映画感想『正しいバスの見分け方』『なれない二人』

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中短編二本立て興行なんて珍しい。この二本は群馬の中之条でやってる伊参スタジオ映画祭という意外と息の長い地方映画祭発の映画で、伊参スタジオ映画祭はシナリオ大賞と一体化した新人監督発掘プロジェクトの側面もあるのでこれもそのひとつ、いやふたつ。中編部門と短編部門があって『正しいバスの見分け方』は2015年の短編大賞受賞作、 『なれない二人』は2017年の中編大賞受賞作。

一応シナリオ大賞を謳っているが実質的には企画助成で、大賞受賞者は翌年の伊参スタジオ映画祭までにそのシナリオを映画化して映画祭に提出すると賞金が貰えるシステム。おもしろいでしょう。おもしろいので俺も何度か応募してますが全部完璧に落ちてます。いいんだよ落ちたって送るんだよ! (受賞者に)なれない一人!

という事情を頭の隅に置いて観ると面白が増えるかもしれない。ぼくは増えましたよ。確かにどっちもおもしろいシナリオだと思うけどちくしょうなんでこれが通って俺のはダメなんだよあれおもしろかったろうほらあれ、あの犬の、犬がなんかあのあれする…それは面白じゃなくて嫉妬だしあと犬がなんかあのあれするよくわからないシナリオは普通に落ちると思う(仕事とはいえこんなのでも読んでくれてありがとう下読みの人)

『なれない二人』

《推定睡眠時間:0分》

漫才師になりたいかもしれない凡人男コンビが新人発掘ライブ前夜~当日に遭遇するちょっとした事件を描くほろ苦コメディ。なりたい自分とかなりたい関係になかなかなれない老若男女の人生にちょっとだけ触れて冴えない二人はなんとなくいっちょやったるかという気になってくるのだった。

お笑い芸人を描いた映画なのに肝心のお笑いの場面が笑えないというケースは間々あるが、これは主演のお笑いコンビの片割れ(古川彰悟)がサスペンダーズとかいうリアルお笑いコンビの人らしく、シンプルな台詞の強さも相まって劇中コントがちゃんと笑えるというのがとてもよかった。
この人の何を考えてるんだかよくわからない、古谷実の漫画に出てくる最初はただの冴えない人だったのに3巻ぐらいでなんらかの犯罪に手を染めてしまう底辺凡人っぽさがまたイイんすよね、画面に緊張感をもたらしていて。その緊張から笑いへの転換には本職らしいキレがあった。

っていうところは面白いんですけどあまりにもご都合主義的なシナリオはどうなんだよこれって感じで俺が言ってもどうせ嫉妬だろぐらいにしか思われないかおしれませんが! んが! いややっぱダメなんじゃねぇかな。
ご都合主義ってあれですよ偶然あそこで二人が出会ってとかそういう許せるレベルのご都合主義じゃなくて、たとえば警察が被害届を受理することもなく現行犯でもなく権力を行使しようとする場面があり…ネタバレ配慮で曖昧な言い方になってしまうがそれはさぁ、書き手の都合の良いように現実のルールを変えちゃダメだろって思ったよ。

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DV男が警官殴るところとかね。殴るわけないじゃないですか公務執行妨害でしょっぴかれるんだから。殴っても反撃がないやつだけを狙って殴るからDVなんですよ。ヤクザでも警官殴らないのにそこらのDVごときが殴れるわけないじゃないですか。むかし俺がバイトしてたコンビニに来て一騒動起こしたDV男も警察に食ってはかかってましたけど絶対に手を出そうとはしてませんでしたよ。その代わりクレーム攻撃をかけるわけです。上を出せ的な。で家で女を殴る。

そういうところはすげぇ雑で上の二つのエピソードはいずれも主人公二人に絡んでくる女関係のエピソードなんですが、その女の描写も男のそれに比べて女こんなもんでしょ感が露骨でまったく酷い。シナリオも酷ければフィギュア的な演出も酷い。主演二人のドラマを回すための道具にしかなっていない。

おそらく書き手の意図としてはいろいろな「なれない二人」を描こうとしたんだと思いますがー、出来ないことに無理に手を出そうとしたのか、それともプロットを優先してディティールとかリアリティをある程度(ある程度どころではないと思うが)犠牲にしたのか、ともかくそのせいで逆に個別のシーンは愉快だけれども全体を通して観るとむしろ不快、なんでこんな不誠実なシナリオが大賞をいやその話はやめよう! 一観客として! あくまで嫌味な一観客としてそう思ったんです俺は!

『正しいバスの見分け方』

《推定睡眠時間:0分》

中条あやみは不思議キャラでクラスメイトから一目置かれているというか避けられている田舎の高校生。不思議キャラなのでUFOにアブダクションされたかもしれんとフレンド女子に話してもそうなんやぁすごいなぁぐらいな反応しか返ってこない。
そんな中条あやみに色気づいてきた同級生男子の一人がやや惚れしてしまう。その友人も実は中条フレンズにやや惚れ、というわけでやや惚れ女子二人男子二人の倦怠感たっぷりの他愛のない放課後恋愛模様が始まるのであった。

相当に無理があるとはいえ『なれない二人』がプロットの面白さで見せようとする映画なら『正バス』は高校生のセンスあるなんでもない会話ほぼオンリーで見せるオフビート映画。いかにも自主映画っぽいジム・ジャームッシュ型のあれ。いいっすね。好き。大ネタや奇を衒った演出に頼らない丁寧な演出っぷりには好感しかない。『なれない二人』に負けたと思うとムカつくが『正バス』に負けたと思えば全然ムカつかない。そういう映画の見方はやめろ。

なによりよかったのは中条あやみの演技で、普通人を演じる時には大根効果しか生まない独特の抑揚のない台詞回しもこういう役なら生きる生きる。コミュニケーション下手なのでとりあえずキャラを付けるために中途半端に不思議系を気取っているが実際に不思議系と思われたらちょっと不機嫌になったりするような面倒臭い人っぽさが超リアルである。っていうかほとんど素に近いのではないかと思う。中条あやみのベストアクトだ。

ちなみに一番好きな場面はソニックユースのくだりです。

【ママー!これ買ってー!】


競馬四季報 2019年 07 月号 [雑誌]

競馬四季報を持ち歩く中条あやみの絵面は卑怯。

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