反人種差別啓発週間映画『ハリエット』感想文

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《推定睡眠時間:30分》

ハリエット・タブマンという人は言ってみれば黒人奴隷版のシンドラーのような人で自身も奴隷だったが命からがら大逃亡、メリーランドから自由黒人が平和に暮らすペンシルバニア州フィラディルフィアに逃れてきたがそこで得た平穏生活を投げ捨てて奴隷解放運動に身を投じる。正確には解放というか逃走の手引きをする。こう、地下組織に入ってですね、自由黒人としてスパイ的に奴隷制アリの州に入っていくわけですよ。で夜闇に潜んで奴隷を逃がす。命がけだよね。

こういう人の伝記映画が今このタイミングで映画館にかかるというのはなんとも感慨深い…と思ったがでも黒人差別題材の映画なんか年がら年中やってるわけだからそうでもないか。年がら年中同じ題材の映画をやってるのに一向に黒人差別は改善の兆しが見られないのだからアメリカは頑固な国だ。反面、革命的大暴動を起こして昨日のニュースによればその端緒となったミネアポリス警察の解体・再編を市長に決断させたというのだから、ものすごい柔軟な国だ。

警察の解体など日本ではあまり考えられないが民が望めばなんでもできる、いま目の前にある社会に唯々諾々と従うのではなく自分たちで社会を良い方向に作り替えていこうとする民主主義的理念が骨の髄まで市民に染みこんでいるのが腐ってもアメリカ合衆国なんだろう。そう思えば逃走先での安穏生活よりも社会変革の道を選んだハリエットというのはきわめてアメリカ的な人物なのかもしれない。

だが理念は自然発生するものではない。どんな理念も何らかの主体的な確信が必要だ。というわけでそのへんがまたアメリカっぽいな~と思うところなのだがこの映画、ハリエットにキリストとモーゼのイメージを重ねているのだった。二人も! 贅沢! ナルコレプシー的なものがあるので行く先々で急に寝ちゃうハリエットが見る幻視的な夢はこの人が神に選ばれた者であることを意味するのだろうし、逃亡中の奴隷たちが溺死を恐れて入ろうとしない川に単身入って先導するあたりとか露骨である。なんなら「わたし、神を見たの」「神ってどんな感じ?」みたいな会話まであるのだった。

まぁ時代背景的に…というのも多少はあるにしても、このクリスチャン映画じみた直截的な表現は時代相の演出に留まるものではないだろう。ゆーてもキリスト教の国だからやっぱ社会を前進させる先駆者の背後に神を見せようとするのである。神がいるから戦える。神がいるから恐怖も消える。信仰の度合いは人によりけりだろうがアメリカの民主主義的理念と行動主義の基盤にキリスト教信仰あり、と再確認させられるのだった。

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ところでそのスーパーなアメリカっぽさがスーパーすぎて楽しめないとは言わないが面白いとは言い難い映画であったとまだ書いてなかったのでそろそろ書いてしまうがまぁよくこれ日本で一般公開されたなって思ったよ。クリスチャン映画じみたと書いたけれどもじみたっていうかクリスチャン映画なんじゃないのかねこれは。製材とかが基幹産業のバイブルベルトの片田舎に暮らしてて週末は必ず教会に行って趣味は酒飲むこととテレビでスポーツ観戦することで最終学歴が高校のブルーカラーの白人に観てもらって人種差別いけませんよってお勉強してもらうために作られたような。

そうとしか見えないのはとにかくわかりやすい。悪い奴がすごい悪くて良い奴がすごい良くて、思ってることは全部セリフで言うし、状況も場所も全部セリフで説明してくれる、それで主人公ハリエットはキリストの化身みたいなものですからみんなその崇高にひれ伏して悪い黒人とかも出てくるのですがハリエットが川を渡るの見て回心したりする。なにもむやみやたらと比喩とか仄めかしを使えばいいというものでもないと思うが、それにしてもストレートすぎないか。

音楽の使い方もストレートだったなー。ぼくは音楽の知識はないですから曲調の説明とかはできませんけれどもイメージ的には戦前のハリウッド映画ぐらいのサントラ構成、悲しいシーンでは悲しい音楽、楽しいシーンでは楽しい音楽、戦いの場面では勇壮な音楽、それがまたライブラリーから直で引っ張ってきたような無個性劇伴で、対置法とか無音の活用とかそういうのとはもうまったく無縁の世界、ハリエットが奴隷解放(逃走)に奔走する場面ではここぞとばかりに流れるニーナ・シモン「Sinnerman」! 確かに、確かにこの場面でこそ流すべき曲ではあると思うが…(それにしてもアメリカの映画監督はこの曲に頼りすぎである。いままで何回アメリカ映画の中で聞いただろうか)

そのアメリカ的ベタの過剰と全球ストレート演出はあえて言うならセガール映画と比すことができるかもしれない。ハリエット・タブマンはセガールだった! 奴隷主に見つかったら捕まってぶっ殺されるかもしれないのに教育効果最優先と思われるお勉強的ダイジェスト編集により命を賭した逃走作戦の数々に一片の緊張感も漂わないのも歴史&人権教育版セガール映画と思えば納得できるところだ。ただそこは伝記映画なのでセガール映画みたいに悪人をバシバシぶっ殺してくれたりは全然しないというのが実にガッカリさせられるところなのだが。

※ファッキン白人のコバンザメ! と思わせておいて実は、な老黒人牧師は良い味出てました。あと美術とかもしっかり作ってたんじゃないすか。だからなんだよって思ってしまうけどな。

【ママー!これ買ってー!】


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そういえばどちらも黒人差別題材の『グリーンブック』と『ブラック・クランズマン』がアカデミー賞で競った時に『グリーンブック』を監督したピーター・ファレリーが制作意図を「スパイク・リーの映画を黒人差別する白人は観てくれないけど(バカ映画でお馴染みの)ファレリーの映画なら差別白人も観てくれるかもしれない」みたいに話していたと思うが、『ハリエット』もおそらくそういう意図があったんじゃかろうか。それはさておき、黒人奴隷の逃走と言えば『それでも夜は明ける』。

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