韓国振り込め詐欺事情映画『声/姿なき犯罪者』感想文

《推定睡眠時間:0分》

振り込め詐欺を題材にした映画ということで思い出したのは同名漫画の映画化『ギャングース』、これは振り込め詐欺(の、グループを襲撃する若者たち)という題材の珍しさもさることながら詐欺犯罪のディテールも最近の日本映画としては例外的にリアルかつ凝ったもので印象深かったのだが、『声』を観ると日本も韓国も振り込め詐欺の基本構造は変わらないのだなあとそんなところで感慨深くなるんじゃないよと思いつつ謎の感慨深さを覚えてしまう。

だが『ギャングース』と違うのはこの『声』で描かれる振り込め詐欺は知能犯罪というよりはテクノロジー犯罪というところで、なにせこれがすごい、闇で売買された個人情報を元にターゲットを選ぶのは日本の一般的な振り込め詐欺と同様だが、そのターゲットにスマホでマルウェアを踏ませる。このマルウェアによって電話番号の偽装と変換を行い、たとえば「○○警察の者ですが」なんて詐欺電話をかけた際にターゲットがはいはいすいませんが確認のためにかけ直しますね、と一旦電話を切って先の電話が詐欺かどうか確認するためにネットで調べた○○警察署の番号に電話をかけても、接続先はなんとその詐欺グループのコールセンターで…ということになるのである。

だがそれだけではない。○○警察なら知らない人間が電話に出るわけだから詐欺コールセンターの人間が出てもホンモノかニセモノか判断しようがないとしても、これが家族なら話が別。偽還付金や警察の偽調査など様々な詐欺シナリオが巷には溢れている(らしい)が振り込め詐欺の王道シナリオはなんといっても身内の危機である。身内の危機シナリオの詐欺電話なら当然ターゲットは身内に直接電話をかけて話そうとするわけで、これは詐欺コールセンターでホンモノを騙るには限度がある。

こうした事態に対処すべく劇中の詐欺グループが用いるのはジャマーであった。これを身内の勤務地に設置して電話をかける方にではなくかけられる方の通信を遮断してしまえばターゲットは危機状態にある(と信じている)身内と直接話すことができなくなるわけである。

ここまで来るとなんだかスパイ映画の世界のようだ。どこまで韓国の振り込め詐欺の実態を反映したシナリオかは知る由も無いが、ただ一般的に考えてそこまでの技術力と組織力があるなら庶民相手のチンケな振り込め詐欺なんかやんないと思うので、このへんは映画界にミリタリー・アクションやポリティカル・サスペンスのノウハウがある韓国らしい誇張表現だろう。マルウェアによる番号偽装にしてもジャマーによる通信遮断にしても個々のケースでは使われることもあるだろうが、「番号偽装装置の○番基地がやられました!」「よし、直ちに○番基地に切り替えろ!」…みたいな会話が詐欺グループの通信センター内で交わされるぐらいな規模はいくらなんでも、である。

さてこの映画の主人公ピョン・ヨハンは元刑事の建築現場労働者、そのカミさんは小さなケーキ屋みたいのを経営しているがそこにハイテク振り込め詐欺組織の魔手が伸びる、案の定カミさんあっさり引っかかってしまうわけだが不運にも振り込め詐欺師と電話してる最中に交通事故に遭ってしまい生死の境をさまよう。ついでと言ってはなんだが建築会社の社長も同じグループからの詐欺被害を苦にして自殺した。この泣きっ面に蜂状況にヨハン元刑事はキレた。奴らを殺す! 自殺とか交通事故は振り込め詐欺師が関与してるわけじゃないので多少八つ当たりの気もあるがまぁどうせ悪い奴らだから殺されても仕方がないだろう。

殺す決意をしたはいいが警察さえその全貌を掴みあぐねている頭脳派ハイテク振り込め詐欺グループをいったいどうやって今や民間人の男が探すか…と思ったら時間にして2分ぐらいで最初の一人が見つかり後は芋づる式に辿って行って映画開始一時間も経たないうちに振り込め詐欺の拠点に潜入してしまった。お前有能すぎるだろういくらなんでも。ちなみにその間には現代韓国映画のド定番のほどよい市街地アクションも差し挟まれるがヨハンさんはおそらくノンスタントでアクション頑張ってました。役者本人も有能すぎる(しかも爽やかイケメンフェイス)

というわけでこのへんからが映画の本番。なんとなく『カイジ』っぽさがある詐欺コールセンターに潜り込んだヨハンさんは果たして妻を電話越しにハメた奴を見つけ出してぶっ殺すことができるだろうか? ついでに詐欺組織を壊滅させることなんかもできるだろうか? なんだか白々しいがま、なにかとネタバレに厳しい世の中ですし後はみなさんご自身の目で確認してくださーいということにしておこう。

最近のこの手の韓国映画がつまらないということはないので総評としてはとてもたのしい。これはもうプログラムピクチャーのようなものなので観ながら最近の韓国映画こういうカメラワークとかこういうアクションとかこういう芝居とかこういうシチュエーションとかこういうキャラとかめっちゃ多いなぁと思うことしきりではあるがそもそも意外性なんか期待してないので問題なし。画面のリッチさは大違いではあるがシナリオ展開は案外日本のアクション刑事ドラマなんかに通じるところが多いので逆にその既視感も心地よい定番感として楽しめた。

少しだけ意外性があったのは振り込め詐欺の本拠地の造形で、なんかそこらへんにある会社みたいになってました。犯罪組織といえばヤクザな男ばかりというのが世の常ですがこの詐欺会社はジェンダーバランスを考慮してか前職はカタギと思しき女の人の犯罪者もチラホラ見えて下級職のコルセンだけではなくコルセンに詐欺台本を供給する上級職にも就いてたりします。悪い奴らなのに意識がアップデートされててすごい。やってることは犯罪なのだが。

で、そのチグハグさが面白い。犯罪者なのに会社員みたいだったり、巨大組織のはずなのに銃すら持たないたった一人の元刑事に追い詰められたり、いかにも韓国映画的な迫真のアクションとノワールなムードがあったかと思えば、詐欺ターゲットたちがハイパーチョロく騙されまくる場面は出来の悪い啓発ビデオみたいでちょっと笑えてしまう。思うに振り込め詐欺という題材で映画を作ろうと思い立ったのはいいけどそのままリアリスティックに映画化したらだいぶ地味になっちゃうから韓国ノワールっぽさとかスパイ映画っぽさとかを見せ場的にどんどん足していって、それでこんな風に妙に据わりが悪い映画が出来上がったんじゃないだろうか。

こういう真面目なようで抜けている、抜けているようで真面目な変な映画っていいですよね。ヨハン元刑事がついに因縁の敵と対決する場面でその因縁の敵が「くっくっく…お前の個人情報などモロバレだ、妻の入院先だってちゃあんとこっちは知っているぞ!」とか言いながら予想外の行動に出た時にはなんじゃそりゃって思ったよ、あっはっは。

【ママー!これ買ってー!】


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『ギャングース』と『声』で日韓振り込め詐欺映画二本立てっていうのをやってもおもしろいんじゃないでしょうか。

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