ノオミ・ラパスの方の『アンストッパブル』感想文(途中からネタバレあり)

《推定睡眠時間:0分》

一度走り出したら止まらないノオミ・ラパスが主人公なのでおだやかな原題『ANGEL OF MINE』はトニー・スコットの遺作となった列車暴走パニック映画と同名のおだやかならざる邦題となってしまいました。アクションしなくて別にいい場面でもガンガン積極的にアクション芝居を打っていくノオミ・ラパスの主演作にしてこの邦題、いかにもノオミのキレた暴走アクションが繰り広げられそうですがアクションなかったです。かなり純サスペンス。それで『アンストッパブル』はないだろ。まぁ、確かにノオミはアンストッパブルだったから嘘は言っていないが…。

さて今度のノオミは事故で愛娘を失って精神のバランスを崩した母親役です。事故のせいで夫との関係も悪くなって離婚、息子の親権は持っているが娘の姿が今もチラついて息子と上手くコミュニケーションが取れない、と娘の死の被害甚大。それでも数年間の精神科病院暮らしから抜け出して美容師の仕事もやってるのでメンタルは回復基調にあるノオミだったが、そんなおり、幸か不幸か娘に瓜二つとノオミだけが主張する女の子とノオミは出会ってしまう。

あまりにも似ている。似すぎている。似ているというかこれは…むしろ本人なのでは? ノオミのアンストッパブル妄想がはじまった。その女の子は息子の同級生らしいということでまずは息子をダシに女の子の暮らすお金持ち邸に行ってみる。そこの夫婦がどうも家を売りに出そうとしているらしいと知るや即内覧をブッキング。もちろん買うつもりなどない。買う金もない。だが、内覧に行けばあの女の子と会えるじゃないか…いつしかノオミの身体接触を含む女児ストーキングはアンストッパブル領域に。

家のプールで優雅に夜間水泳を楽しんでいる女の子を家の外からジーッと見つめたりする変態ノオミはいったいどこまでイってしまうのだろうか。このぶんだと女の子のみならず両親の身にも危害不可避と思えるが大丈夫だろうか。いや、それどころではない。ノオミのアンストッパブル妄想に歯止めを掛けようとする両親、担当医、前の夫、職場の同僚、そして息子…みんな危ないじゃないか! 殺るぞノオミなら! 逃げろ! みんな逃げるんだ! 決して振り向いたりしないでアンストッパブルで逃げるんだ…!

おおよそそんな感じのハラハラ映画ですが最後にちょっとびっくり展開があったので以下ネタバレ込みで感想続ける。自分からネタバレを食らって人を逆恨みしたくない人はここらへんで立ち止まって待避&セルフディフェンスするように。

ごめんちょっとって書きましたが本当はエエーッ! ぐらいは驚きました。なんというか、別に二者択一なのでそっちに振れてもおかしくはないよね、と理性ではわかっているが、実際にそっちに行くとは思わなかったというか、丁寧な伏線回収とか誘導があるわけでもなく急にだったのでそんな無茶なの印象大。いいのかねそれ。ハッピーはハッピーだけど全然ハッピーを感じないむしろ後味の悪いハッピーエンドだったよ。

えー、ノオミがストーキングしてた女の子、なんと本当にノオミの娘だったと母親が認めてしまいました。これはどういうことかというと、ノオミの娘は出産時に病院の火災で亡くなったことになっていたのですが、同時期に同じ病院で女の子を育てていた金持ち家の母親も出産しており、彼女が火災の混乱の中で救い出したのがノオミの娘だったのです。エエーッ!

ただそれが本当にそうなのかはよくわからないというのは一応書き添えておきたいところで、ノオミのストーキング攻撃を受けるうちに金持ちママは娘が自分の子供ではないように思えてきてしまった、と見えないこともなくもない。金持ちママの衝撃の告白後のシークエンスはその可能性を否定するものであったが、病状の悪化したノオミの願望的妄想に見えなくもない。その足場の不安定な気持ち悪さが狙ったものかどうかは微妙だが、正攻法サスペンスの正攻法のオチなのになんか嫌っていう割と希有な作品にはなっていたかもしれない。

ノオミは子を思って暴走するもしくは狂うバトルマザーの役を好んで演じる人なので二十人ぐらい名を連ねている(そんなに頭数必要な予算規模の映画か?)製作総指揮の中にはノオミも入っている。ノオミの映画だったら暴走マザーは基本的に勝つからな。暴走したもん勝ちみたいなところあるから驚愕のそっちかよオチも逆に、ノオミ映画的通常営業かもしれない。

個人的にはノオミにもう一暴れして欲しかった。それまでのストーカー行為の数々が真に迫っていて怖かったからついにノオミが金持ち邸に不法侵入(ノオミ相手にセキュリティ・システムなぞ役に立たんのだ!)、クローゼットに身を隠して機を伺っていると夫は外出して家には金持ちマザーが一人だけ…という絶体絶命状況になったときには殺される! ノオミに殺される! と盛り上がったが、多少のもみ合いがあった後に例の衝撃告白が始まってしまってノオミ大虐殺には至らない。

邦題とはいえ『アンストッパブル』って言ってるんだからそこは止まらないで欲しかった。金持ち邸の夫婦殺して家に火つけて隠蔽工作して攫ってきた娘は家にしばらく軟禁してノオミが本当の母親なんですの英才教育で洗脳とかしたらよかったのでは? そしたらほらなんか、驚愕のハッピーエンドよりもしっくりくるし安心する。より凶暴な展開の方が安心するというのもおかしいが、ノオミの演技圧を受けてこっちも倫理観多少歪んでるからね。

っていうか頭の危険な母親の方が金持ちの母親より愛が濃かったから真実もそっちに従属するっていうあのオチやっぱ気持ち悪いよ。絶対そっちの方が倫理的に危険なゾーン入ってるね。そこが、おもしろいのだけれども。

【ママー!これ買ってー!】


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情緒不安定と暴走行動はノオミ演技の二本柱。どっちも入ってお得な『チャイルドコール/呼声』です。監督はひねりの効いた小品サスペンスの職人ポール・シュレットアウネ。

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