨なことになるので)まるでアドベントカレンダーのようなクリスマスホラーである。
どのエピソードも良いけど一番といったらやはりサンタのエピソードになってしまう。これはズルい。屈強なサンタさんがゾンビエルフの群れを蹴散らし手足を斧で切断し頭はかち割り脳みそを潰しというゴア描写満載のアクション編なのだから楽しいに決まっているし、まさかのオチの救いの無さも見事。秀作だ。