【Netflix】映画観ないで感想文『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』

《推定鑑賞時間:45分》

さすがに映画を観ないで感想文を書くなどという蛮行はさしもの俺でもしたことはなかったのだがたとえば上映時間90分の映画で70分くらい寝ても普通に睡眠感想を書いたりはしていたので観ないで書いてもあんまり変わらない気がしてきた。むしろこの映画の場合は常時ながら見とはいえ139分の上映時間中45分も観てるわけだから映画館で寝た映画よりもちゃんと映画を観て感想を書いている可能性まである。そこまで行ってしまうともはや感想なにかという哲学的な問題に突入してしまうが、まぁとにかくそういうわけで、この感想のような何かを読む人はあくまでもこれが見始めて45分でギブアップした人によるテキストであることをご理解の上お読みください。いいね、ここまで俺が配慮してるんだから「お前映画観てねぇじゃねぇか!」とかいうトンチキなクレームは受け付けませんからね。まぁコメントは自由だけれども(コメント常時お待ちしております)

いやぁ…無理だったね。これは今の俺には無理だった。この監督ライアン・ジョンソンの映画はたぶん長編デビュー作になるはずの学園ノワール『BRICK』の頃から結構好きだったのだが、この映画に関してはもう45分で限界だった。荒っぽく言えばつまらなすぎる。その後にどれほど面白い展開が待ち受けているとしても始まって45分ずっとつまらないなんて今の俺には無理だ。クリスマスってことで昨日24日は『ホーム・アローン』シリーズを観ていたのでそこからのこの映画は耐え難いほどつまらない。

そんな書きっぷりでは読んでる人にぜんぜん俺の考えていることが伝わりそうにないのでもう少し立ち入って書いてみよう。まず、どうでもいいとしか言いようのない台詞が長すぎた。これは説明台詞と呼ばれるたぐいの台詞であり、その台詞を通して登場人物の性格・属性・仕事・心情・状況・社会的立ち位置や他の登場人物との関係、現在の場所、画面上で起きている(または既に起きた)出来事などが指示されるわけだが、これをクローズド・サークルのミステリーである都合一人一人やっていく。

バカじゃないかと思う。いや、これはあくまでも『ホーム・アローン』と比べたときのということなのでこの映画が好きな人は怒らないでほしいのだが、そんなに何十分もかけてくどくど説明台詞を喋らせないと設定の開示すらできないのは端的に言って脚本技術の致命的な不足でしかない。本当にこれをプロの映画人が書いているのならその人は明日引退して家電メーカーの説明書を作る部署とかに入った方がいいんじゃないだろうか。

俺がキレかけているのはなにも説明が長いからではない。そりゃまぁ説明が長いからというのも確かにあるが、面白いゲームなどはゲームにとっての説明であるところのチュートリアルだってちゃんと面白いわけで、よくできたものなどはチュートリアルとプレイヤーに気付かれることなく操作を習熟させその世界観に馴染ませてしまう。『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』にはその説明でさえ観客を楽しませるというスキルが、あるいはその気概がもう恐ろしいほどに欠如しているからダメなのだ。

これが本当にあの『スターウォーズ』シークエルで一番超面白い(異論あり)『最後のジェダイ』と同じ監督が撮った映画なのだろうか。『最後のジェダイ』はこんな風に言葉の面白さや気の利いたところの一切ない単なる観客に対するインフォメーションとしての説明台詞で何から何まで説明し尽くしてしまうようなことはなかったはずだ。文化の異なる色んな星に行ってそれぞれの星のクセモノキャラクターとかを次々と出して次はどうなるんだろうどうなるんだろうとワクワクさせられたものだが、翻ってこれはなんなのよ本当に。大丈夫かライアン・ジョンソン。相談乗ろうか? まぁハリウッド映画人の相談など俺には完全キャパオーバーだろうが一緒にマリオカートするぐらいはできるぞ。スーファミ版だが。

一応このへんで書いておこう。わかりますわかってます。どんな映画にもとは言わずとも大抵の映画や漫画や舞台劇や漫才などにはネタ振りというものがある。たとえそれがつまらなくても序盤で色んなネタの種を蒔いておいて後半で一気にそれを爆発させる…エンタメ作劇の定番ですな。おそらくこの映画はそれの極端なもので、序盤45分経ってもまだ説明台詞をくどくどと喋っていたので後半一時間は逆に超怒濤の展開になるに違いない。だからそこまで辿り着くことができればこの映画、観てないから知らんがかなり面白いんじゃないだろうか?

