「あの頃」擬態レベルが高すぎ映画『沢田美由紀のガマランドにお邪魔します』感想文

《推定睡眠時間:0分》

ふぅんまたファウンドフッテージ・ホラーかぁ最近いろいろ流行ってるからな~とタイトルを聞いてもポスターを見てもさして気に留めていなかったのだが、なんか一本映画見てから家に帰りたいけどと上映スケジュールを探しても終電の絡みでこれしか観られる映画がなく、あんま面白くなさそうだけど上映時間も59分と短いからサクッと観られていいかと思って劇場に入ったところ、画面に現れる「フィルムエスト」の文字。えっフィルムエストの映画だったのかこれ!? だったらもっと早く言ってくれればよかったのに……フェイクドキュメンタリーという体裁を取っている都合、どこどこの誰々が制作しましたよと大々的に宣伝しにくいのは、こういう映画の弱いところだ。

ここで説明しよう! フィルムエストとは、YouTubeチャンネル「フィルムエストTV」を運営する映像制作ユニットである! フィルムエストTVは昭和後期~平成初期のテレビ番組やCMを高度に捏造するフェイク動画チャンネル、俺はこのチャンネルが好きなんですがなにしろ再現度が高くって笑っちゃう、昭和末期生まれの身にはフィルムエストが捏造した昭和後期~平成初期の偽テレビ映像はあまりにも「あったな~!」なのである。この「あったな~!」で笑っちゃうというのがポイントで、フェイクドキュメンタリーというとホラーが主流だと思うのだが、フィルムエストの捏造動画はコメディ。虚構新聞の映像版と言えばイメージが伝わりやすいだろうと思うが、いかにもありそうなウソの数々が実におもしろいのだ。

そのフィルムエストが手掛けている1990年代中頃ぐらいの時代設定と思われるフェイクドキュメンタリー・ホラーなのでやはり序盤の昭和後期~平成初期の擬態っぷりには大笑い。ある男(これを演じているのが監督の西井紘輝らしい)が沢田美由紀という名前の自分の恋人をホームビデオで撮っているという設定なのだが、そこに入る「初のガマランドにドキドキの美由紀」みたいな感じのクソテロップの数々がバカバカしくもリアルなあの頃感を醸し出して最高。劇中劇として入ってくるガマランドのCMやレポート映像はいつものフィルムエスト嘘番組の感じで、こちらも「あったな~!」で妙に恥ずかしさを感じつつ笑ってしまう。

ところがこれはホラーである。ということで和やかなあの頃擬態コメディは徐々に『フェイクドキュメンタリーQ』路線のファウンドフッテージ・ホラーに移行し(『フェイクドキュメンタリーQ』の長編動画『フィルムインフェルノ』とよく似た場面があったのでオマージュかもしれない)「あったな~!」の笑いは得体の知れない違和感へと変わっていく。ネタバレかもしれないがこの映画にはオバケは出てこない。怪物のたぐいも出てこない。けれども物語の真相が明らかになると、あんなに笑っていた冒頭のクソテロップすら狂気じみたおそろしいものと見えてくるという、そんな映画なのだ。フロイトは『不気味なもの』で人が不気味に感じるのはかつて身近にあったものだというようなことを書いているが、かつて身近にあった昭和後期~平成初期のホームビデオのあるあるっぷりに最初は笑っていたのに、それがいつの間にか何か呪いの籠もったような不気味なものに変貌するこの映画は、フロイトの不気味なもの論を裏付ける映像資料ともなるかもしれない。

世間的には大好評だったらしいフェイクドキュメンタリー・ホラー特番『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』を観た時に俺はこの特番に劇中劇として挿入される昭和後期~平成初期の深夜バラエティの擬態レベルの低さに大いに不満で、コンセプトは悪くないのに擬態レベルが低いせいで全然怖くないとブツブツとテレビに向かって俺の他に誰も存在しない荒んだ独り暮らし部屋で文句を言っていたものだが、近しい制作コンセプトを持つこの『沢田美由紀のガマランドにお邪魔します』は擬態レベルがやたらと高いのでしっかり怖くて良かったと思う。ただでも……いつもYouTubeで観てるフィルムエストTVの捏造動画はコメディなので、血飛沫とか臓物はおろか殺人シーンすら出てこないとはいえ、こう救いがなく残酷で狂気を孕んだ結末を迎えてしまうとなると、いや、フィルムエストさんの作品ならやはり陰鬱な気分じゃなくてアハハと笑って劇場を後にしたかった……とか思ってしまう。ファウンドフッテージ/フェイクドキュメンタリー・ホラーとして完成度が高いだけに、なかなか難しいところである。

ところでこの映画を観ていて思ったのはファウンドフッテージ/フェイクドキュメンタリー・ホラーとスナッフビデオの持つ作品構造はとてもよく似ているのではないかということで、おそらく『ギニーピッグ』のような疑似スナッフビデオから残酷シーンや直接的な暴力シーンを抜き出して、その気味悪さと悪意だけを残したら、きっと『沢田美由紀のガマランドにお邪魔します』になるだろうということだった。このへんはいろいろ考えていることがあるので機会があればまとめて書きたいかもしれない。

ちなみに、映画の舞台となっているガマランドは茨城県に実在するテーマパーク……というか、『探偵ナイトスクープ』で言うところの「パラダイス」。筑波山中腹の昭和レトロな「ガマランド」再生へ 茨城・石岡市も支援(朝日新聞)によれば長らく休業中だったが現在は再建に向けて動き出しているそうな。よく実在のテーマパークの実名を出してこの内容の映画が撮れたな。そのへんもまた現実と虚構が高いレベルで交錯して笑えるやら怖いやらで、『沢田美由紀のガマランドにお邪魔します』、なんとも名状しがたい異様な映画である。

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