《推定睡眠時間:15分》
『8番出口』で大ブレイクしたチラズアートの短編ホラーADVを『真・鮫島事件』以降『きさらぎ駅』『リゾートバイト』などネットロア題材の要するに企画ものホラーを一手に引き受け企画ものなら任せろ監督になってしまった永江二朗が映画化! と聞いてそれはぜひ観に行きたいと思う層に俺は入っていないのであるが、コンビニ夜勤の店員を襲う恐怖と聞けば二十代の数年間コンビニ夜勤で生計を立てていた俺には回避できない映画である。同僚が仲間を引き入れて商品をごっそり強奪していくのに遭遇とか同僚のいたずらで呼吸ができなくなり死にかけたとか事の発端は俺じゃないのにいろいろ巻き込まれた結果クレーマー的な人に土下座とか実にさまざまな夜勤事件があった。ただこの映画はそういうものでは当然ながらまったくない。
原作ゲームはやってないので内容は知らないがインディーゲームということでお金のかかっていない映画であることはまぁ間違いない。ということでその映画版が大予算になるわけもなくむせかえるほどの低予算臭、主人公が原作ゲームオマージュのPOVで勤務先のコンビニに入って行くとそのコンビニは最近のものだと『まる』とか他の映画にもよく出てくるコンビニの撮影スタジオなのだが、ドアが今時のコンビニならほとんど考えられないことだと思うのだが自動ドアではなく手動ドア、しかもなぜか人もいないのに開きっぱなしである。なんで開きっぱなしなのだろうと観ながら不思議に思っていたがおそらくこういうことだろうと閃いた。
そのシーンはPOVなので映画的には主人公の視点ということになっているが実際にはカメラマンが撮影しているわけである。もしコンビニ入り口の手動ドアが開いていたらこれはガラス張りのドアであるから近づいた時にカメラマンがガラスに反射して映ってしまう。おそらくそれを回避するためにかなり不自然だが手動ドアを開けっぱなしにして撮影に臨んだんではあるまいか……! さすがの名推理と自画自賛してしまうが、そうだとすればの話だとして、ここから言えるのはカメラマンのガラス戸の映り込みという問題を回避するためにガラス戸に映らないようにドア自体を開けておくという効果的だがかなりプリミティブな方法を採用するぐらいお金のない映画ということである。
CGで消すとかは無駄金&無駄作業だとしてもドアのガラスにイイ感じのそれっぽいポスターを貼るとか反射を防ぐシールを貼って疑似的な磨りガラスにするとか映り込みを防ぐ方法にもいろいろあると思うのだが、そんなところにかけているお金も手間暇も時間もない、ドアを開けておけば映らないんだからそれでイイでしょうが! これはつまりそういう現場で撮られた映画と推測できるのである。
そんな映画であるから比較的限界じゃないかと思う。恐怖描写はほぼすべてジャンプスケアという名のびっくらかしで、凝った映像とか特撮とか撮れないわけだから主人公が振り向くとそこにさっきまで居なかった人が! みたいなのを飽くことなくひたすら続ける。振り返ったところに立っている人が怖い顔をしたオバケとかならそれもまだわかるのだが、怖い顔のオバケを作るのだって結局お金と手間暇と時間がかかるので、それらしいものはほぼほぼ出てこず観客をびっくりさせるのはわりと普通の人間。原作ゲームももしかしたらそういう感じなのかもしれないが映画でそれはいろいろと厳しくないか。永江二朗は同じようなことを『きさらぎ駅』でもやっていたから作風と言えなくもないのかもしれないが……いや、だとしたらその作風はなんなんだよ?
もちろんそれだけじゃ二時間弱の映画は持たないっていうんでおそらく映画独自の要素として直球で『リング』な推理パートが用意されていたりするのだが、直球で『リング』なので『リング』だなぁぐらいしか思わないし、そもそもコンビニ夜勤となんの関係もないので、水増し感はあまりに露骨である。『リング』には呪いのビデオというたいへん強い画があったがこっちは呪いのビデオに匹敵する……とまで言わずとも頑張って張り合おうとしてはくれているみたいなホラー画もないし。いったいどこらへんが見所なのか。かなりニッチな原作ゲームファンは原作由来のネタを拾って楽しめる部分もあるかもしれないが、そうでない俺に拾えるものは基本的になかった。
でも永江二朗はあくまでも企画ものホラーの職人である。そもそもこれは本気で怖い映画が観たい人に向けられて撮られてはいないだろうし、職人が与えられた劣悪条件のなかで手際よく撮り上げた現代のプログラム・ピクチャーとして考えれば、怖いか怖くないかでいったら1:9の比率で怖くないに傾くわけだが、テンポ良く次々と安い怪奇現象が起こるので退屈はしなかったとおもう。発想の勝利で完全に予想外のスマッシュヒットを記録した『きさらぎ駅』よ再びとはいかないとしても、暇つぶしに観るには悪くない映画なんじゃないでしょーか。