ただ、あまりにも説明パートが無味乾燥で俺はそこまで残念なことに辿り着けなかったというお話。説明台詞も面白くないがこの映画は少なくとも序盤45分を見る限りでは役者の面構えも芝居も全然面白くない。ダニエル・クレイグやデイブ・バウティスタ、エドワード・ノートン、ジャネール・モネイといった若手スターやベテランの芸達者が絢爛豪華に顔を揃えているのだからこれは俳優の責任ではなく演出をつける監督側の問題だろう。誰も彼もがまるでマネキンのようで劇としての面白さに乏しい。この超豪華キャスト全員をもってしても『ホーム・アローン』の名前も出てこないピザ屋の兄ちゃんよりも演技的な見所がないのだから作り手の責任は重大だ。

更に言えばベタッとして平面的な照明や起伏のないカメラワークにもなんら映画を面白くするための工夫がみられない。これは俺の想像だがおそらく、この映画ではショット単位の面白さではなくそのシーンで何が描かれているかという「説明」を重視しているので、ショット単位での面白さはかなり犠牲にしているのではないだろうか。ショット単位の面白さというのは『ホーム・アローン』でたとえるなら、マコーレ・カルキン演じる主人公のクソ生意気少年ケビンが家族親戚数十人が集まるピザ食いタイムにおいて、兄のバズに意地悪をされたケビンが衝動的に兄を押し倒すドミノ倒しが起こって食堂内大混乱、その巻き添えを食らってケビンの従兄弟である6歳ぐらいの少年フラー(演じるはカルキンの実弟である)が椅子と壁に挟まれ顔面がグシャッと潰れるのだが、グシャッと潰れるときにカットが変わってその潰れ顔をアップで撮るのである。これこそ面白いショットというものじゃないか! 同時に、面白い演出というものだ!

あまり伝わっている気がしないのだがだからですね『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』こういうのが足りないのよこういうのが、こういう面白さが。だって普通に考えて説明台詞で45分ておかしいでしょ。ちゃんと映画を面白くしようとする作り手なら『ホーム・アローン』の潰れるフラーみたいなオモシロショットは説明パートでもそれ自体はあまり説明に寄与しなくても入れるんですよ。この食堂大混乱シーンだって「なぜケビンは家に一人で置き去りにされることになったのか」っていうのを観客に理解させるための段取り、言い換えれば「説明」ですからね。でも『ホーム・アローン』を観た人はこのシーンを見てこれは説明台詞なんだなとか説明パートなんだなとか感じないでしょ。それが映画監督の腕前だし、映画の面白さなんだって。あくまでも俺が考える映画定義かもしれないけどさ。

それが『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』の序盤45分には本当にびっくりするぐらいなかったというお話。とにかく画面に出てくる人・モノ・風景、すべてが説明。説明のためだけに作られてる。こんなものはあり得ないと言いたいけど、でもこの映画評判良いみたいだし俺の感性が小学生の頃に観た『ホーム・アローン』で止まってる疑惑は非常に濃厚にある。それに、考えてみれば最近のミステリー大作の『ナイル殺人事件』だってそうだった。面白く撮るつもりがない、面白く演出するつもりがない、とにかく説明を丁寧に丁寧に丁寧にやって観客にお話を納得させる、そのことに映画に使えるリソースのすべてを費やしてる。これが今のハリウッドメジャーのミステリー映画では標準で、『ナイル殺人事件』にしたって俺は『ホーム・アローン』と比べて100分の1も面白くなかったが、それでも評判は決して悪くなかった。

ようするにこういうことだろう。今の映画の観客は、もう『ホーム・アローン』には興味がない。残念である。

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もうこのジャケットの時点で明らかに『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』の序盤45分の面白さを超えてるからね『ホーム・アローン』は。下手したら洒落たタイトルロゴだけで『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』の序盤45分より面白いもん。このオモシロ技術は今のハリウッドから失われてるわー。

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ISHIMAMI
ISHIMAMI
2022年12月27日 4:54 AM

勘が良かったですね〜!もうすぐ面白くなるはず!もうすぐなはず!まさかこの調子で進むわけない、と信じつつ最後まで見てしまいました。が、くっそつまんなかったです。面白くないのに、私の住むアメリカでは1週間だけ劇場公開していました。つまり、アカデミー賞を意識しちゃったんだと思います。この事実にびっくりしました!

匿名さん
匿名さん
2022年12月28日 1:41 PM

前作は登場人物が多すぎたせいで説明口調も控えめでガンガン進む感じで面白かったんですけどね…今回はめちゃくちゃつまらなかったですね〜!

匿名さん
匿名さん
2023年1月7日 6:37 PM

ダニエル・クレイグが出てるしNetflixのランキングにも入っててCMでもよく見るからさぞ面白い映画だと期待していたら、つまらなくてがっかり。でもつまらなすぎてそれが逆に少し笑えた。ミステリーなのかもよくわからん内容でラストも意味のない破壊が繰り返されて最後までよくわからん映画だった。