【ネッフリ】『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー』感想文

《推定ながら見時間:10分》

このタイトルはどういう意味なんだろうと思って検索をかけても今ひとつそれっぽい答え候補が上がらない。ベルベット・バズソーというのはレネ・ルッソ演じる画商が昔やってた劇中バンドの名前。アート題材の映画だし、たぶんアンディ・ウォーホルのバナナジャケットでも知られるヴェルヴェット・アンダーグラウンドのオマージュだろう。

この人の首には今でもバンドのタトゥーが残っているが、ヴェルヴェッツにオマージュを捧げるぐらいだからその頃には持っていたはずの反逆精神とか芸術至上主義は、LAの荒波に揉まれているうちにいつかどこかで売り払ってしまったようだ。

アウトサイダー画家ヘンリー・ダーガーをモチーフにしたと思しき無名画家の呪われた絵画を巡るアート怪談。癖と欲の強いアート関係者どもが次々とアートに襲われていく(比喩ではない)痛快ストーリーでこの画商も例外ではないが、アートに殉じた無名画家とアートに燃えていた過去の画商の姿を重ね合わせて、葬り去ったはずの過去が現在の我が身に復讐するという構図。

『ベルベット・バズソー』のタイトルが象徴するものはその怪談的自業自得なのだろうと思われるがそれとは別になぜバズソー? という疑問は残ったままだ。丸鋸の意だそうですが…まあ謎は謎のままにしておこう。少しぐらい謎があった方がアートの価値は高くなる、と確か劇中の誰かが言っていた。

お話。ジェイク・ギレンホールは金とセックスぐらいにしか興味はないが文才はあるので業界ではやたら名高い冷笑批評家。こいつが褒めた作家は超売れて貶した作家は檄売れなくなるっていうんで作家とか画廊とかはガシガシ擦り寄る。どうせ作品なんか投資対象ぐらいにしか思っていない貧乏金持ちどももこいつの評論を読んで札束で作品を梱包する。内容量nullの批評家ジェイク・ギレンホールを中心にLAアート市場は動いているんであった。

さてベルベット・バズソーのタトゥーをうなじに入れた画商レネ・ルッソもこいつを使って金儲けしようとする抜け目ないLA人種の一人。アシスタントのゾウイ・アシュトンに誘惑させて市場を有利な方向に動かそうとしたりとやることがえげつない。批評家ジェイク・ギレンホールはカムアウトしていないゲイなので、彼の方でもゾウイ・アシュトンを使ってヘテロを演じている面もあるようだ(ちょっと切ない)

LA人種二人に使われてゾウイ・アシュトンは下克上待ったなし。そんな折、彼女は死んだ無名画家の絵と出会ってしまう…出会うというか盗むのであるが。

いいよね盗みから始まる下克上。監督とメイン出演者が泥棒成り上がりエンターテインメント『ナイトクローラー』の人だからとりあえず盗まないと始まらねぇよみたいな躊躇いのなさ。
『ナイトクローラー』もLAが舞台ですが『ベルベット・バズソー』もLAの話だからこの監督のLA観はブレない。LAは泥棒の街だ。泥棒映画の名作『ヒート』もLAだった。

『ナイトクローラー』に比べると見るからに予算が潤沢になったので盗み及び詐欺の規模も大きくなって、あれなんてせいぜいパパラッチのジェイク・ギレンホールとほか二三人ぐらいしか泥棒人種が出てこないが、こっちはもう全員盗むし全員騙す。全員が金になるものはないか金になるものはないかとハイエナの如く目を光らせている。出てくる業界関係者全員が泥棒と言っても過言ではない。ある意味『オーシャンズ11』みたいな映画である。

呪いの絵を巡る盗んで盗まれて出し抜いて出し抜かれての泥棒模様はブラックユーモア濃厚。したがってスーパーナチュラル要素もあるにはあるがあんまり怖いものではなかった。現代アートの展示会場の死体が作品と勘違いされて何時間も放置されるとか悪趣味で最高である。死ぬのは大体ろくでもない奴だからさほど良心の咎めを感じずに死を楽しめるというのもポイント高しだ(観る側も悪趣味である)

その死の光景というのがまた良かったなぁ。なんていうか雑で。お金がある映画なので実際に色々と絵画とかインスタレーションとか作っちゃうんである。それでその美術の人たち入魂のセットとか小道具とか使ってなにするかってすごい捻りのない雑な殺しをやる。

アートが襲ってくる映画なんだからもっと捻った死を演出してやればいいのにって思うんですけど、こんな立派なアートを使ってこんな雑なことをしてるっていうサディスティックな俗悪感が実にこう、味わい深く…なんかポエム系イタリアンホラーみたいな趣を感じましたね。マリオ・バーヴァとかルチオ・フルチとかレナード・ポルセッリみたいな映画作家の。

屈折したジェイク・ギレンホール、餓鬼ならぬ画鬼と化すレネ・ルッソ、欲望に忠実なゾウイ・アシュトン、そして巻き込まれる可哀想な人たちとなにやら達観した画家ジョン・マルコヴィッチの置物っぷり。みな俗物的にキャラが立っていてよろしい。誰が次に盗むか死ぬかわからん邪悪なわくわく感があった。

意匠は当世風っぽいが手法としてはむしろ古典的なタイトルバックのアニメーションも最近こういうタイトルバックをあんま見ないので新鮮で面白かったが、一番良かったのは『リング』的なシリアスな呪いの拡散を身も蓋もないブラックなジョークにしたところ。
LAでは呪いにすら値段が付けられる。色んな意味でひでぇなぁと思うことしきりな映画だったわけですがひどいものを好くスノッブなので好感度高かったです。

このひどさはアート市場の空虚に飲まれて己のベルベット・バズソーを失ってしまった人間たちへの憐憫の眼差しに根ざしたものと思えたので、その哀感が。

【ママー!これ買ってー!】


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追悼ディック・ミラーということでディック・ミラーが主演を張ったユーモラスなアート殺人映画を。

↓ほぼ姉妹編


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