河井継之助最強伝説映画『峠 最後のサムライ』感想文

《推定睡眠時間:20分》

歴史マイナス100点の俺が邦画の時代劇なんかは案外楽しみに観に行ったりするのは時代劇が邦画の中では頭一つ抜けて虚構世界(つまり映画の中の世界)をちゃんと虚構世界として作ることのできるジャンルだからだったりする。映画って基本虚構だからその虚構に浸りたいっていうところあるじゃないですか。それでハリウッド映画とかインド映画とかは膨大な金をかけて虚構世界をさもホンモノのように作るじゃないすか。韓国映画とか台湾映画とかはハリウッド映画みたいな金はないけど撮影の技巧とか脚本力で虚構世界をホンモノのように作るじゃないすか。

でも最近の日本映画ってそういうところがあんまりなくて、『シン・ウルトラマン』とかその格好の例だと思うんですけど、虚構を虚構として作り込むんじゃなくて「これは虚構ですからw」みたいなメタ視点の導入で足りないもの(=予算と経験と技術)を補おうとするから、コアなファンはネタ元を指摘したりして大喜びするんですけど画面の中の世界にのめり込むっていう楽しみ方はあんまりできない。アニメ映画に関しては虚構性界の作り込みってノウハウもあるし比較的小規模な作品でもできてると思うんですけど、こと実写となるとヤクザVシネが時代劇ぐらいしか虚構世界を虚構世界として見せてくれる、楽しませてくれるジャンルってないんじゃないかなって思う。だから俺歴史ぜんぜん死んでますけど時代劇はよく観に行くんです。まぁチャンバラとかも大体あるしね、大体は。

それでこの映画『峠 最後のサムライ』。なんか原作は司馬遼太郎の有名なやつらしいですね。へー知らない。でも知らなくたって大丈夫、だってこれ冒頭に舞台となる時代の日本がどんな状況かNHKドキュメンタリーみたいなナレーション(説明図付き)で丁寧に教えてくれるもんね。そのナレーションによると欧米列強に目を付けられた日本はあれこれ動揺しちゃって幕府が偉いんだいや朝廷こそが偉いんだということで国内が二分してしまいこれじゃあ内戦になっちゃうじゃないのということで時の将軍様が幕府を解体してその権限を朝廷に返す大政奉還をやりました。大政奉還。はいここテスト出ますよ覚えて下さいね。映画の中でも画面中央に大きな文字で大政奉還と出ておりました。それぐらい大政奉還は日本史の重要な出来事です。え、知ってた? 小学校か中学校で習った? そうですか・・・。

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で時の将軍・徳川慶喜はこれぐらいやっときゃみんな矛を収めるだろと思っていたらしいですがそうは問屋が卸さぬと薩摩藩だがの人たちが立ち上がって我こそは新政府なりと戊辰戦争をおっ始めるわけですな。大丈夫かなこの理解でだいたい合ってるかな。書きながらとても不安な歴史マイナス100点生です。西郷隆盛って上野で犬を散歩させてた人じゃないだなぁって見ながら思ってました。

かくして日本は東西に分裂してしまいそんな日本の行く先を人一倍案じているのが長岡藩・・・というのは今でいう新潟の真ん中らへんですな、そこの家老・河井継之助です。河井継之助の狙いは重武装中立。オランダだかなんだか知りませんが海外からこっそりガトリングガンを何門か輸入してきてそれをチラつかせることで西と東のちょうど狭間にある小国長岡藩を戦争に巻き込まれないようにしようとしたのです。その作戦は果たして通じるのであろうか・・・なんかちょっと理解がズレてきた気がするからここらへんであらすじ書くの止めときますナレーションもこのへんぐらいまでしか説明してなかったですし。

でね、面白かったかつまんなかったかで言えば、まぁ別に面白かった。それは状況説明の冒頭パートを除けば虚構世界を虚構世界としてちゃんと作ってて作り手の自意識っていうメタな夾雑物も入ってこないんでその世界に身を浸せたからっていうのが理由。でも俺にとってはぶっちゃけそれだけ。ジャンル映画を観るときってストーリーとか演出とかどうでもよくてただジャンル映画を観たなっていう感覚だけ得たいときがあったりしますけど、この映画その感覚だけくれる感じだった。

なにせ演出がいかん。映画の時代劇というよりもテレビ時代劇的な大芝居をどの役者も例外なくカマしてくるが、ただでさえキツイそれを工夫もなにもない固定カメラの長回しで撮って繋げていく。確かに役者の芝居を見せることに特化した演出というのはあるだろうが、それは芝居の魅力あってのもので、聴き取りやすいテンポで抑揚なく話し始め次第に語気が荒くなり怒鳴り声になって一旦止まる、そんなテレビ時代劇の大芝居を長々と見せられてもこちらとしては閉口するしかない。そりゃテレビ時代劇が好きな人はそうそうこれこれってなるのかもしれないけどさ。

加えて結構ガッカリしたのが合戦シーンがダイジェスト的に挿入されるだけ、という予告編微詐欺。この映画は河井継之助がいかにカッコよく知的で勇敢ですばらしく男の憧れの男なのかということを老齢の感性で延々撮るものなので合戦とかはオマケ程度なんですよね。合戦っていうか人間ドラマとかもオマケとまでは言わないすべて河井継之助を中心にしたものなのでとにかく河井継之助がすばらしいっていうのを二時間観るだけでドラマ的な面白さとかはないです。役所広司が演じる河井継之助の芸者遊びの場での踊りをここぞとばかりにカメラで狙うのだから作り手の関心が完璧にそこにしかないことは明らかだろう。

そんなん撮ってなにが面白いんじゃとつい思ってしまうがまぁでもね、そういうところも含めて虚構世界、これ歴史知ってる人は「時代劇」として観てるかも知れませんけど知らない俺にとっては「日本のファンタジー」だからね。現代の常識の通用しないファンタジー世界なわけだからどこが面白いのかわからないところも逆に観光的な面白さになるわけです。河井継之助のどこがどう魅力的なのか俺にはよくわからなかったが、これがピタリとハマる異世界部族もいることだろう。世界は広いね。それを実感する映画でありました。

【ママー!これ買ってー!】


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俺もいつかは司馬遼太郎を読めるようになるのだろうか。

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匿名さん
匿名さん
2022年6月25日 11:05 AM

河井継之助まーん