田舎の闇が深い映画『誰もがそれを知っている』感想文(ネタバレなし!)

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , ,

《推定睡眠時間:10分》

ドローンカメラの映像を単に映像素材のひとつとして使うんじゃなくて劇中人物がドローンカメラで撮影してるのがその映像って風にして物語に組み込むタイプの映画ってあるわけですが、それをやった『ブレア・ウィッチ』も『コンジアム』もなんとなく新しい物だから使ってみた感だけあってあんま効果的に見えなかったので、素直に良いなと思えたのはこの『誰もがそれを知っている』が初めてかもしれない。

あの垂直下降・上昇のカメラワーク。他のテクニカルな撮影と同じようにこれも、当たり前の手法になってしまえばそんな風に感じることもないのでしょうが、今はまだ慣れないので違和感を覚える。
その違和感を巧く利用してると思った。会話シーンの背後で空気を読まずにやかましく鳴りまくる教会の鐘と合せてドローンカメラの俯瞰映像は人間世界の外部を強く意識させる。誘拐犯人が写っているかもしれない結婚式のドローン撮影映像を食い入るように見つめるのはただただ娘の無事を神に祈るばかりで何も行動を起こそうとしない誘拐された娘の父親だが、彼は神の視点としてドローン映像を見ているのだ。誰もがそれを知っているのなら神もまた知っているに違いない。

スペインの片田舎で一族郎党大集結の乱痴気結婚式が行われていた。その夜、まさかの誘拐事件勃発。姿を消したのは新婦の姪で、ボーイフレンドに家出を仄めかしていたことから(もっともこれは観客にしか知らされないが)狂言家出の線も浮上、しかしガチ誘拐だったらシャレにならんので一族は犯人の指示通り警察には解決を任せず一族内で事件を処理しようとする。
うーん、いったい事件の真相は。スクリーンと脳内スクリーンの仮想デュアルディスプレイで事件当夜の出来事を思い浮かべようとしてメモリ不足で失敗しつつ映画を見ていると話は意外な方向へ。

身代金どう捻出しょっかなぁとみんなが悩んでいるうちに封印したはずの土地と血を巡る遺恨が再燃、盤石体制に見えた田舎の大家族(+地域住民)の繋がりが実はたいへん脆いものだったことが続々と明らかになってきてしまう。
誘拐だけでも大事なのに一族の存続まで危うくなってきてなんだかもう、たいへん。はたして誘拐された(?)姪は無事に帰ってくるんだろうか。そして一族は崩壊の危機を乗り越えることができるのだろうか。黙して語らぬ神はなんか一つぐらい助けになるようなことはしてくれるんだろうか…というストーリーなので一族総出の結婚式を真上から捉えたドローンカメラ映像、映画の重要なピースになってたんである。

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ちなみにそのドローン撮影の一族俯瞰図はマルケス『予告された殺人の記録』の表紙になってるジェームズ・アンソールの仮面モザイク絵をなんとなく想起させるものだったが、どいつもこいつも仮面を被ったお歴々の思惑がモザイク状に入り乱れる群像劇であるし、陽光眩しく賑やかなようでドロドロに閉鎖的なラテン田舎の秘密主義と家族主義が主題を成しているので『予告された殺人の記録』とは被るところがないでもない。

そのまだら人間模様にあえて肉薄せずに、ドローンや鐘、鐘楼などなどの挿入によって登場人物(のドラマ)に感情移入しかかった観客を引っぺがしたりするあたりも道具は違えど手法的には似たものがあった。
ただしこちらの引っぺがしはマルケスのような自由な遊離感覚をもたらすものではなくて、神の(ような)視点を通して冷徹に現実を見つめさせようとするものだから、観客にも登場人物にも厳しい映画である。

またもうひとつ連想したのは横溝正史の田舎ミステリーで、スペインも岡山も土地と金と血で人間関係が壊れるのだから田舎はなんて狭くも広いんだろう、と思わされたりもする。田舎は文明社会のどこでも結局は田舎なんであった。田舎はグローバルだったのだ。

ネタバレをしたくない映画だったのでネタバレを回避するために頑張ってストーリーの核心部分に触れないよう話を逸らしてきたがこのあたりがもう俺的には限界。
こういう映画の感想は難しい。ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、ほかキャスト全員悪い演技をしているとは思えないが面白かったのは精緻に組み立てられたシナリオだったし、誰々の演技がどうこうと言ってしまうだけで事件の真相のヒントぐらいにはなってしまいそうな感じがあるのでどう書いても地雷を設置するような感想になってしまう。っていうかもう地雷撒いてる感が濃厚である。

ともかく、おもしろいミステリー映画だった。登場人物の行動がことごとく裏目に出る意地悪展開はこっちも意地が悪いから次はどんな悪い方向に転がるのだろうと目をキラキラさせながら見てしまったし、ヒントかもしれないちょっとした事柄の出し方が巧いので久しぶりに本気で事件の真相を考えてしまった。
その真相が明らかになっても結局誘拐事件の根本原因は解消されないもどかしさ。神の目線でもってすべてがハッキリと画面に映し出されているものだから余計にモヤモヤ、物語の主軸はいつのまにか誘拐事件からこのモヤモヤにスライドして、モヤモヤした後味を残すあたりがまた意地悪で堪らなかった。

ドローンカメラで撮っていればその答えが観客にも見えたかもしれないラストシーンの解釈は人それぞれ。ぼくは罪の再生産だろうと悲観的に見たが、真実は神のみぞ知るってやつでしょう。いやはや見事な幕引きだ。

【ママー!これ買ってー!】


予告された殺人の記録 (新潮文庫)

そうそうこの表紙です。この表紙みたいな映画でした。

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