高級マイケル肉をフークアが男の料理でゴリ押し映画『Michael/マイケル』感想文

《推定睡眠時間:15分》

最近の日本ではクィアという言葉が本来の「(主に性規範などから)逸脱した人」というざっくりした意味合いを失ってもっぱら同性愛者を意味する言葉として使われているが、そういえばマイケルの映画やるしマイケルの曲とかちゃんと聴いたことなかったけどまとめて聴いてみるか、と思って何枚か今時TSUTAYAで借りてきたら、へぇマイケルってこんなクィアなアーティストだったんだと気付かされ、それでツッコまざるを得なくなったのが『Michael/マイケル』の監督アントワーン・フークアという人選である。いや、世界観が違いすぎるだろ! アントワーン・フークアといえば『トレーニング・デイ』『イコライザー』といった肉体派の犯罪映画を得意とするマッチョな人、一方マイケルは愛と平和を尊ぶどうぶつ博士にしてネバーランダーである。言うならばフークア的なマッチョ黒人の世界から逃れようとしていたのがマイケルというわけで、はたしてそんな監督がマイケルの世界に肉薄することができるのだろうか……とマイケルのことなんか整形をよくする白い人ぐらいしか知らない俺でさえ不安になるほどであった。

しかしそんな心配は無用である。なぜなら『Michael/マイケル』、冒頭からマイケル・ジャクソンの名曲をダダ流し。ジャクソン5デビュー前から物語が始まりその時代その時代のマイケルの代表曲を流しながらアルバム『BAD』のツアーで幕を閉じるという構成なのでこれを観ればマイケルの名曲はだいたい網羅できるだろうと思われるが、一曲あたりの映画での使用許諾料が億を超えると言われるマイケル名曲群をかくも潤沢に使いまくれるのはひとえに著作権管理を行っていると考えられるマイケル・ファミリーがジャネット・ジャクソンを除いて制作に携わったおかげである。そしてマイケル・ファミリーが関与しているということはあまり触れられたくない部分は描くことができず表面的な偉人伝にしかならないということだ(ジギー・スターダスト誕生前夜を描いた『スターダスト』という映画もデヴィッド・ボウイ若かりし頃の泥臭い日々を描いているためか遺族の許諾が降りなかったとか)

観客は大満足なのにロッテンなんとかでは批評家評価がえらく低いということで変に話題になったりもした映画だが、ようするにこれはマイケル名曲メドレーを甥のジャファー・ジャクソンが演じるマイケルの素敵なダンス・パフォーマンスとかファッションを観ながら楽しむ映画であって、毀誉褒貶かまびすしいあのマイケルの半生に肉薄する! みたいな映画ではぜんぜんない。本体はあくまでもマイケル名曲メドレーなわけで、合間合間に挟まるマイケルと父親ジョセフ(マイケルで儲けるために暴力指導&搾取)の確執を中心とした再現ドラマのパートはオマケのようなもんである。マイケルの整形とか白斑なんかはいマイケル整形しましたねはいマイケル白斑ですねとたかだか1シーン触れられるのみでノルマ達成のために脚本に入れました感がすごかった。

だから脚本においても演出においてもマイケルのクィアネスをまるで捉えていないとしても、ぶっちゃけそんなことはどうでもよくなってしまった。そりゃたしかに監督がもう少しマイケルのクィアネスを理解できそうな人(たとえば『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス)だったら作品にもう少し深みは出ただろうしマイケルの魅力ももっと本質的に描き出すことができたかもしれないが、マイケル名曲メドレーとマイケルになりきったジャファー・ジャクソンのパフォーマンスが観れたらもう別にそれでいいよね。その意味でこれはとても映画らしい映画というか、映画らしい映画というとなんかなにそうだな『風と共に去りぬ』みたいな? あぁいう文芸大作とかを想像する人もいるかもしれないですけど、元を辿れば映画は見世物だったので、マイケルのお歌とダンスを見せることにほとんど徹したとさえ言えるこの映画はとても見世物的で映画的だと思いましたよ。幼少期のマイケルが『雨に唄えば』を観るシーンがあったからもしかしたらハリウッド黄金期のミュージカルを再現しようとしたのかもしれないな。あれは最上級の見世物だから。

ただ再現ドラマのパートがつまらないのはフークアの専門外だからまぁいいとしてもライブシーンまで演出に力が入らず最初から最後まで一本調子、パフォーマンス自体は素晴らしいのにそれを引き立てる演出ができていないので盛り上がりが弱いのはちょっとどうかと思ったよ。カメラワークとか編集とかに工夫がなくてただ漫然とライブ映像を流してるだけ(たまに観客にスイッチ)だし、観客もただただキャーキャー言ってるだけでグラデーションとか迫真性というものがない。なんていうか超高級肉を熱した油にぶっ込んで塩かけただけみたいな映画だこれは。素材は細心の注意を必要とする一級品だけど料理の仕方があまりにも独身男性の男の料理。まぁフークアの専門は肉体派の犯罪映画だからな、そのへんの豪快な割り切りはフークアらしいのかもしれない……いや、マイケルの歌とダンスとファッションいっぱいで楽しかったけれども、やっぱり監督は他の人が良かったんじゃないですかね?

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りゅぬあってゃ
りゅぬあってゃ
2026年6月13日 5:06 AM

そういや、邦画で「歌手の伝記映画」を作る様子は一切ないですね。
アメリカみたいに往年の歌手のリバイバルブームを狙う事がないのか、単に演じられる俳優がいないのか?

志村けんの伝記ドラマはまた路線が違うし。

個人的にはLAZYの伝記映画が見たい。(影山ヒロノブがデビューしたアイドルバンド。ハードロックやりたいのにアイドル売りさせられた確執とか絵になりそうなので)