一皮めくればみんな牛映画『牛首村』感想文

《推定睡眠時間:0分》

清水崇の村シリーズ最新作と聞いても期待などマイナスにしかならないのは『犬鳴村』と『樹海村』が怖くないだけならまだしも(いいのか)大して面白いわけでもなかったからでまー今回もそんな感じでしょと寝るつもりで観に行ったら意外や正調Jホラーで寝るどころか脳内に「!」が付いてしまった。そりゃこれだって大して怖いわけでも面白いわけでもないがこうなんというかですね前の二つの村は色んなオモシロ要素のチャンポンがあんま上手くいってなくて散漫で稚拙な印象が強かったんですけど今度の村は脚本にも映像にも一貫性があって村シリーズ最終作だからというのもあるのかかなり丁寧に作られてるんですよね、ホラー職人の技でもって。だから都市伝説の…というよりは怪談話の空気がしっかりとある。

どういう怪談話かというと北陸の心霊スポット探検に行ったライブ配信者(の友達)の女子高生がそこで行方不明になってしまって、ネットに拡散したその動画を見た主人公のKokiは彼女が自分と瓜二つであることに気付く。真相を確かめるためにKokiは彼氏志願者の同級生男子と一緒に北陸に飛び、そこで記憶の底に沈んだ自らの出生の秘密を知る…って前の二つの村と同じじゃねぇか大筋。まぁでもわからんでもない。日本のこわい話って極論全部それじゃないですか。こわい話っていうと広げすぎですけど田舎のこわい話っていうか。田舎のこわい話って都会の怪談と違って理不尽な怪異じゃないんですよね。ちゃんと因果がある。金がなさすぎて誰々を殺して奪ったからその祟りで子孫の家が没落するとか、障害者を差別して死に追いやったから追いやった側は罪悪感に苛まれて狂うとか。横溝正史の世界ですけど。

kokiが北陸で何を見つけるのかはネタバレになるので控えますがまぁだいたいそんなものを彼女も見つける。人間の業とか閉鎖的な村社会の罪とかそういうやつで、都会人が自分とは何の関係もないと思っていがちなもの。掲示板を中心に拡散したゼロ年代の都市伝説「杉沢村」は横溝正史の『八つ墓村』のモデルになった津山三十人殺しのイメージが時代を経て変形したものと言われているとかいないとかですけど、なんで「○○村」なんてイモっぽい都市伝説が現代で流行ったかって考えるともしかしたらこんな不安が背景にあるのかもしれない。つまり、本当に今の時代は昔の時代を克服したんだろうか、という。

昔の時代にあった野蛮や悪意をあるいは人間の関係性(地縁とか)を我々はとかくその時代に固有のものとして忘れ去ろうとしてしまう。でももしそれが時代に固有のものじゃなくて人間に固有のものだとしたら、克服したと見えるのは単に野蛮や悪意や関係性が表出しないような恵まれた環境に我々が住んでいるからで、もしもその環境が壊れてしまったらまた昔の時代に秒で戻ってしまうかもしれない。

これを書いている本日2022年2月25日ということで未来にこの感想を読む人のために時事ネタを絡めておくと、ロシアのウクライナ侵攻にたぶん多くの人はショックを受けたはずだが、でも考えてみればこれはおかしな話で90年代もゼロ年代もテン年代も湾岸戦争だのイラク戦争だのシリア戦争だの世界はずっと戦争をやっていておよそ平和であった時などなかったわけで、なのになんでまたショックを受けるのだろう? シリア戦争だってまだ終わっていないのに。

と考えると、忘れたからとしか言いようがない。戦争みたいな野蛮なものは過去のもので現代にはあり得ないと何の確証もなく我々は思い込む。そう思わないと怖くて不安でたまらなくなってしまうんじゃないだろうか。怪談話とか都市伝説がいつの時代でも人々に求められるのはそんな不安をフィクションの形でガス抜きしてくれるからなのかもしれないし、清水崇の村シリーズというのはそういうものをテーマにしているので毎回同じような話になるというわけです…と俺は思っているが作ってる方がそこまで考えているかどうかはかなり定かではない。

まそれはいいとして今回は前二作と比べて本格派の心霊ホラーになってるので安直なびっくらかしには頼らない。前の二つの村は恐怖シーンも結構ショボかったんですよ。なんか変に面白い恐怖シーンを作ろうとしてCGとかバリバリ入れたりするから逆に興ざめだったりしたんですけど、今回は基本そういうのなし。っていうか恐怖シーン自体が少なくて空気感で温度の低い恐怖を感じさせる。なんでもない日常の一幕をわざとだらだらと撮ったりすることで「今ちょっと幽霊映らなかった…?」って思わせる演出になってるわけです。渋い。

怖くはないとはいえ恐怖シーンも凝ったもの。幽霊が出るっていうか土地の記憶とか身体に染みついた記憶の再生という感じで、かつてあった惨事が壊れたレコードプレイヤーみたいに延々反復されるのをそれに触れた人間が目撃してしまう。不気味というより無気味。超現実的な法則によってシステマティックに繰り返される惨事はなにか当たり前の現実を根幹から揺るがすようなところがあります。だからちょっとSFっぽくもあったな今回の村は。そこにガッカリする人もいそうだが俺はホラーとSFは根っこの部分では同じだと思っているのでこれは全然アリだった。

村シリーズはいずれも○○村の都市伝説をメインに別の都市伝説とか怪談話とかあと実在の心霊スポットを掛け合わせた構成になってますけど今回は「牛の首」と「坪野鉱泉」。ネタの繋ぎはシリーズで一番違和感がなくシナリオは素直に面白い。kokiのまとうどこか人を近づけないような独特の雰囲気も作品のテイストに合っていたし、めでたしめでたしでは終わらないラストも怪談話らしくて良かったので、まぁだから『牛首村』ね、よくできた映画でしたよ。前二作があれだから殊更に良く見えてちょっとズルいけど!

※ツイッターでも言っている人がいたが台風かなんかでリアルに暴風雨になってる時に撮ったと思しき駅での会話シーンというのがあって、密かにそこはこの映画のベストシーン候補。いいんですよ、なにか惨劇の予兆のようでもあるし、映画観てるなー! って感じで。

【ママー!これ買ってー!】


『極道恐怖大劇場 牛頭GOZU』 [DVD]

まぁ牛の頭の出てくる映画といえばこれだよね! これはこれで怪談映画の傑作だと思いますある意味!

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