観る才能と作る才能は別映画『激怒』感想文

《推定睡眠時間:0分》

水野晴郎の『シベリア超特急』はその突っ込みどころ満載の作風(作風である)から底抜けカルト映画として愛されているが、これは水野晴郎、いやマイク水野監督作だからこそであって、もしも水野晴郎ではない監督の作ならおそらく一顧だにされることはなかっただろう。キモは「あんなの映画を観まくってる人が監督したのにこの出来なのかよ!」である。水野晴郎ほど映画に憧れ映画を愛しそしてなにより映画を見尽くした男でも、いざ自分が映画を作るとなるとへっぽこ映画になってしまう…なにか人生の二文字を感じさせるこの壮絶な落差が、『シベリア超特急』を愛すべきカルト映画にしているのだ。

その意味で映画ライターの高橋ヨシキが監督・脚本に加えて製作も務めた入魂作『激怒』も愛すべきカルト映画になる素質を秘めている、と書けば何が言いたいかはわかるでしょうが要するにわりとへっぽこ映画寄りでした。社会風刺の狙いはわかる、バイオレンスがやりたいのもわかる、暴力刑事ものが好きなのもわかる…が、単純に撮り方も編集も脚本も下手だしテーマも正直幼稚に思える。アクション演出はかなりゆるく、あと中原昌也の音楽はあまり映画音楽になっておらず画面と乖離している。

これはいったいどうしたものか。へっぽこ映画でも笑えるならいいがこの映画の場合は作り手の思想が結構強めに出ているため、しかもその点に関して言えば首肯できないこともない正論っぽさがあるため、バカな映画だなわははと笑う感じにならない。かといってこれを真面目に受け止めるというのも…ちょっとこれは脳内処理に困る映画だ。面白いか面白くないかで言えば退屈はしなかったから面白い部類に入るけれども、技術的には学生の自主映画とそれほど変わらないので、1800円取ってこれでいいのかと思わざるを得ない。

この映画に関しては公開前に現場でセクハラがあっただのなかっただのと一悶着があったので(真相は不明)傑作だったらどう言い訳をしながら感想を書こうかと少々の戦々恐々があったのだが杞憂だった。正直、これぐらいの映画なら真相がなんだろうがどうでもいいよ。そりゃ当事者にとってはどうでもよくないだろうけど納得がいかなかったら当事者同士で民事に持ってって勝手に解決してください。

よかったところ? そうねぇ、町内暴力自警団はまぁまぁ怖くてよかったんじゃないですか? しかしこの自警主義の暴走というのも福満しげゆきの漫画『生活』でもっと鋭い角度から描かれていたし、暴力刑事の法に則らない暴走が自警主義の蔓延を許すという皮肉は、ただアイディアとしてあるだけで物語にまで昇華されていない。というか、撮影や音楽や美術などこの映画を構成するほとんど全ての要素がそのように見える。こうすれば面白いというアイディアはあってもそれをブラッシュアップし物語に組み込みそれぞれの要素に有機的な結びつきを生じさせるまでに至っていない。要するに未完成なのである。

巧拙はともかく映画を観まくっている人なら自分の映画を完成させようと努力はするんじゃないかと思うが、しなかったわけでは当然ないとしても、画面にそれが反映されているようには思えない。『シベリア超特急』はそれがあるので強烈に「映画」なのだが、同じ映画フリークが監督したといってもこの『激怒』の方はどうか。まぁ、そのへんはみなさんが自分の目と感性で確かめてください。俺はとりあえず寝ますおやすみなさい。

※なかなか厳しい出来なのだがスペシャルサンクスは異様に豪華でびっくりする。

【ママー!これ買ってー!】


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映画にもなりましたが映画より原作のが全然いいです。

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