公開されるのが遅かった映画『リアリティ』(2023)感想文

《推定睡眠時間:40分》

始まって30分ぐらい経っても本題に入らず政府機関で働いてたらしい主人公とFBI捜査官の世間話ばかりグダグダと続いてたので眠くなってきてしまい結局主人公がどんな機密情報をどんな方法でリークしたのか具体的にはわからないままエンドロールを迎えてしまった。こんな作りになっているのはこれは実話の映画化でFBIが主人公の家を家宅捜索した時の実際の録音テープをそのまま起こしてシナリオにしているためらしい。

ポスターとか予告編からは悪辣FBIの印象を受けるが冒頭のテロップでその特異な作劇法を知った俺は逆にFBIちゃんとしてるなーとか思ってしまった。FBIに限らずアメリカの警官はボディカメラ等を着用して捜査時の出来事を記録していることは知っていたが、それが一般に公開されているというのはさすがに予想外(予告編は適当に見ていたので主人公の側が録音してたのかと思ってた)。FBIがどうのというよりこれは情報の公共性というものの考え方がアメリカは他の国とはかなり違うということだろう。ナントカ法というやつのためにアメリカでは創作物に比較的自由に(権利者の許諾なく)報道映像を引用してよいらしいとかもある。こういうところはアメリカの良いところだなと思う。

それはともかく実際の捜査記録を省略なしでシナリオにしているのでそんなもん面白くなるわけがなかった。これがたとえば銃犯罪とか麻薬犯罪とかの捜査記録を基にしたものであればそのままシナリオに起こしてもなかなか緊迫感があって多少の不謹慎感も出てしまうが面白い映画になっただろうと思う。しかしこちらは機密情報漏洩の家宅捜索である。この主人公は元軍人の愛国者なので家には拳銃二丁と散弾銃一丁があるのだが当然FBIと撃ち合いになったりはしない。っていうか結構重めな武装してるなおい。

合法的に所持している銃なのでFBIの方は事前に銃の登録情報を調べて主人公宅を訪問しており、主人公一人に対してFBI捜査官二人組プラスその後合流する複数の捜査官はやけに緊張しているなと思ったが、家に銃が三つあって一つは自衛用というにはいささか過剰な散弾銃という元軍人の機密漏洩犯人のお宅を訪問するのだから、FBI捜査官が警戒するのもおかしなことではなかった。主人公がベッドの下にネコがいるからということで屈んでそこに手を突っ込むシーンではなにやら緊張感を煽る音楽が流れるが、この場面で緊張していたのは主人公よりもたぶんFBI捜査官の方だろう。

そうしたくすぐりどころ(?)はあるとはいえ基本的にはゆるい日常会話が起伏なく続く。FBIの懐柔テクニックがどうのと予告編で見たような気がするが俺が起きていた範囲では別にそんなものはなかった。誘導尋問的なものもなければ圧迫面接的なものもない。本当にゆるい日常会話をして友好的な関係を作り出そうとしているだけである。それも捜査のテクニックといえばテクニックかもしれないが、俺が前にバイトしてた会社に家宅捜索が入った時も聴取要員の警官は物腰柔らかでフレンドリーだったので、あれはたぶん国を問わず聴取に当たるときの一般的な警官の態度なんだろう。横柄な態度で聴取に当たって被疑者とか関係者が口を閉ざしたら損をするのは自分なのだから、考えてみれば当たり前の話ではある。映画によく出てくる無駄に当たりの強い警官というのは現実ではダメ警官なのだろう。

今年2023年にトランプ政権時代のスキャンダルの一つをネタにした映画をやる、そしてその主人公を国家のためにトランプに不都合な情報をリークした英雄として讃える、来年はアメリカ大統領選の年であるからこれは民主党を支持する映画製作者の陣営応援映画とみてまず間違いはないだろう。アメリカの映像業界というのはニュースもバラエティも映画も政治色を隠さない、いやむしろ積極的に自分たちがどの政党や政治家を支持しているのか出していく。

俺も選挙権なしとはいえずっと民主党支持だしトランプに大統領になられるよりは誰であれ民主党候補の方がマシだろうとは思っているが、とはいえ。民主党のバイデン政権がイスラエルのネタニヤフ極右政権のケツ持ちとなってガザ侵攻とパレスチナ民間人虐殺を支持している現在、こんなトランプ下げ民主党上げの政治宣伝(的な)映画を見せられても白けるばかりだ。この映画の撮影時にはハマスのイスラエル侵入大虐殺もその後のイスラエルのガザ侵攻もバイデン大統領の私はシオニストです発言(※ネタニヤフ首相との会談時)もなかったわけだから公開のタイミングが悪かったとしか言いようがないのだが。

『シチズンフォー』という機密情報をリークしアメリカ国外に逃亡したばかりのスノーデンに密着したドキュメンタリー映画さえ作られてしまっている昨今、こんな題材は珍しいものではないし、そのうえリークした機密情報の質はスノーデンのそれと比べて何段階か低い(ように思われる)、緊張感のある演出や演技はよかったがやはりシナリオが面白くないし、加えて政治的なメッセージにもノれない…とまぁ散々な感じなのだが、でもこれがまだトランプ・スキャンダルのホットな時期に作られて公開されていたらもっと全然面白く観られたような気はしているので、やはりね映画というのはいつの時代も水物です。これはあれだね賞味期限切れだ。食べられないわけじゃないけど、最高においしくいただける時期は過ぎてしまった映画だと思ったな。

あとリアリティ・ウィナーが主人公の実際の名前っていうの、なんかすごくない?

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